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アリシアとブレイクの新しい魔道具作りは順調に進んでいた。
涼に似ているブレイクは驚くほど話しやすい。彼の気さくな人柄もあるが、以前だったら王族に挨拶するのも怖気づいていたアリシアが気安くお喋りできるのは、やはり涼と外見が似ていることが大きい。
だが、それがジョシュアにあらぬ誤解を招いてしまったことにアリシアは気づいていない。
アリシアが王宮に来て以来、ジョシュアと顔を合わせる機会は完全になくなった。
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王宮での生活に慣れた頃、アリシアが廊下を歩いていると誰かに呼び止められた。
振り返ると高位貴族の上衣を纏った年配の男性が優しそうな笑顔を向けていた。その隣には、若い令嬢がプイと顔を背けて立っている。
二人とも燃えるような赤毛が印象的な美男美女だ。
その令嬢には見覚えがあった。
スカーレット・ギルモア侯爵令嬢だ。
何度か王宮でのお茶会で一緒になったが会う度に嫌味なことを言ってきて、アリシアは苦手だと思っていた。
アイの日記には嫌味を言われてキツク言い返してやったと書いてあったが、具体的にどんなことを言ったのかまでは分からない。
しかし、今日の彼女は顔を赤くしてそっぽを向いているものの、いつものような権高な態度ではない。
それに以前よりも地味なドレスを着て、珍しく数冊の本を胸に抱いている。
「君はアリシア・スウィフト嬢だね? うちの娘が世話になった。私は息子には厳しくしたんだが、つい娘には甘くなってしまって……。我儘な娘を注意してくれたと聞いて感謝していたんだ。本当にありがとう」
温厚そうな男性に頭を下げられて、その男性がギルモア侯爵であることを知る。
高位貴族だし、公爵家と近しい血縁関係だと記憶している。当然名前は知っていたが、実際に面と向かって会うのは初めてだ。
アリシアは美しい礼をして、完璧な挨拶をした。
「御目文字できて大変光栄でございます」
「さすがだね。法務官の間で評判になるだけのことはある」
ギルモア侯爵から褒められてアリシアは戸惑った。
なんのことだろう、と目をパチクリさせるとギルモア侯爵がぷっと噴き出した。
「私は王宮で法務担当の大臣をしていてね。部下が、君とブレイク殿下と一緒に面白いことをしているという話は聞いているよ。カラムは知っているだろう?」
カラムは指紋を使った犯罪捜査の法整備でお世話になっている法務官だ。
「カラムがアリシア嬢のことを大絶賛していてね。他の法務官が彼に嫉妬しているくらいだ」
ギルモア侯爵はニコニコと微笑んでいるが、アリシアは顔を赤らめた。
「いえ、そんな……。こちらこそ至らない点を、カラム様に助けて頂いております」
「それに、君のおかげでスカーレットが変わった。『実るほど頭を垂れる稲穂かな』という言葉は素晴らしいね。スカーレットは何もできないのに偉そうに振舞っていたことを反省してね。自分から勉強したいと言い出したんだ。アリシア嬢にはずっと御礼を言いたいと思っていた」
「いえ、そんな……たいしたことは言っておりません」
アリシアは内心冷や汗たらたらである。
「君は謙虚だね。ますます気に入った。是非これからもスカーレットと仲良くしてやってくれ。今度は是非うちの屋敷にも来て欲しい」
そう言って爽やかに笑うとギルモア侯爵は去っていった。
何故かスカーレットと二人きりで残されたアリシアは焦りつつ、彼女に話しかけた。
「あ、あの……何の勉強をなさっているのですか?」
スカーレットは最初アリシアの顔を見ようとはしなかったが、黙って持っていた本を前に差し出した。
『官吏になるための法務入門』
法律関係の勉強をしているようだ。
「まぁ、素晴らしいわ! スカーレット様は侯爵のお手伝いをされたいのですね!」
アリシアの言葉にスカーレットは照れたようにコクリと頷いた。
(素直! こんな可愛い子だったの!?)
今までとは正反対の彼女の態度にアリシアは感動する。
「お父さまもお兄さまも法務部門でお仕事をしているの。今までは女が仕事の話に入るなんて生意気で嫌われると思っていたんだけど、お父さまたちはとても喜んでくれて……」
「そうよね! とっても偉いわ! 私、スカーレット様を尊敬致します!」
「……そ、尊敬? 頭が空っぽとか言ってたくせに?」
(ああ……アイさん、そんなことを言っていたの?!)
「あ、あの……ごめんなさいね。失礼なことを言ったと思うわ」
アリシアは素直に頭を下げた。
スカーレットが目を瞠る。
「ううん。何の実績もないのに偉そうにしてるって言われて、言い返せなかった。本当のことだったから……。あなたにも沢山意地悪を言ってしまって……本当にごめんなさい!」
深々と頭を下げられて、アリシアは驚いたが嬉しくなった。
「こちらこそ! ねぇ、良かったら、これから仲良くなれたら嬉しいわ。お友達になってくれる?」
アリシアが尋ねると、スカーレットが頬を赤くして顔をほころばせた。




