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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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何か浴びていることは確か

「ミカ様。もう充分です、もう帰りましょう、私が悪かったんです」

「えっ『悪かった」……?」


 ぐす。


「ああっ、謝ってません謝ってません!! 泣かないで!!」

「ぐすぐす……むふっ」

「笑っ!? からかってらっしゃるの、私は心配で、いえ、私が言えたことではないのですが、ああでも……!!」

「忙しいですねえ」


 どうやらこのカオルは割に『気にしい』な人のようである。そういえば。シータイにいた頃も、娘のリラが私に突進するたび叱っては連れ戻していた覚えがある。別にいいよ大丈夫だよ、と何度も言ったのに。


 それだけに、そんな彼女が思い切った行動に出た理由というか、そこに至った過程が気になる。本当に存在するかどうかも判らない『姉』にどうしても会いたかったらしいが、本当にそれだけなんだろうか。


 気になることだらけだが、この会話がどこかで聴かれているらしい以上、あまり突っ込んだことは訊けなくなってしまった。しかし、ここらで全て筒抜けだと知れてよかったとも思うべきかもしれない。


「でも、あの『幽体』があなた様を囲うようなことを言って……! なんて失礼な!」

「幽体て。彼女、別に失礼じゃなかったですよ。筒抜けだよって、親切で忠告に来てくれたんですよね?」

「あれが、親切……!?」


 信じられないものを見る目をされてしまった。カオルにとっては、面倒くさい親戚のおばさんポジあたりの人物なのかもしれない。


「ふふ、親戚が多いっていいですね」

「そんなこと……っ、あ…………」


 カオルが言葉につまる。私にはそういう親戚はもはやいない。身内を名乗ってくれる人は最近増えたが。


「まあ、しがらみがあるのもそれはそれで大変でしょう。とりあえず、ミリナ様の無事だけは確認しなきゃなので進むしかないかな。あまり時間をかけると失敗したと判断されて、外で待っている大型魔獣の子達が暴れ出すかもしれないですし」

「魔獣が、暴れ……?」


 カオルはまた首をかしげる。


「あんなに、大人しそうにしていたのに。やはり馬や羊とは違うのね……」


 おや。カオルは魔獣を家畜と同列に考えていたんだろうか。ミリナやオーレンに従順な様子を見て勘違いしたかな。


「カオルよ。魔獣は話せはしないが、こちらの言葉は理解している。無条件に従っているわけではなく、確固たる信念を持って人間に付き合っているだけの、いわば人と対等かそれ以上の存在だ。侮辱と取られるような発言には気をつけた方がいい」

「もっ、申し訳ございません! 失礼は私でした……!」


 カオルはガバッと頭を下げた。今のは謝っても仕方ないからノーカンとしよう。


「ミリナは、現在サカシータ領に身を寄せる全ての魔獣に慕われている。というよりも、魔獣達が親同然に想っている『世話係ミリナ』の保護を条件に、サカシータに留まってくれているという表現が正しい。召喚主のオーレンやイアン、戦友であるザコルでさえ、ミリナに対し弁えぬ態度を取れば、即刻水浸しか火ダルマにでもされるだろう」


 戦友ザコルはミリナに対し、大分綱渡りのような態度を取っているが……。監視役のミイも、あいつミリナを利用する気かと疑っている節がある。


「火だるま……あっ、子供に、あの子達にも言っておかないと……!」


 サア、とカオルが青ざめたのは、暗がりでも何となく判った。子供達の前でも、家畜扱いするような言い方をしてしまったのかもしれない。


「シリルくん達には、うちの護衛とラーマさんがついてます。彼らは魔獣達とミリナ様の関係も理解していますから、もし『入り口』の方に行って魔獣達に対面したとしても、余計なことは言わないように止めてくれますよ。ね?」


 カオルはまだ不安そうにしていたが、こくりとうなずいた。


「カオルさん。ミリナ様を利用した、とだけは思われないようにしましょう。今のところ、ミリナ様ご自身が修行をすると言い出して篭っちゃった、と彼らも認識していますから…………あー、コマさんも敢えてオーレン様にそういう伝え方したんでしょうね。もう、相変わらず優しさが分かりにくいんだから!」

「彼はチベトとも旧知のようだからな。この山にも何か思い入れの一つや二つくらいはあるんだろう」


 それはそうかもしれない。長生きだからな彼。そう思うとチベトの年齢も気になってきた。


「……あっ」

「えっ」


 チベトはもしかしたら、コマの育て親で渡り人の『四郎』とも旧知だったりしないだろうか。よし、訊けたら訊いてみよう。


「ミカ様、何か、何かありましたか!?」

「あ、いえ。チベト様に会えたらしようと思っている質問が増えただけですよ。大丈夫、いいようにしてみせます」


 ぱん。私は自分の両頬を叩く。泣いてる場合じゃないぞ、カオル達の立場も守りきらないと。


「いいように、って……。あなた様は最初から、ミリナ様と、私達のためを思って駆けつけてくださったのですよね。どうして、どうして、だって、私達は……!」

「それ以上は話さなくていいです。でも、来るかどうかは一応迷ったんですよ。私が行くと余計に大ごとになるんじゃないかって。ミリナ様を止めるだけなら、イーリア様にお任せすればいいとも思いましたし」


 私はまた頭を下げようとしたカオルを手で止めた。


「ミリナは本当に滝行などしているのか?」

「どうでしょうねえ、何か浴びていることは確かなようですけど」


 こんな冬の高山で水浴びだなんて、そんな苦行を一般人にいきなりさせるだろうか。本当だとしては、このカオルに危機感がないような気もする。カオル自身がカジュアルに滝行しちゃうような山伏系女子で、人の滝行についてどうとも思わないというなら話は別だが。


「滝行……?」


 はて。


「あ、やっぱり! また首かしげてますよこの子! ……あれ? そういえばオーレン様、ジーロ様に『余所者の入信にあたり魂を試すための通過儀礼みたいなもの』だと聞いたようなことおっしゃってましたよね。でもジーロ様は、ミリナ様がそんな修行するなんて聞いてないって」


 やれやれ、とイーリアが首を横に振る。


「あの木偶の棒の証言などひとつも当てにならん。大方、ロクにひとりひとりの話も聞かず、適当に端折って解釈しているんだろう。ラーマは滝行を含む修行について思い当たる節がありそうだったが、あいつも女の聖域にはそう詳しくなさそうだ」


 急ぐか、とイーリアが歩を速める。私とカオルは慌ててそのあとを追った。




つづく

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