39. 正体
魔王の膝が地面に着く。
「こ、こんなはずでは……」
エリオット王子の光魔法を食らったルシフェルは息も絶え絶えに、しかしそれでもまだ生きていた。
「くっ。人間どもめ……。覚えていろよ」
ルシフェルが呟くと、その足元が淡く光った。
「……あれは。まずい、逃げる!」
誰かが叫ぶも、生徒たちが動くよりも早く、ルシフェルの魔法の方が一足早かった。
ルシフェルを中心に閃光が放たれ、思わず顔を覆う。
そして、次に顔を上げたとき、そこには魔王ルシフェルの姿は無かった。
「――嘘。消えてしまった」
あと一歩のところで魔王を打ち倒すことが出来なかったショックに愕然とする。
――そんな。
もう少しでトドメを刺せたのに。
今、ここで逃してしまったら、また彼はやってくるかもしれない。
いづれ来るかもしれない恐怖を想像して体を震わす私に、クラウスが慰めるようにポンと肩を叩いた。
「こればかりは仕方ありません。でも魔王に相当なダメージを与えたはずです。暫くは人間界にやって来れないでしょう。ここは我々の勝ちですよ」
「……先生」
クラウスが優しく微笑み、窓の外に視線を向ける。
その視線を追うように空を見上げれば、今まで覆っていた厚い黒い雲が晴れていき、明るい青空が広がっていった。
――――――
その数日後。
魔王との戦いで生じた後始末に奔走する学園は、しばらくの間、休校となった。
校舎も直さなくてはいけないし、何より数百年ぶりに魔王が復活したのだ。エリオットの光魔法によって魔王は撤退したものの、王室や貴族たちは慌ただしくその対策に追われている。
それにより貴族の子息令嬢が通うこの学園も少なからず影響があり、授業再開はもう少し時間がかかりそうだった。
そんな中――。
貴族たちの忙しさなど全く関係ないはずの私は、エリオットとエレノアに連れられて何故か王都へ向かう馬車に乗っていた。
そして何故か馬車にはクラウス先生も同乗していた。
「……あ、あの。私は一体何処へ連れていかれるのでしょうか」
今朝、学園寮で寝ていた私は、突然やってきたエレノアによって起こされ、碌な説明もなしに馬車に乗らされていた。
「お城ですわ」
向かいに座るエレノアが答える。
「……はっ? ……お城?」
「エレノア? もしかしてアリア君に説明していなかったのかい?」
驚く私を見て、エリオットが隣に座るエレノアに言った。
「あら。うっかりしてましたわ」
「……エレノア様。いや、それよりも! どうして私がお城へ!?」
「父上が君に会いたいと仰ってね」
「父上って……、王様が!? いやいや、結構です! 私みたいな平民が陛下に謁見なんて畏れ多すぎます!」
「王の勅令に逆らうことはできませんよ」
私は必死に断ろうとするが、勅命の言葉にピシリと固まる。
――はい?
なんだこの展開!?
魔王戦が終わり、全ての攻略対象キャラのイベントが終了した今、これ以上シナリオイベントは無いと思っていた。
え? 待って?
隠しイベントとか他の追加イベントなんて無かったよね?
シナリオライターの私に隠れてそんなの作ってないよね?
それ以外に考えられるのは、魔王戦のように私がシナリオを外れて行動した結果、別の何かが起こっているという可能性だ。
魔王戦だって、本来なら光の神子である私が魔王を打ち倒すシナリオだったのに、何故か攻略対象キャラたちが大活躍の学園を巻き込んだ戦いとなったわけだし。
王様が私を呼ぶのも、これに似た現象ということだろうか?
「そもそも。エリオット殿下とエレノア様が居るのは分かりますが、何でクラウス先生も一緒なのですか?」
私は隣に座るクラウスを見ながら、気になっていたことを訊く。
「其方、気づいていたのではなかったのか?」
私の質問にエリオット王子が目を丸くして、クラウスと私を交互に眺めた。
――へ?
何が?
「クラウスは父上直属の諜報員だ」
――――――ちょうほういん?
「……諜報員って、スパイってこと!? ――っ! 痛っ!」
私は驚きのあまり立ち上がろうとして、馬車の天井に頭をぶつけた。
「アリア!?」
「大丈夫か?」
「イタタ。……い、いえ。大丈夫です……」
私はぶつけた頭を押さえながら、再び椅子に座る。
ーークラウス先生がスパイ。
いや、薄々は気付いていた。
ただの学園の講師にしてはあまりに情報通だった。特にエリオット王子の周りに関しては特に目を光らせていたように思える。
協力をお願いすれば応えてくれるが、自分からは動く事なく、常に傍観者の位置付けにいることが怪しかった。
そして私が動けば、興味深そうに観察し、起こった騒動を楽しんでいた節があった。
そのことから、てっきり偉い貴族の人から命じられた監視役や何かとは思ってはいたのだが……。
まさか王様直属のスパイとは……。
――もしかして、やけに私に協力的だったのも、私が光の神子だからか。
平民の身分で加護を持った人間はあまりに稀有な存在。
そんな人間が王子本人や彼に近い存在に近づけば、直ぐに王様に報告する必要があるのは当然だろう。
将来国を担う第二王子とその婚約者。
その王子の近衛騎士であり、騎士隊長の息子。
類稀なる才能を持ち、将来有望視された闇の加護持ち。
宰相の子息であり、これまた将来期待されている秀才。
どの人物もこの国の未来にとって重宝される人物である。
光の神子という存在が彼らに関わることで、彼らがどう行動するのか見ていたというわけか。
なるほど。
全て合点がいく。
だからこそのヘルプキャラという役割か。
でも――。
ヘルプ機能のキャラクターにそんな裏設定があるとは思わんだろう!
そんな重要な裏設定あるなら脚本家にも教えろ!
クソっクライアントぉぉお!
「そんな目で私を睨まないで下さい。アリアさん」
「先生……。今まで王様になんて私のことを報告していたんですか? ――はっ! まさか、今まで散々騒動起こしまくったから国外追放とかないですよね!?」
「……」
「意味深に微笑んでないで、何とか言ってください〜〜! 先生っ〜〜!」
最終話の予定でしたが、長くなったので話を分けます。
次で終わりです。(本日中に上げます!)
お読みいただき、ありがとうございます。
少しでも面白いと思ったり、続きが気になると思っていただけましたら、
ブックマークや評価をしていただけると嬉しいです。
よろしくお願いします!




