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アリシアはその後、本当にスカーレットと友達になった。甘やかされて育った彼女だが、欠点を正そうとする素直さがある。アリシアにとってこの世界で初めての女友達だ。


それに……


「法律の勉強はとても楽しいの。週に一度王宮で新人の法務官の方に法律を教えてもらっているのよ。とても分かりやすい講義で毎週楽しみなの」


スカーレットの言葉を聞いたアリシアは思わず叫んだ。


「羨ましいですわ! 私ももっと法律の知識を勉強したいと思っていたんです!」


つい本音が飛び出してしまった。


法務官のカラムと一緒に指紋捜査の導入について何度も話し合っているが、その度に付け焼刃的な知識ではなく、ちゃんとした法務を学びたいと感じていたのである。


それを聞いたスカーレットは目を輝かせ、気がついたら彼女と一緒に毎週法務の講義を受けることになっていた。


スカーレットと並んで講義を受けるのは楽しい。新しい知識を得る喜びを異世界で知ってしまったアリシアにとって願ってもない経験だったが、スカーレットの邪魔をしている気がして申し訳ない。


そう言うとスカーレットは笑って一蹴した。


「一緒に勉強できるお友達がいると励みになります。怠けられなくなるし!」


アリシアとスカーレットは順調に友情を育み、あまりに意外な組み合わせに王宮の令嬢たちの間で様々な噂や憶測が飛び交ったことは言うまでもない。


*****


そんな中、ギャレット侯爵家の騎士団と近衛騎士団の合同演習が行われることになった。


翌月に、隣国のスコット王国の代表団が我が国を表敬訪問する予定がある。しかもスコット王族が代表団の団長を務めるらしい。当然厳重な警備が必要になる。


現在のギャレット侯爵夫人はスコット王国の王族の出身である上に、ジョージ・ギャレット侯爵は外交担当大臣を拝命している。


訪問時の案内役も務める予定なので、警備の一部をギャレット騎士団と近衛騎士団の共同で行う場面がある。


そのための合同演習であるが、まさに渡りに船ということで、ブレイクはアリシアを連れて合同演習の視察に参加することにした。


アリシアを殺そうとした人間を見つけることができるかもしれない。


「ま、そんなに簡単には見つからないだろうけど、やってみないことには始まらないからね」


肩に力の入るアリシアの緊張をほぐすようにブレイクが微笑んだ。


***


合同演習はギャレット侯爵邸で行われ、第二王子ブレイクは公務として視察することになる。まさか、そんな公務に単なる伯爵令嬢が出しゃばれるはずもない。


なので、アリシアはブレイク一行の女官の振りをして同行することになった。


ブレイクとは別の馬車で、本物の女官であるメアリと一緒に馬車に揺られながら窓の外を眺めていると、演習に参加する近衛騎士団の旗が見えた。


騎士団長の脇にピッタリとくっついて馬を走らせているのはジョシュアだ。


一際背が高く逞しい体躯なのですぐに分かる。久しぶりに見る凛々しいジョシュアの姿にアリシアの目の奥が熱くなった。


しかし、今は浮ついた気分ではいられない。


アリシアは同乗しているメアリの方に顔を向けて質問をした。


「メアリ様。視察の間の女官のお仕事というのはどのようなものなのでしょうか?」


メアリは淑やかで上品な女官で、子爵令嬢なのだという。以前は王妃付きだったが、五年前からブレイクに仕えているそうだ。


彼女の落ち着いた物腰や穏やかな微笑みに純粋に憧れの気持ちを抱いた。


アリシアがお忍びの伯爵令嬢であることもメアリには伝えているが、それをまったく態度に出さず自然体でいるところにもプロらしさを感じる。


「そうですね。侍女は身の回りのお世話をさせて頂く役目ですが、女官というのは殿下の個人的な通信や事務手続きなどのお手伝いをします。視察中は特に決まった業務がある訳ではないので、ブレイク殿下の傍で控えているだけでよろしいですよ。騎士団関連の過去の記録や統計などは準備してありますので、殿下が必要な時にお伝えするのが主な仕事でしょうか。大切な用事がおありだと伺っていますので、アリシア様は自由になさってください。私でお役に立てることがありましたら、お知らせくださいね。それから、どうかメアリ、とお呼びくださいまし」


大人びた優しい微笑みと分かりやすい説明に彼女への好感度が爆上がりした。


「あ、ありがとうございます! では、私のこともどうかアリシアとお呼びください」

「まぁ、それは恐れ多いですわ。私は女官ですから……」


メアリの言うことは尤もなのだが、異世界で多少押しが強くなったアリシアは諦めない。


「いいえ、ぜひ! ぜひ! よろしくお願いいたします! 厚かましいとは思いますが、その……嫌でなかったら」


アリシアが必死に訴えるとメアリの目尻が優しく下がった。


「分かりました。ありがとう。アリシア」


アリシアの表情がぱぁっと緩む。二人は顔を見合わせて微笑み合った。

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