EP77 悪意の胎動 (前編)
グラビアの撮影で沼津を訪れた義人と美浦。
義人は、この日が美浦の誕生日であることを知ったうえで、最高のナイトパーティーを美浦にサプライズ!
義人と美浦の絆は、ますます強くなっていく。
シン・評議連合本部。
夏の空気も入らぬ密室で、ただ事務机のランプだけが淡く光っていた。
「……到着したそうです」
倉田の声は、いつになく震えていた。
興行解体が雇った──クルド人工作員の一団が、日本の地下へ滑り込んだという報告だ。
「決行よ」
対馬は、紅茶をひと口味わう程度の軽さで答えた。
「若者を“消費”させる祭典なんて、未来を腐らせる毒ですもの」
倉田が慎重に言葉を選ぶ。
「……しかし、もし警察の初動が早ければ──」
「倉田くん」
対馬は、微笑みながらも瞳だけは氷のように冷たかった。
「彼らは“跡を残さない”ことで生きてきた人たちよ。失敗はしないわ」
その横で、俊永が明るい声を上げた。
「対馬さん、爆薬ルートもバッチリっす! あっちの倉庫にストック!」
「ありがとう、俊永ちゃん」
「えへへ」
呑気なふたりとは対照的に、倉田だけが沈んだ影を落とす。
(……クルド勢力は最近、国境規制が厳しい。
本当に“抜けられた”のか……?)
その迷いを読み取ったのか、対馬が言った。
「慎重すぎるのよ、倉田っち」
「俊永。リスクというものは──」
「わかってるって。頂戴女子やってた頃の方がヤバかったよ」
俊永は気楽にメイクを直し、対馬はそれに笑みを漏らす。
「男に媚びてるとろくなことがないという学びは、あなたにとって宝ね」
「だからフェミ仲間になれたんですってば!」
そんな軽口を叩く二人の横で──。
『……倉田さん。クルド工作員の皆さんが“焼肉セット、最高だった”と村澤先生にお礼を言いたいそうで』
興行解体からの電話が入った。
「ありがとうございます。先生に伝えます」
倉田は電話を切りつつ、深いため息を漏らした。
(……贈賄みたいなことを、軽いノリでするな……)
だが次の瞬間、対馬が声を上げた。
「先生、そろそろ政見放送の収録の時間じゃなくて?」
村澤かずおが静かに立ち上がる。
「ふむ……参院選見送りの理由を述べる必要があるか」
倉田・対馬・俊永に囲まれて、簡素なスタジオへ向かう。
「倉田くん、カメラはこう構えるの」
「対馬さん、こだわりが……」
「ほら、撮れ高ってやつ教えるから!」
「こらこら」
かずおが苦笑しながら三人を諫めた。
撮影開始。
「皆さんこんにちは。シン・評議連合代表、村澤かずおです」
淡々と語るその声が、どこか異様な静けさを帯びている。
「今回の参院選は……“見送らせていただきます”。
我が連合への風当たりが強く、予期せぬ妨害を懸念したためです」
収録が終わり、5分休憩。
「お疲れ様です。このあとラジオ収録も入れておきますね?」
「音声だけなら危険が増すやもしれんが……良いだろう」
倉田が焦る。
「しかし先生、計画に悪影響が──」
「構わんさ。ケーニッヒ次期大統領への牽制になればいい」
それは、あまりにも軽い言い方だった。
俊永がPCの画面を見せる。
「対馬さんが潰したコンカフェ動画と、興行解体の逮捕動画……先生の“メッセージ”に合うのを選んでおきました!」
「あら、もっといい素材あったと思うけど?」
「メッセージ優先したら、こうなったの」
「はいはい、揉めないで。中国大使館が待っている」
かずおは、今日の最後の予定を告げた。
──在日中国大使とのディナー。
車に乗り込み、古いレゲェを流しながら向かう。
「素敵な曲ですわね。今の若者向けソングは耳障りで」
「いや、Aポップとか世界で大人気だし!」
俊永の声も、対馬は笑って流す。
「イケメン男子なんて、女性をトロフィー扱いする権力の象徴よ。
フェミニズムの観点からは、抹消すべき文化だわ」
「イケメンアレルギー……ですか?」
「そうよ。私たちフェミは皆そう」
異様な会話が続くなか、車は静かに中国大使館へ到着した。
迎えたのは、中国人民統制会の若手代表──
「二年ぶりですな、村澤氏」
信李魚。
薄く笑うその目は、すべてを見透かしているようだった。
「信代表、ご足労いただかなくても」
「なに。──“ブラッディ・イヴ計画”を、アメリカに潰されるわけにはいかないのでね」
対馬が息を呑む。
倉田の背筋が凍る。
(……やはり、信代表までも……)
かずおは薄く微笑み返した。
「では──始めましょうか。
世界を変える“イブの夜”のために。」
部屋の空気が、誰にも気づかれないほど静かに歪んだ。
その歪みこそが──
巨大な闇が動き始めた証だった。
次回は李魚とかずおが密談。
そして、義人と美浦はTGBMGCに向けてランウェイを意識したレッスンに?




