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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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千年先でも確実に語り草になるぞ

今回はザコル視点です

◇ ◇ ◇



「ジーロ隊長、さっきの見たでしょ、ミカ様はザコル様とすげー仲良しなんだよ」

「ああ、知っているとも。隙あらば乳繰り合っているからな」

「ちちくり……って、もうっ、知ってるならなんでヒイキすんの!?」

「シリル、いい加減に!」

「構わんぞラーマ。俺は贔屓なんぞした覚えはないが、かわいい弟が大事にしている者だ。かわいい弟同様、かわいがってやって何が悪い?」


 あの兄は、僕のことを何度『かわいい』と連呼する気なのか。嫌がらせで言っているとしか思えない。


「というかお前もあの娘を山に囲おうとしているクチだろうが、シリルよ」

「ちっ、ちがうもん!」

「独り占めはよくないぞ? ん?」

「ジーロ兄様。お前はテイラーに帰ってもいいがあれは置いていけよ、などと僕に言ったことがあるのを忘れましたか?」


 ぴく。


「そりゃ聞き捨てならねーなあ、お兄様もやっぱ狙ってんじゃねえすか」

「今のは本当のことでしょうか、ジーロ様」


 殺気立つエビーとタイタに、次兄は軽く両手を挙げて首を横に振ってみせた。


「確かにそう言ったこともあるが、前言撤回だ。あれは俺の手に余る。あのお転婆、ついに水や氷だけで爆弾までこさえられるようになったそうだな。賭けてもいい。千年先でも確実に語り草になるぞ」

『………………』


 それは、僕もそう思う。本人は千年も語られるようなことはした覚えはないとつぶやいていたが、少なくとも魔法士として生まれた者ならば、必ず彼女の『生態』に興味を持つはずだ。


 異世界から渡って半年やそこらで貴族令嬢並の教養を身につけたことや、ニホンの知識と類まれなる行動力で危機を乗り越えたこと、戦闘素人が努力によって並の玄人をも抜く実力を得たことなど、彼女の武勇伝は数あれど……。


 水温操作というたった一つの魔法からあらゆる攻撃、防御の手段を考え出し『最強』と名乗れるまでに練り上げたこと。さらには魔獣を師として、水温操作とは関係のない闇の魔法を後天的に習得したこと。


 これらはただの武勇伝にとどまらない、明確な『成果』だ。彼女を囲ったテイラー家には、財を投じて書や碑を作り、その存在を後世に伝えていく義務がある。サカシータのような貧乏辺境領でははっきり言って役不足だ。


 僕は赤毛の青年に目をやる。彼は次期テイラー伯、オリヴァー様の側近に内定している。彼が持つ完全記憶能力により、ミカの言動は今この時も完璧に記録され続けている。



「ねえ、バクダンって結局なんなの?」


 シリルは火器に詳しくないらしい。まあ、山の民の子では当然か。


「爆弾とは、本来火薬を使い、人が起こせぬ規模の破壊を一瞬でもたらすものだ。戦をするには便利かもしれんが、あれの悪いところはなあ、どう壊れるかわからん、という一言に尽きる」

「どう壊れるか、わからない? どういうこと?」

「例えば、この壁を破壊して外に出たいとしよう。普通であれば、拳のひと突きで自分一人が通れるだけの穴を開けるだろう?」

「うん。普通なら、拳のひと突きで壁に穴とか開けられないけどね」

「ナイスツッコミだぜシリル坊」

「………………」


 話の腰を折られた次兄は、コホンと咳払いする。


「まあ、そうだな。普通の人間は拳に頼ることはできん。そこで爆弾だ。しかし、それだけのために強力な爆弾を使えば、壁はおろか床も天井もまとめて吹っ飛ぶ恐れがある」

「壁も床も天井も……!? なにそれ、ミカ様、そんな危険な魔法使えるの!?」

「ああ。俺は見ていないが、今日思いついて今日成功させたとさっき穴熊が……お前は見たか、イリヤ」

「僕は、ばくはつしたとこは見てないです。でも、ドカーンってとーっても大きなおとがして、けむりがいーっぱいモクモクして、池みたいにおーっきな穴があいてました! ミカさまは、お空にたかーくとんでっちゃったそうです!」


 イリヤは小さな体躯を目一杯使ってその規模を表現した。


「……あいつ、自分ごと吹っ飛ばしたのか。一体何をやっているんだ」


 次兄は眉間を揉み始めた。


「まあ、ともかくだ。この未知の場所で、なぜあのような強気な態度でいられると思う? 何かあれば全て吹っ飛ばせる自信があるからだ。母が代わりに担いでいったあの包みの中身は氷だな? ザコル」

「ええ、そうです。エビーが持たせたものですが」

「最終手段すよ。少ないかもしれねーすけど」


 確かに、あんな量の氷では大したことはできないだろう。……それも憶測にすぎないが。


「ふむ、使われんことを祈ろう。来るなら何か手段くらい講じてくると思ったが、まさか爆弾とはな。ああ、一緒に行けたなら逃げ道くらい俺が作ってやるのに。拳でぶち抜いた方が、爆弾を使われるよりかははるかに被害が少なくて済む」

『………………』


 次兄がミカに逃がしてやるぞと言っていた本当の理由を知り、シリルとラーマは完全に沈黙した。


「そういうわけで、僕は行きます」

「ああ。ここは任せろ」

「はっ? どちらにいらっしゃるおつもりでしょうか!」

「ザコル様、ここでミカ様を待つんじゃないんですか!?」


 一度黙ったシリルとラーマが焦ったように僕を止める。


「仕事で出入りする場所は隅々まで把握しておくのが工作員としての僕の流儀です。ああ、安心してください。『女神の寝所』とやらには踏み込みませんよ。僕は男なので」


 テイラーの工作員としては山の民の慣わしとやらに従ってやる義理はないが、ミカが尊重する気でいる以上、僕もできる限りで従うつもりだ。


 マージの姿は既にない。マージはミカから多量の闇の力の供給を受けているし、力に目覚めたばかりのメリーもいる。元々の実力も確かな彼女達がいれば、爆弾に頼らずともいざという時の逃げ道くらいは作ってやれるだろう。さすがはミカ、急な事態でも完璧な人選だ。


 ミカの規格外なところは、闇の力の習得にまつわる知識を惜しげもなく人に分け与え、強力な闇魔法士に仕立て上げては次々と自分の手駒に加えているところにもある。広い意味では僕もまたそのひとりだ。


 ……異世界から渡ってまだ一年も経っていないのに、どこまで『強者』に成り上がるつもりなのか。


「穴熊の。君はあの迷路を調べてください」

「ぎょぃ」

「エビー、タイタ。子供達と、この『入り口』は任せましたよ」

「了解す」

「御意に」


 僕は彼らに背を向けると、一切の感情を消し去り、狭い通路を走り出した。




つづく

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