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40. 結末




 高い天井に、白く輝く壁。

 太い柱が一定間隔に並び、その柱と柱の間には素人目でも高価であると分かる調度品が置かれている。

 足元にはふかふかのカーペットが敷かれ、一歩踏み込む度に靴が僅かに沈む。


 絢爛豪華な長い廊下が続き、私はビクビクしながら歩いていた。


「……あの、今更なんですけど。私、制服姿でいいんですかね?」

「ふふ、問題ありませんわ。陛下はそういうことに頓着しませんもの」


 そう言うエレノアだったが、彼女はちゃっかりドレスに着替えていた。


 ――ずるい。

 まぁ、もっとも私の場合、制服以外の正装なんて持っていないのだけれど。


 ちなみにエリオット王子とクラウス先生は先に王に面会しているらしく、今はエレノアと私の二人だけだ。


 よくお城に来ているのだろう。エレノアは迷うことなく城の奥へ奥へと進んで行く。

 そして謁見室の前へと辿り着いた。

 部屋を守る衛兵が私たちを確認して、その扉を開けた。

 

 ――うぁ、緊張する。


 私は緊張のあまりギクシャクとしながら、エレノアの後に続いて謁見室に足を踏み入れた。

 

 広い謁見室は廊下から続くカーペットが真っ直ぐに敷かれ、その奥に玉座があった。


 ――あれが王様か。


 玉座の横にはエリオット王子とクラウス先生が控えていた。

 二人とも学園にいるときは違う正装に身を包んでいる。

 特にローブ姿でないクラウス先生なんて新鮮だ。


 エレノアは陛下の前で足を止めると、優雅にドレスに裾を持って腰を折る。

 その様子を見て私も見様見真似で礼をした。


「面をあげよ」


 王の言葉に恐る恐る顔を上げる。


 玉座に座るのは温和そうな顔つきをしたイケおじ系の王様だった。

 オールバックに整えた金髪と優し気に笑う紫の目で、顔立ちはエリオット王子とそっくりだった。


 ああ、王様って確かにこんな顔だったな。

 エリオット王子のハッピーエンドルートのエンディングのスチル絵にいたことを思い出す。


「其方がアリアか」

「は、はい」


 王様に見つめられ、ドキドキと心臓が鳴る。

 王様が私のような庶民に一体、何の用なんだよ!?


「うむ。話には聞いていたが、平凡な顔立ちだな」

「……」


 突然、ディスられた。

 

 いや、私が平凡なのは事実ですけど!?

 酷くない?

 ――って、その前に、話に聞いていたって何のこと?

 クラウス先生、王様になんて報告してたの!?


「ははは。冗談だ。そう畏まることはない」

「……は、はぁ」


 そんな冗談はいらないです、王様。


「この度の魔王ルシフェルの騒動。大変だったな。聞くところに寄れば、其方を狙い、連れ去ろうとしたそうではないか。無事で何よりだ」

「も、勿体ないお言葉です。ーーあ、あの、魔王はまた来るのでしょうか?」


 恐縮しつつ、私は気になっていたことを思い切って訊いてみた。

 王様は私の問いかけに気分を害することなく、「心配はもっともだ」だと言って頷く。


「だが、エリオットの光魔法によって相当のダメージを負ったとみえる。前の戦争から今まで長い年月、魔界に篭っていたことを考えると、今回もまた暫くは魔界にいるだろう。警戒はするが、恐らく数十年は人間界には来ないと見通しを立てている」

「数十年……」

「数百年かも知れないがな。なんせ、魔族と人間では歳を取る感覚が違いすぎる」

「な、なるほど」


 言われてみれば確かにそうだ。

 じゃあ、私が生きている間に魔王が来る確率は低いってこと?

 

「安心したか?」

「は、はいっ」


 ホッとする私に王様は頷き、コホンと咳払いをして、姿勢を正す。


「さて。本題に移ろう。ーーこの度、其方を呼んだのは、一度礼を言いたかったからだ」

「礼、ですか?」


 ――王様が私に?

