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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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おいしい!

 ドスン。


 ザコルは台座から祠を持ち上げ、雪の上に置いた。プテラが「やったー」とばかりに吠え、台座の近くに降りてやっと羽をたたむ。


「祠が……!?」


 サアアアアア、マヤ派の長から案内役を仰せつかった山の民の男性は青ざめた。


「大丈夫です! あの祠は上に乗ってるだけのタイプなので! 壊れてませんからすぐ戻せますから!」

「ほ、ほほ本当だろうな!?」


 私が必死でフォローすると、彼もまた縋るようにこちらを見た。皮肉にも、彼が私の顔をきちんと見てくれたのはこれが初めてだった。


「本当です本当です、ほら見てくださいどかした跡を。まっさらでしょう?」

「……あ、ああ、本当だ、建物の基礎みたいなものもないし、真っ平らに見える。本当に乗っているだけだったのか」

「そうなんですよ、チベト派の方も同じで。祠の下には砂が敷いてあるんです」

「砂?」


 離れたところから見ても、マヤ派の祠の下にもちゃんと砂が敷かれているのは判った。

 おそらくだが、どちらも魔法陣が彫られた石板の保護のために敷かれているのだろう。きっと、祠を置く際などに石板が傷ついて魔法陣が書き換わったりしたらシャレにならないからで…………


 ざっ、ざーっ。

 ザコルはおもむろに、というか雑に、その砂を手で払いのけ始めた。さすがの私も思わず目をむいた。


「ちょっ、えええええ!?」

「今度は何をしている!? あの砂はいじくっていいのか!?」

「待っ、ザコル待っ、本当に待っ」


 ザコルが台座の真ん中に手を置くと、ぐわんっ、と空間が大きく歪んだ。闇の力だ、と思ったら、プテラがそれをぐぅんっ、と飲み込んで、ぽん、と人型に変身する。ザコルはそれを見届けると、すぐに魔法陣から手を離した。


「やみの、いずみ。おいしい!」

「もういいですよね、戻しますよ」

「え、もっと、もっと」

「ダメです。これ以上は僕らだけでなく、ミカが怒られますので」

「どうせ、おこられる、きまってる」

「どうせ怒られるに決まっている……ええ、解っているなら聞き分けてください」


 ザコルはかき分けた砂を真ん中に戻そうとして「あ」という顔をした。力を奔流させた衝撃により、砂は周囲にすべて飛び散っていた。


 暴かれた魔法陣は例によってブゥンと光っている。ガス漏れ……じゃなかった、闇の力漏れ検知機能が発動したらしい。


「な、な、な」

「もーっ、何してるんですかあっ」


 もはや『な』としか言えなくなった案内役の男を残し、私は台座の前に立ちつくすザコルの方へと駆け出した。


「ミカ、砂がなくなりました」

「見れば判りますよっ! 飛び散っただけです!」


 ……こんな時に何だが。

 ザコルの表情が、こんなイタズラをしてしまったんですがどうしましょう、と主人の顔をうかがう素直なワンコのようで、非常にかわいいなどと思っている私は重症も重症である。


「ミカ、どうしましょう?」

「むぐう、かわ……っいや、雪の上に飛んだ砂粒を全部拾うなんて絶対無理ですし、とりあえずは雪で代用しておきましょうか。あの砂もきっとただの緩衝材ですから」

「なるほど。では、あとでこっそり砂と置き換えに来ることにしましょうか」

「……とりあえず代用、とは言いましたけど、あとで置き換えにくるとか本気で言ってます?」

「後始末をしないといずれバレますよ」

「それはそうですけど」

「ミカ、ミカ、やみのいずみ、おいしいよ。ミカも、たべる?」

「プテラ……」


 私は、裸の美少年(?)に変身した魔獣殿に視線を移す。よかった、と言ってはなんだが、今回も下半身にモノはついていない。真っ白な髪に真っ白な肌、白っぽいグレーの瞳。整いすぎて現実味のない顔立ちもあいまって、パッと見は少年というか美少女だ。


 こうして改めて見ると、性の曖昧さや色彩の珍しさもあり、あまりにも目立つ容姿である。いっそ、大型飛行魔獣としてそこにいる時よりも存在感があるようにさえ感じてしまうくらいだ。


「ミカ」


 ザコルにそっと肩を叩かれる。私は、大丈夫です、とうなずいた。


「プテラ、えっと私、闇の泉? は食べられませんが、おいしかったですか?」

「うんっ、おいしかった! みて、ヘンシン、したけど、ゲンキ。やみのちから、マンタン。みて、みて」


 美少年は、先ほど崖上で変身した時のおぼつかない足取りとは打って変わり、ピョンピョンと身軽に飛び跳ねている。


 そうか、崖上の時は人間の身体に慣れなくてぎこちない動きをしているのかと思ったが、単にエネルギーが足りていなかったのか。さっきは魔獣に再変身した直後に空なんて飛ばせて大丈夫だったのかな。


「プテラ、人の闇の力の味は好きじゃないっていってましたもんね。泉のはそんなにおいしいんですか」

「うん! ジョジーに、じまん、する!」

「自慢……あの、プテラ。とりあえずザコルのマントを借りてもらっていいですか。目に毒ですので」

「どく? ぼく、どく、ないよ」

「今のは言葉のあやです。人間は裸で外には出ないので、裸の人がいると非常に目立つし目のやり場に困るんです。特に今のプテラはかわいい女の子にしか見えませんし、色々危ないといいますか」

「ミカ、ニンゲン、よく、わかる、ね。ぼく、わかるけど、わかんない」

「私は一応人間として生きてきたので、それなりに解るつもりでいますよ」


 プテラは大人しく深緑マントを羽織ってくれた。私は雪の上に置いていた神像を持ち上げる。


「ミカ、石板の上に雪を敷きました。なるべく平らにならしたつもりです」

「いいと思います。では祠を元に戻してください。そーっとですよ」


 ヒョイ、ザコルは重厚感たっぷりの祠を軽々と持ち上げ、しかし先ほどよりは気を配りながら台座の上に降ろした。ここは慎重にしてくれてよかったと思う。降ろした拍子に石板が傷ついて魔法陣が書き換わったりしたらシャレに以下略、だからだ。


 上げ降ろしでパタパタ動いていた祠の扉を、ザコルがきちんと開け直す。

 私は今度こそ、腕に抱いた神像を中に納めて手を合わせた。




つづく

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