清掃班
目的の場所には迷わずやってきた。
集落内のざっくりとした地図は、サゴシ達影チームの報告や事前の聞き込みなどで頭に入っている。
とはいえ初見の場所だ。入り口が判りやすいのは助かった。あの聖域のように、目立たない場所に体ひとつ分のスリット、みたいな入り口だったらどうしようと思っていたのだ。もしそうなら正直にラーマに白状するしかないな、とも。
見渡せば、そこそこ広さのある敷地を区切る石造りの塀に、特に扉や鎖などもないオープンな門が設えてある。そこを通って数十メートル行くと、さらに石造りと思われる台があり、その上に小さな祠らしきものが乗っている。敷地内には他に何もなく、どう見てもあの祠っぽいものが主役の場所だ。
そんな祠のまわりでは数人の山の民が雪かきに精を出していた。年頃は様々だが、十代や二十代の若手はいなさそうだ。
「おはよーっ」
「シリルか? 遅いぞ!」
「今日は清掃の日だろうが」
彼らはスコップを動かしながらこちらを見ずに叱責してくる。あたりはとっくに陽が昇って明るくなっていた。今は朝七時とか八時とか、それくらいの時間だろう。
「ごめんなさーい。昨日寝たの遅かったからさー」
もちろん、今日が清掃の日だなんてことを私が知る由はないのだが、適当に話を合わせることにする。
「言い訳はいらん、さっさと手伝え。若いのがいないせいで人手が足りないんだ」
「はいはい」
……というか彼ら、よく今ので私をシリルと認識してくれたな。まさか先客というか、町内の清掃当番みたいなのがいるとは思わなかった。後戻りのできないアドリブタイム突入である。あーやっぱり入り口でラーマに白状しておけばよかった、と内心で独りごちる。
こうなった以上、とにかく帽子が取れないように気をつけなければ。シリルは短髪なので、私は自分の髪をまとめて帽子の中に入れ込み、さらに目の色が分かりにくいよう目深にかぶっていた。シリルの髪や瞳の色は暗いブラウン系なのでそこまでの差異があるわけではないが、顔を覗かれたら一発でバレる。
ちなみに。手に入れた衣装の中でも、帽子はとりわけシリルがいつも被っているものと似ていた。未成年の男の子の衣装自体、みな似通ったデザインなのかもしれない。
「ていうか、今日は延期か中止だと思ってたよ。さすがに」
「私達を口ばかりの保守派連中と同じにするな。日々、粛々と。聖域を美しく保ち続けることこそが我らの使命であり矜持である。たとえ誰にどんな邪魔をされようともだ!」
オーッ、と彼らは持ってきたスコップを掲げる。
なんだろう、この人達は保守派とは違うのか。掃除派、いや、清掃班と呼ぶべきか?
「お前も次代の神官を率いる者として黙って粛々と雪かきしろ。見れば判るだろう、次に吹雪がきたら手がつけられなくなるぞ」
「はいはい解ったってば。ほら、ちゃんと戦力も連れてきたよ!」
私はラーマの後ろに入って彼の背を押す。
「戦力? ラーマじゃないか。お前、女衆に軟禁されていたんじゃ」
「ええ、そうですがシリルに連れ出されて……まさかお前、このためだけに連れ出したのか?」
「ぎくー」
わざと肩を上げてみせる。
「ラーマがいたら早く終わるじゃん、というのは冗談でー」
「シリル。私は聖女様がこちらの神像を見たがっているというと聞いたから!」
「それは嘘じゃないよ。だって、こんなに埋もれてたら何にも見えないでしょ」
「確かにそうだが……」
神像とやらが安置されていると思われる祠は、上にもまわりにも雪が積もって全体像が分からなくなっていた。先に作業を進めていた清掃班のおかげで、かろうじて木造の祠と石造りの台座がある、と判るような状態だ。
「しかもミカ様達今日中に山を降りるって言うんだ! リャマはどこに閉じ込められてるか分かんなかったし! ラーマ協力してよお、お願い!」
「はあ、分かった分かった。すみませんが、誰か道具を貸してください。持ち出せなかった」
「それはいいがお前、クーニャに殺されるぞ」
「覚悟の上だ。渡り人である聖女様がこちらの神像を見たいとおっしゃっている。今まで読めなかったお背の文字も解読なさってくれるかもしれん」
「神の名を口にしてはならんとお伝えしたか?」
「ああ、もちろん。彼女は誠実なお方だ。決して無理に踏み込むようなことはせぬと、先に誓ってくださった」
どきー。
その誠実ヅラした女、ジモピーのフリして絶賛踏み込み中ですよ。
そんなわけで、エセ誠実女とラーマは清掃班からスコップを借り、粛々と雪かきに精を出すことになった。
つづく




