アイツら絶対ビビってますって!
「素晴らしきご高説でございました、ミリナ様」
「はあっ、はあっ、言いたいことはお伝えしつもりだけれど……ちゃんと伝わったのかしら?」
「伝わりましたよお、つかマジ痺れました。アイツら絶対ビビってますって!」
うちの護衛騎士、エビタイのふたりが説教後のミリナを取り巻きのごとくヤンヤしている……のを、正座のまま見上げる。正座は自分からしているとはいえ、なんとシュールな光景か。
「女王様ッ、次は俺らの番なんで交代お願いします。ねっ、姫様猟犬殿ァ……」
にまああああ。変態忍者はべろりと舌を出し、これ以上ないサイコな顔つきでスタンバっている。そんな変態の肩をシシが叩いた。
「次は主治医に譲りなされ」
「えーっ割り込み禁止ですよ先生ッ」
「サゴシ、君は先ほどまで倒れていたのだから余分な力を使わな」
ドドドド、ズバァン!!
廊下で大きな足音がしたかと思ったら勢いよく部屋の扉が開いた。
「子爵夫人」
「イーリアお義母様!」
「割り込み反た」
「義母上。扉が壊れま」
ズカズカズカズカズカ、ぐわしっ。
「こんの愚息があああああっ!!」
ビリビリビリビリビリビリビリビリ。
「胸倉を掴まないでくださいますか義母上。オリヴァー様が仕立ててくださった服がのびます」
「うるさいわ! ミカを危険に晒しよって!」
順番待ちの列など吹っ飛ばし、カチコミよろしく飛び込んできたイーリアの肩には、角材ではなく鉄のかたまりが担がれていた。よく見ると細長い鉄板の束のようである。あれが噂の鉄扇か。確かにデカいな……。
「番長……じゃなかったイーリア様、私が自分で判断してついていっただけなんです! 私をお叱りください!」
「ああミカよ、あなたは第一歩兵隊の者どもを救うために行ったのだろう。そんな身も心も美しいものを叱る理由などあるものか。この愚息が何もかも全て悪いに決まっている」
「いやそんなわけ」
「いいんです、ミカ。事実、連れ去ったのは僕ですし」
「リア、リア」
「ああん!? ザコル貴様愚息の分際でこの私を愛称で呼び捨てとはいい度胸…………ん?」
番長イーリアは、ここてわやっとザコルの隣でちょこんと正座する存在に気づいた。彼女はザコルの胸倉を離して鉄扇も肩から降ろし、んんっ、と咳払いした。
「愚息よ。この、ボロをまとった白く美しい方はどなたか」
「ボロ……」
ザコルがぼやく。ボロではなく、ザコルの深緑マントである。
「どうしてセイザなどさせている。線も細いし、曲者にも見えんが」
「義母上。これはプテラです」
「なに!? プテラ!? この美しい少年が!? ミカよ本当か!?」
「はい、本当です。実は変身できたみたいで」
「リア」
深緑のマントを羽織っただけの白く美しいプテラは、そろり、と立ち上がり、イーリアを無垢な顔で彼女を見上げた。
「リア。ぼく、プテラ、だよ」
はわ、とリアが感極まったように手を口にやった。さっきから面白いくらいにジーロとリアクションが同じである。
「プテラ、お前、話せたのか」
「うん。でもね、まだ、じょうず、には、はなせない、よ。ナッツ、みたい、には」
「充分だ。ああ、お前と直接言葉を交わせる日が来ようとは。抱きしめてもいいだろうか」
「うん、いいよ」
イーリアは、その豊満な胸部にプテラを優しくうずめる。
「おかえり、プテラ」
「おかえり、って、まえも、きいたよ、リア」
「何度でも言うさ、我が愛しき戦友よ」
「せんゆう、は、ともだち?」
「ともだち、ああ、友達だ。母のつもりでもいたが、お前達の母は今、ミリナひとりだろうからな」
「リア、プテラの、ともだち」
抱きしめられたプテラが、むふ、と小さく笑う。
…………感動的な場面だが、プテラが連呼する『友達』の細かい定義が気になってきた。魔獣達は、人間の文化についてたまにトンデモ解釈をしていることがあるのでなおさらだ。
パタパタパタ、トントン。
小さな駆け足の音と、控えめなノック音。
これはカオルのものだ。
「見つかりましたよ、プテラさんが着られそうな服!」
「ありがとうございますカオルさん。プテラ、お着替えしましょう」
「おきがえ?」
「しばらく人間でいるなら服を着てください。裸にマントじゃ目に毒ですので」
「めにどく。わかった」
プテラは素直にうなずいた。本当にしばらく人の形でいるつもりらしい。
早速マントを脱ぎ捨てようとするプテラを止めているうちに、何人かは気を遣って部屋を出ていく。ザコルと私を断罪する会は、プテラの存在によりグダグダのまま幕を閉じた。
「あら似合っているわ、プテラ。カオル様、素敵なお召し物を貸していただき、ありがとうございます」
ミリナが保護者としてカオルに頭を下げる。
「どういたしまして。でも、これで本当にいいんでしょうか。締め付けがなくてすぐに脱いだり着たりできる服だなんて、他になくって」
「バッチリですよカオルさん。きっちり着込んでたら好きな時に変身できませんから」
カオルが用意してくれたのは、前で合わせて紐で縛るだけの簡素な寝巻きのような服だった。というか、これは…………。
「これ、カオリ様が仕立てたものでしょう?」
「やっぱり判ります? うちにしかないし、変な服だと思っていたのよ。夏は涼しくていいけれど」
「ふふっ。それにしてもすごいですね、和裁ができるなんて」
私に裁縫を教えてくれたのは近所のスミエさんだった。祖母もできたかもしれないが、趣味で縫っているところは見たことがない。カオリはどこで習ったんだろう。
「その浴衣はあんたにやるよ、美香」
「カオリ様」
「好きに使いな」
振り返ればカオリが部屋に入ってきていた。
つづく




