表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

604/749

浴びてはいましたね

「ぷはあー、おいしいっ、これ、いくらでも飲めますううう」

「もう浴びるほど飲んだでしょうに」

「じぇんじぇーんたりましぇーんもっと恵みのお水くださあい」

「さっきから飲んでいるそれは普通のお水ですよ。しっかりしてくださいな」


 ここはツルギ山の頂上近く。大岩を掘って造られた男子禁制の聖域、通称『女神の寝所』だ。


「うふふふ、恵みのお水がおいしいせいで、ギョーザが恋しくなってしまったわあ」

「ギョーザ? 王都のご馳走かしら。こんな山にはありませんよ」

「この三日は山のものだけを食べるんですよ、説明しましたでしょう」

「でもでもだってミカ様が作ってくださったギョーザやカクニやヤキトリが食べたい食べたい食べたい」

「まあ、ミカ様がお作りに? 異世界のご馳走なのね! 聴かせてくださいなミリナ様!」

「はい! えっとえっと、まずー、オーレンお義父様が農家の方に作らせているネギというお野菜を使ってぇー」


 きゃあきゃあきゃあ。


「…………」

「……帰ります?」

「そんなわけにはいくまい」


 洞穴の奥、いっとう賑やかで、暖かい光のもれる場所。

 その部屋の中をのぞいたイーリアと私は、少しだけ開けていた扉をそっと閉じた。


「浴びてはいましたね」

「ああ、恵みの水とやらをな」


 まさかというか、やっぱりというか。

 薄々そんなことじゃないかとは思っていたので、予想通りでよかったと安堵する。


「カオルよ、結局恵みの水とは何だ」

「高山ベリーを発酵させたものです。今年は特に良い出来で」

「高山ベリー? なにそれ! コマさんがしこたま飲んでたあの瓶もそうですか?」

「あれは長老がモナ男爵様にたくさん持たされたチッカ土産です。今年できたものだそうで」

「あー、そういえば長老様、チッカにいらしてたそうですねえ。ふふ、新酒の季節ですもんね」


 さしずめモナ・ヌーボーといったところか。


「ミカ様、お酒はお好きですか?」

「嗜む程度ですが。あの恵みの水はぜひ飲んでみたいです」

「そうですか」


 むふ。カオルは小さく笑った。機嫌は直ったのかな。


「ミリナめ、私を差し置いて花に囲まれよって」


 ギリィ。山の民の女衆に囲まれて楽しそうなミリナに、イーリアは悔しそうである。


「イーリア様はあのハーレムに参戦してきてはいかがですか。ミリューのこと含め、あとは私がやっときますから」

「……。そんなわけにはいくまい」


 今、ちょっと間があったな。


「全く、私はあなたの侍女兼、護衛としてついてきているのだぞ」

「ええ、天下の姫騎士様に護衛していただけるだなんて光栄です」


 とはいえ、アメリアをエスコートした時のような手取り足取りはされなかったな。ここは一応領外だし、護衛の緊張感も違うか。


「まあ、あなたに半端な護衛など必要ないが、体裁は大事だ」


 違った。護衛とか必要ないと思われてただけだった。


「しかし今日の一日で、このお転婆姫には常に目付け役が必要だと再確認した。あなたは物を壊さぬだけで、中身はうちの息子どもと引けを取らん暴れん坊だ」


 しかも暴れ出さないように見張られていた。


「そういえば、先触れにはミリューしか出なかったんですかねえ」

「プテラも一緒に行くと聞いていたが」

「えっ、じゃあ今どこに」


 私は自然とカオルの方をうかがった。


「あの灰色の魔獣さんなら、先触れのお一人としていらした男性の方と一緒に、シータイへ飛んでいかれましたが」

「先触れの一人と、シータイにだと? 私達はオーレンとミリューしか見ていないぞ」

「サカシータ子爵様、ではない方かと。お医者様とおっしゃっていたので。薬を取りに行ってくると」

「シシ先生だ。もしかして入れ違いになったのかな。それより薬って、誰か体調を崩しているんですか?」

「…………はい、そうなのです」


 …………。

 カオルは途端に目をそらし、うつむく。


 カオル達は、私が治癒能力を持つことを知らないことになっている。

 だが、魔力が多すぎて垂れ流しているせいで、周りの人間の体力を底上げしていることは知っている。彼らのいる場で公表したことがあるからだ。


「そんな申し訳なさそうな顔しないでくださいよ。よく呼んでくれましたね」

「……っ、どうして」

「私の存在意義みたいなものだから」

「存在意義?」


 カオルが顔を上げる。


「これを言うと護衛達に怒られるんですが、私、この世界の異分子ですから、この世界の人を差し置いて第一に守られる筋合いはない、と思っていたんです」

「異分子……?」

「最初にそう思ったのは、シリルくんとそのお父さんが溺れてる、って聞いた時でした。あの時ね、異分子のくせに、なに安全地帯にいるんだ自分、って急にスイッチ入っちゃって」


 私は急に照れくさくなって顔をそらす。自分語りってやっぱり恥ずかしいな。


「……でも、そうじゃなかったのかも。何か、縁を感じてたのかもしれませんね」


 ふへ、と誤魔化し笑いをする。


「あ、でも、引っ掻き回したり、混乱させたりするのは本望じゃないです。子供達には言わなくていいし、何か力になれるなら、こっそりとでいいから」


 がば、と急に腕が伸ばされ、私は捕まった。




つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