 何で!?


 驚く私に陛下は横に立つエリオット王子に目を向けて言った。


「クラウスから愚息の行いについての報告を受けておる。いつまでも王族として自覚を持てなかったエリオットを改心させたのは其方だとな」


 王様の遠慮のない物言いに、エリオットが頬を引きつらせる。


「このどうしようもなかったエリオットを魔王と対等に戦えるほどまで成長させた其方の功績は大きい。改めて礼を言う」

「そ、そんな……礼なんて」


 そこまで愚息の行動知っているなら、そっちでなんとかして欲しかったと正直思う。

 しかし、改心して努力をしたのはエリオット自身だし、そこまで礼を言われるほどのことはしていない。

 わざわざお礼を言われるなんて畏れ多いよね。


「エリオットも其方のことを気に入っているようだし、どうだ? 褒美としてエリオットの側室にでも」

「っ!?」


 エリオット王子とエレノア嬢がいる前でとんでもないことを言うなっ!

 ほら、二人とも顔色が青くなっているじゃないか!


「陛下! 大変有難いことですが、丁重にお断り致します。エリオット殿下にはエレノア様という素晴らしい未来の伴侶がおりますので、私のような者がお二人の間に入ることはできません」


 私がキッパリと断ると、視界の隅でエリオットとエレノアが安堵に表情で頷いていた。


「ふむ、そうか。……では、デイヴィスのところの子息はどうだ? 確か報告には彼の起こした騒動にも深く関わっていたとあったな」


 ……デイヴィスの子息って、リディックじゃないかっ!


「お断りします!」


 私は即座に答える。


 冗談ではない。

 いくら性根が少しは治ったといえ、あのリディックと結婚なんて嫌だ。


「じゃあ、ハリスのところの子息はどうだ? ジョシュアと言ったかな。将来有望の魔術師だぞ。光の加護持ちの其方とはなにかと気が合うのでは?」


 ……今度はジョシュアかい!?


「お断りします!」


 私は間髪入れずに答えた。


 何でそうなる!?

 確かにジョシュアは可愛いし、友達も増えてヤンデレ要素が無くなったとは言え、それは無い。


「それもダメか。おおっ、宰相のところの息子もいたな」

 

 だー、かー、らー!

 今までフラグをへし折ってきた私の努力を無駄にする気か、この王様っ!

 話を蒸し返すなっ!

 

 思わず、王様相手に叫びたくなったが、立場が立場なだけにグッと堪える。


「いいえ。陛下。そちらもお断りさせていただきます」

「そうか? ……ふぅむ、他には」


 まだ居るんかい!?

 もう、いいわ! 誰か止めて!


 ツッコミそうになる私だったが、それより先に王様の言葉を止めたのはエレノアの叫びだった。


「酷いです、陛下っ!」


 えっ?

 突然、横から割り込んで発言をするエレノアに私は驚きの目を向ける。

 何故かエレノアは目に涙を浮かべて、震えるように陛下に進言した。


「アリアにはお慕いしている殿方がおりますのに、そんな仕打ちおやめ下さいませっ!」

「……え、エレノアさま?」


 ちょ、ちょ、ちょっと、待ったっ!

 いきなり何を言い出すかと思えば、それはいけないっ!


「エレノア様、それダメ!」


 慌てふためく私を尻目にエレノアは爆弾を投下する。


「アリアはクラウス様をお慕いしているのですよっ!」


 ――チーン。


 はい、死んだ……

 私の心は今、死んだ。


 身から出た錆とは言え、こんな展開になるとは予想だにしなかった。


 まさかの王様の前での爆弾発言。

 しかもクラウス先生本人がいる前で……。


 ――ああ。

 どうして今までチャンスはあったのに、彼女を誤解させたままにしていたのだろうか。

 馬鹿馬鹿、私の馬鹿!

