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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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サゴリーナでぇーす

 ひーめーさーまぁー。


「……ん?」


 なんだか聴こえちゃいけない声が聴こえた気がして、私はあたりを見回した。


「カオルさん、ちょっとランプの光を落としてくれませんか。点け直すマッチは持っているので」

「ランプを? なぜ……」

「消してやれ、カオル」

「は、はい、ただいま」


 ふっ、と火が消える。ランプの強い光に頼っていた目が、わずかな光にフォーカスし始める。

 数秒もすれば、視界の中で、星明かりに照らされた山肌がじわりと浮かび上がってきた。


「わ、すご。影がくっきりしてる」

「……何もない、寂しい場所でしょう」


 カオルは、どこか諦めたような、そんな声色でつぶやいた。


「寂しい、かなあ……厳しい土地だとは思いますが。平地生まれ平地育ちの私からすると、こんなに情報量の多い場所、ほかにないとさえ思っちゃうんですよねえ」

「情報量?」


 おそらく三千メートル級の高山で、永久凍土で、寒くて、風も強い、人が住むには過酷な場所。

 周りにさえぎるものがなく、星が明るすぎて、火がなくとも岩の影ができちゃうような、幻想的な場所。


 日本に暮らしていたら、こういう特殊な場所は足を向けなかったし、本の中だけで充分知った気にさえなっていたと思う。何しろ金も時間も体力も足りない、超インドア派の社畜でしたから。


「で、結局見えないけど、どこにいるのかな。ここは男子禁制だよ?」

「うふん、サゴリーナでぇーす」


 また絶妙な気色悪さを演出しつつ、道の脇から岩の影よりも濃い闇の気配があふれ出す。


「!?」

「安心しろカオル、あれはミカの影だ」


 悲鳴を上げそうになったカオルの口を、すんでのところでイーリアがふさぐ。


「だから男子禁制だって」

「やだー、サゴリーナはオンナノコなのにぃ。てゆかここ外だしぃ、ノーカンじゃないですかぁー?」


 くねくね。オトコのコの自覚はありそうだ。


「サゴリーナちゃんはギャルなのかな?」

「ギャルっていうより地雷系っていうかぁ、限りなく地雷系に近い地雷っていうかぁ」

「限りなく地雷系に近い地雷ってそれただの地雷じゃん……?」


 地雷系とはそういう世界観のファッションやメイクを好む女子を指すが、ただの地雷となればそれはもう面倒な人でしかない。


「ウケる。姫様の下僕、みーんな地雷じゃぁーん」


 ぷぷーっ。


「下僕を持った覚えはないのだよ。大体、それを言ったら私が一番『地雷』だからね」

「姫様はぁ、地雷チャン達のために自分から地雷になりにいってるんじゃないですかぁー?」

「ふふん、私はね、これでも生まれながらにして地雷なのだよ。どこの世界でも無双だよ無双」

「やだー、地雷選手権始まった感じぃー? サゴリーナも負けないよぉー?」


 バチバチ。


「……で、なんの用だサゴシよ」


 ツッコミ不在のため、イーリアが致し方なくツッコんでくれた。


「えっと、入り口の方になんか長老様? とは血縁じゃなさそーな人達がやってきてモメてます。お美しいジーロ様が出てってなだめようとしたんですけど、ジーロ様がお美しすぎてもっとモメてます」


 ジーロがお美しすぎてモメている……。


「そうか。まあ、かつてのジーロを知る者ならばとても信じられんだろうからな。アイツを産んだ私ですら、オーレンが知らん女に産ませた隠し子かと疑ったくらいだ」


 あのオーレンがイーリアやザラミーア以外の女性に手を出せるとは全く思えないが、ジーロの変貌ぶりは実母たるイーリアをしてそう思わせるほどの出来だったということだろう。


「いや、普通に身綺麗にしただけなんですけどねえ。今までどんだけ薮や猪になりきってたのかって」

「あのっ、そのチベトと血縁になさそうな者達とは、どのような特徴がありますか?」


 カオルが横から質問した。サゴリーナが身も心もオンナノコじゃなさそうなのはノーカンとしてくれるようだ。


「えっとぉ、山の民で、全員男ですよぉー。なんか赤い頭巾かぶってるオジサンがいます」

「赤い頭巾、マヤのどなたかだわ」


 私が授けられた三角頭巾の深緑色は、チベト陣営の象徴色であるとのことだった。赤は『マヤ』とやらの象徴色らしい。


「その赤頭巾おじさんなんですけど、山の出身でもない女に紋章を与えあまつさえ聖女として神殿に迎え入れようとはお前んち一体何考えてんだ的なこと言ってましたー」

「……これだから男衆は。ミカ様の従者の方々もいるというのに。里の者が大変申し訳」

「うんうん、わかりみしかないなぁ。ねえサゴリーナちゃん、うんそうだね! ってその赤頭巾おじさんに伝えてきてよ」

「ミカ様!?」


 歴史ある宗教の重要ポストに、どこの馬の骨ともわからん者をいきなり据えるだなんてやはり無理な話だ。赤頭巾おじさんの主張は全く正しいと思う。


「もう既にエビっちが赤頭巾に加勢しようぜとか言ってますよぉ。ラーマ殿とシリル坊やは、あの方は紛れもなく神が遣わしたる聖女だコノヤロー! って吠えてます。イリヤ様とリラちゃんはタイさんとボドゲして遊んでます。コマちゃんに影武者しねーんですかって訊いたら、ここで姫のフリして出てったら余計モメんだろがカスって言われました。カスだって、ふひひひ」


 カオスだな……。だが状況は容易に想像できた。


「ザコルと穴熊さんは?」

「探検に出かけました」

「そう……」


 穴熊はあの謎の魔法陣機構でも調べているんだろう。今なら調べたい放題だからな。ザコルは仕事で出入りする場所は隅々まで把握するのが流儀らしいので、探索できる範囲で施設全体を調べに行ったかもしれない。


「ラーマさんとシリルくんに怪我はない?」

「それはお美しいジーロ様がいるから大丈夫です。でも、近くにいるミリューちゃんがイライラしてるっぽい気がするんですよぉ」

「ヤバいじゃん」


 どうしよう。入り口で揉め事を起こしているなら、イリヤに出て行かせるのは得策じゃない。だからタイタも外に出さないよう気遣ってくれているのだ。

 そうなるとミリューと直接交渉できるのは私だけ……。


「サゴリーナちゃん、いっそ、ミリューにここまで来るよう言って。あの子も女の子だし」

「スザクちゃんはどーします?」

「放っておけないから、ミリューに朱雀様も連れてくるよう伝えて」

「分かりましたぁ」


 朱雀の性別は判らないが、緊急事態だから仕方ないと思ってもらおう。聖域の建物が壊れたり、マヤっているマヤおじさん達が怪我をするよりはマシなはずだ。


 サゴリーナは再び闇夜に溶け、辺りには静けさが戻った。




つづく

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