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第41話 三百個への道・課題と改善

翌朝。

 焼き立ての香りと温かな空気が漂う麦猫堂で、

 私は帳簿と格闘していた。


(三百個って……数字だけ見ると途方に暮れる)


 三日間で百五十売ったとはいえ、

 あれは全力全開の出張販売だった。


(あんなの毎日は……無理)


「エリ、深刻な顔だね」

 ハンナがパン生地をこねながら覗き込む。


「すみません……三百という数字が、

 どうやれば届くのか……」


「そりゃあ、一気に三百って考えるからでしょ。

 一日にすると十個ちょいだよ?」


(あ……そうか)


 一日十〜十五。

 そう考えると、不可能ではないように思えた。


   ◇ ◇ ◇


「お嬢様」


 背後から静かな声。

 セシルだった。


「課題を拝見しました。

 三百個達成のために、いくつか案をまとめました」


「もう……?」


「ええ。昨夜のうちに」


 差し出された紙には

 整然とした文字が並んでいた。


 ――販売効率の改善

 ――動線の調整

――商品の強みと弱みの分析

 ――顧客層別のアプローチ


「セシル……こんなに……」


「エリが目標を持ったのだから、

 その道筋を示すのは執事の務めです」


 淡々とした口調なのに、

 どこか誇らしげに聞こえた。


「まず、陽だまりパンの『売れる理由』を整理しましょう」

 セシルが続ける。


「甘すぎず食事にも合う。

 柔らかいが、崩れにくい。

 そして、あなたが作る時だけ生地のまとまりが良い」


「え……私が?」


「はい。三日間、横で見て確信しました」

 セシルの瞳がまっすぐに私に向く。


「これは技術ではなく、生地との相性です」


(そんな……私に、そんな長所が……?)


 胸が少し熱くなる。


「そして問題点もあります」

 セシルが淡々と続けた。


「エリは販促時に声が掠れやすい。

 また、一度に抱え込む性格のため、疲労が蓄積しやすい。

 その結果、午後に販売効率が落ちます」


「うっ……」


「ですので、午前のうちに重点的に売り、

 午後は店舗周辺で無理のない範囲で販売する形に」


(そう言われると……確かに思い当たる)


「さらに」


 セシルは表の一番下を指差した。


「エリが無理をすれば、数字は伸びても、

 三百個に到達する前に倒れます」


「…………」


「ですので、これは重要です」


 紙の最後の行に書かれていた文字。


 ――エリの体力管理最優先


「た、体力管理が最優先なんですか……?」


「当然です」

 即答だった。


「あなたが倒れれば、全てが止まります。

 数字より何より、あなた自身が最重要です」


 胸の奥がじんわり熱くなる。


(こんなふうに言われたら……頑張るしかないじゃない)


「ありがとうございます、セシル。

 なんか……すごく道が見えてきました」


「ええ。三百は大きな数字ですが、越えられます」


「頑張ります!」


「共に、です」


 その言葉が、柔らかく背中を押してくれた。


   ◇ ◇ ◇


本日の収支記録

項目内容金額リラ

収入通常営業の日給+25

収入陽だまりパン指名販売(少量)+10

合計+35

借金残高23,083 → 23,048リラ


セシルの一口メモ

大きな数字は、分解すれば小さな数字の積み重ねです。

焦らず、一歩ずつ積み上げていきましょう。

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