ぴゃーいっ
そして。
「ミカ、ザコル、みて! セイザ! ぼく、しってる!」
「わあ、すごいすごい、ちゃんと正座できてますよプテラ」
「ほう、痺れにくい体重の掛け方がよくわかっていますね」
「オーレンが、するから、ずっとしってる、よ。リアや、ザラ、おこると、する……なんで?」
こてん。プテラが無表情のまま首をかしげる。
「これはですねえ、反省の気持ちを示す座り方なんです」
「おこらないで、って、こと?」
「違いますよ。怒ってくれて、叱ってくれて、ありがとう、今度から気をつけます、ってことです」
「そか、わかった。おこられ、たい!」
「ちょっと違」
「いや、ミカには真理では」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………
「……そろそろよろしいでしょうか、ザコル様、ミカ様」
「はい」
「ぴゃい」
「ぴゃい、って、へんじ? ミリナ、おこってる、かわいい、ね!」
「そう、ありがとうプテラ。あなたは少し黙っていてくれるかしら」
「ぴゃーいっ」
カオルの屋敷にて。
神像を追っかけて勝手に飛び去ったザコルと私を断罪する会が催されていた。ただし人型に変身した魔獣が乱入したことで、説教が始まる前から既にカオスの様相である。
「……っあーっ、ダメだああ、猟犬殿と姫様帰ってきたらめーっちゃくちゃ怒ってやるつもりだったのに! なに! あの! カワイイ子!! 雪みたいに真っ白!! とっても無邪気!! なのになんか闇深い!! あれ本当にプテラちゃん!? なんか楽しそーにお話ししちゃって何なの超カワイーッ」
「落ち着けよ変態。ちょっとサイさん入ってきてんぞ」
「はあっ!?」
「はは、サゴシ殿とサイゾウ殿。おふたりはやはり根本では気が合われるのですね」
「やめてよタイさんまでッ!! あの変態とは方向性全然違うんだからッ!! でもプテラちゃんがかわいすぎて全然頭働かねえぇーッ」
「サゴシさんもお静かに!」
「はいすみません女王様ッ」
うちの騎士ふたりと面食い影は緊張感を失っている。私達を捕捉した時点では確かに般若の形相だったのだが、目の前で大型魔獣がポンと人間に変身したことで、完全に気を削がれたというか、持ってかれてしまった。その点、プテラの変身に驚きはしたものの、見た目に惑わされないお世話係様はさすがである。
「全く。プテラは人になってもお調子者なのは変わりないわね。あちらの『泉』で力を食べたい、とザコル様にねだったそうね。ダメよ、勝手なことをしては。壊したらどうするの。いくら私でも直すのに限度というものがあるんですからね」
魔獣達が何か設備等を壊すたび、自ら工具を握って直してきたお世話係様である。窓口対応から事務から害虫害獣対策までなんでもやらされる地方公務員みたいだな……。
「だいじょぶ、なおすの、ザコル。おうじ、すぐ、に、こわす」
「おうじ?」
直すのはザコル。王子はすぐに壊す。王子とは、言わずもがな、ザコルの上司だった第一王子殿下のことだろう。
「そうですね。プテラの言うとおり、壊すのは大体あの方です。魔獣達は壊せと言ったものしか壊しませんから。やはり育ちがものをいうんですね。世話係たるミリナ姉上の教育はさすがという他ありません」
「……それは、かの方の世話係たる私に対する嫌味ですかな」
「ええ、嫌味のつもりです」
部屋の隅で腕を組んで説教の順番待ちをしているシシが舌打ちする。
「ああ、やはりそうだ。彼らは僕がその辺の草や根を食むことをしつこくいじってきますが、そんなことよりも他所の聖域や遺物をいじって大ごとにする方がよほどタチが悪いと思いませんか。殿下もコマも後始末など僕に丸投げでやろうともしませんし。報酬がよくなければ絶対に行きませんでした!」
「ふふっ、それでも報酬がよければ行ってくれるんですね、ザコル」
「違っ」
「ザコル! ぼく、たのしかった、よ」
「……そうですね、プテラ。君達が楽しそうだったのは僕も救いでした」
いーこいーこ。ザコルがプテラの頭をなでる。プテラも特に嫌がらず受け入れている。
「ザコル、ふびん。かわいいね」
「不憫という言葉を使うな」
ぶ、と吹き出す者もあり、なんとなく生あたたかい空気が流れる。
「……はっ、だめだめだめっ、絆されてしまいそうだわっ!」
眉を下げかけていたミリナが我に返った。他の人々も、あ、そうだった、とキョロキョロする。
「さすがです。魔獣達の相手をしてきただけあって、この程度では惑わされませんねミリナ姉上」
「わざとねザコル様! 拍手しないでちょうだい! それで、私、今一体何を叱ろうと……!?」
「おそれながらミリナ様、今回はミカ殿を集落の外にお連れしたことをお叱り申し上げることが主旨かと」
「そうよ、それよタイタさん! 全く、ザコル様はミカ様をお止めしているようで何でも言うことを聞いてしまうんですから! 魔獣達のことも甘やかしているでしょう!」
「魔獣達は一緒に苦労してくれているんです。多少のご褒美をやったっていいでしょう?」
「ごほうび! いずみ、おいしいよ! おうきゅう、おなかすくから」
「ああ、そうだったわね、美味しいものを食べさせてもらえてよか……」
「ミリナ様。主旨から離れつつございます」
「……はっ、そうね!? だからっ、ミカ様のことよっ!! ミカ様も反省なさってください!!」
「はい、申し訳ありません」
「それからミカ様はセイザしないでくださいませっ、お椅子を用意したでしょう!?」
「えー、でも、私だけしないのも」
「だからミカ様はいいんですっ」
ザコルとプテラという強力な闇コンビに丸め込まれそうになりつつも、必死に言い募ってくれるミリナである。……少し気の毒になってきたな。後で、一対一で聴く機会も設けることにしよう。
つづく