 

 エレノアの発言に場が一瞬静まりかえった。

 そんな凍りついた空気を打ち破ったのは、陛下だった。


「ふっははは。そうか。そうか。この朴念仁とはな」


 心底可笑しそうに王様は笑う。


「中々、目の付け所がいいじゃないか。どうだ? クラウス。お前もとうとう身を固める時が来たんじゃないか」


 それはそれは楽しそうに陛下は横にいるクラウスに訊く。


 ――王様っ!?

 勝手に話を進めないでっ!


 冷や汗だらだらの私は目を見開き、必死で首を横に振って、クラウスに誤解ですとアピールする。

 勝手に話を進められるなんて冗談じゃない!

 誰か、このクソ親父を止めてくれ!


 果たして私の必死の無言アピールを察したのか分からないが、クラウスは玉座に座る王様に苦言した。


「まだ成人もしてない子供に対してどうもこうもありません、陛下」


 ああ、クラウス先生!

 ありがとうございます!

 さすが先生、分かってる!

 大好き!

 いや、恋愛的な意味ではなくて。


「全く、これだからお前は頭が硬いな。今すぐに結婚しろなんて言ってないだろうに。成人するまで婚約の形を取ればいい。お前を好いてくれる女なんて早々居ないぞ。逃がさないよう後見人にしたらどうだ」


 後見人!?

 おおお、王様、勝手に話を進めないでよ!

 私は再度首を横にブンブンブンと振ってクラウスにアピールした。

 

 ――しかし。

 

「まぁ、婚約云々の話はともかく、彼女の後見人になることは構いません」


 はい?

 く、クラウス先生?


 唖然とする私に目を向けたクラウスは口の端を上げ、それはもう不敵な笑みを浮かべた。


「確かに彼女は色々と興味深い人物ですからね」


 眼鏡の奥に光る目が獲物を捕らえるかのように私をロックオンする。


「ひっ。……く、クラウス先生? 一体何を……」

「とりあえず、彼女は私の弟子として育てたいと思います」


 クラウスは私の意思も聞かずに勝手に陛下に進言した。


「ちょっと!? ――クラウス先生!?」

「ほう。弟子か」

「ええ。彼女には先を読む力や人を巻き込む影響力があるようですし。光の加護という希少な力をまだ発揮できていないですが、見込みはあると思いますよ。これから鍛え上げれば、十分に才能が開花できると思います。とても育て甲斐がありそうです」

「ほう。お前がそれだけ見込むと言うことは、かなりの逸材だな」


 おいおいおいっ!

 なんか勝手に話が進んでいるんですけど!??

 私、そんな凄くないから!?

 何より先生に扱かれたくないから、やめて!!! 


「では、アリアよ。これからお前はこのクラウスの元で精一杯励むといい。もし、私の力が必要な時は遠慮なく言うといい。これまでの功績を讃え、力になることを約束しよう」


 ニコニコと王様は満足そうに言い、生暖かい目で微笑むエリオットとエレノア、そして怪し気な笑みを浮かべるクラウスに囲まれ、私はなす術なくその場に固まるのだった。




 ――な、なにこれ。


 乙女ゲームとしてフラグは無事に折ることができたのに、何だか飛んでもない方向に話が進んでいる気がするのは、気のせいじゃないよね!


 え?

 これ、もしかしてエンディングに当たるの?


 何エンド???

 何エンドになるの???

 諜報員の弟子エンド???

 それってどんなエンディングなのよっ!


 なんだか分からないけど、大変なことになっちゃた気がする〜!!!


 私の平穏な未来はどこへ行っちゃったの〜〜っ!






(おわり)

これにて完結です。


最後まで読んでいただきありがとうございました!

評価やブックマーク大変嬉しいです!

最後まで書き上げられたのも読んで下さった皆様のおかげです。

ありがとうございました。

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