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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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あなたといると、腹が減るんですよ

「今、バクダン娘、って言った? ねえ、バクダンって何か知ってる? イリヤ様」

「えっと、こう、どかーん、ってなるやつです、シリルさん」

「どかーん……? お姉さんが?」


 普段山で暮らしているシリルは火器に関する知識が乏しいようだ。そもそも、この自治区を含むオースト国は火薬の所持、製造を禁止している。イリヤもシータイで初めて爆発を目撃したことで爆弾というものの存在を知ったばかりであり、詳しくは説明できなかった。


「あ、あの、聖女ミカ様、どうか……!」


 後列にいた神官ラーマが青い顔で懇願しにきた。


「分かってますよ。こんないかにも世界遺産みたいな場所を気軽に爆破なんてしません」


 あくまでも最終手段だ。エビーはやけに警戒しているが、正直、山の民が魔法陣を使って攻撃をしかけてくるとは考えにくい。


「というかエビー。私は異界娘でもあるけど、一応テイラー勢筆頭でもあって全然治外法権じゃないんだよ。普通に責任問題に発展す」


 うぉう。


「なんですか穴熊さん」


 ボソボソ……。

(壊しても後で修復してやる。存分に破壊しろ)


「存分に……」

「おい穴熊」


 ぐわし、独自言語で私に耳打ちにきた穴熊の肩がつかまれる。イーリアだ。


「この私の前で堂々内緒話とはいい度胸だな。どうせ壊しても直してやるとでも話しているのだろうが」


 ピヒョーロロ。

 穴熊は下手な口笛を吹きながらあさっての方向を向いた。


「全くお前らは……好き勝手に姫を唆そうとするな。先を急ぐぞ。年寄りは日が暮れたら寝てしまうからな」


 年寄りとは、十中八九長老チベトのことだろう。

 謎深まる魔法陣機構の探索はそこそこに、私達はまた迷路のつづきを歩くことにした。





 迷路を抜け、シリルに案内されるまま歩いてゆくと建物の外に出た。と言っても中庭のような場所らしく、周りは壁に囲まれている。


「もう外真っ暗じゃん!」

「ミカ。危ないですよ」


 足元がよく見えないのにフラフラするなと腕をつかまれる。


「ザコル、見てください、星が綺麗ですよ! 今日はよく晴れてますね!」

「そうですね」


 山あいの天気は移ろいやすく、雲一つない星空に出くわすのは意外にレアだった。


「ここは高度がありますから、いつもより星が近いんですね」


 ぐう、と不意に音がする。


「……ふへ、お腹鳴っちゃった」

「僕も腹が減りました」

「ふふっ、前は一日二日食べなくても平気とか言ってたのに」

「あなたといると、腹が減るんですよ」


 暗くてよく見えないのは分かっているのに、思わず隣を見上げた。


 あなたといると、腹が減る。だなんて。


「殺し文句だなあ……」

「なっ、何が」

「干し林檎食べます?」

「……食べます」


 ヒョイ、ぱく。ザコルは私がカバンから取り出した林檎を受け取って口に放り込んだ。


「リラも食べる? 」

「いいの? たべる!」


 私はポレック爺さん謹製の干し林檎が入った紙袋を列の前後に回し、みんなの手に渡ったのを見届けてから自分の口にも入れた。





 ガチャ、シリルが開けた扉の向こうは、暖かい光と空気に満ちていた。暖炉の前に置かれたロッキングチェアには、美少女が一人優雅に腰掛けている。


 豊かで艶のある焦茶色の髪、長い睫毛に縁取られた大きなエメラルドの瞳、シミひとつない陶磁器のような肌。


「遅えぞてめえら」


 小柄かつ華奢で、思わず守ってあげたくなるような儚さをたたえた美少女、いや美少女風のその人は、いきなり悪態をついた。


「ほまはん」


 もぐもぐ、もぐもぐ、もぐもぐ。


「いや、何を口に入れてやがんだてめえ」

「ほひいんぐぉいぇす。ほまはん」

「飲み込んでから喋りやがれこのクソ姫が。ったく」


 もらってから時間の経った干し林檎は、以前よりも水分が抜けて歯応え抜群になっていた。


 ……ごっくん。糖分補給完了。


「まだその山の民のローブ返してなかったんですか、コマさん」


 彼は山の民が正装時に着用する紫色のローブを身にまとっていた。以前、コマが私と入れ替わるための仕込みとして、あらかじめ山の民から借りていたものだ。一時期、私から山の民に返しておこうと思って保管していたが、いつの間にか部屋から消えていた。


「他に外套がねえんでな。まだしばらく借りる予定だ」


 何に使う気なんだろうな。


 コマは生まれつきの特性として、人間が当たり前に持っている体温というものを持たない人だ。魔獣達も同じで、身体には血の代わりに魔力が通っており、寒さや暑さを感じることもないらしい。つまり、コマには防寒という意味での外套は不要なのである。


「まあ、かわいいから何でもいっか」


 首から下をすっぽりと覆うタイプの濃色のローブ。見た目美少女の人が着ていてこれほどかわいいものはない。かわいいは正義だ。


「ほま、あぇうえは」

「てめえもふざけてんのか駄犬」


 もぐもぐもぐ、ゴクン。干し林檎を欲張っていくつも口に入れていた駄犬、もといザコルもやっと全部飲み込んだ。


「コマ、姉上は」

「ミリナならこの先だ」

「コマちゃん、母さまはぶじなんですか!?」


 イリヤが前に飛び出してくる。


「安心しろガキ。病み上がりのアイツに三日三晩水浴びさせるなんつうのはギャグだ」

「ギャグ……。やっぱり」


 滝行は釣りだったか。


「お前なら来ると思ったぜ、姫」


 にや。お人形のような顔が意地悪そうに歪む。


「はあ、本当に滝行なさってたら困りますからね。女王を人質に取られたんじゃ、魔獣枠としては来るしかないですよ」

「人質たぁ物騒だな。なあ、次期神官長よ」

「え」


 案内役の少年がぎくりと身体をこわばらせる。


「そっ、そうだよお姉さん! 人質だなんてさ!」

「……シリルくん。君が変な木像をあちこちの教会にバラ撒いていたのは調べがついているのだよ」


 ぎくー。少年はあからさまに目をそらした。


「変な木像とはなんですか。素晴らしい出来でしたよ。僕にも一体作っ」

「ザコルは黙っててください」


 ケケッ、と嗤う声。


「許してやれよ姫、ガキのすることだ」


 子供のすることだから。いつかのザコルも使っていた屁理屈を吐き、コマはサイドテーブルに置かれたマグカップをグイッとあおった。




つづく

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