ちゃんとついてきてね
「スザク、ちゃんとここでまってるんだよ。ミリュー、ちゃんと母さまをつれてくるからしんぱいしないで」
キョエエ!
キュルル……。
いっぱい遊べて満足そうな朱雀と、不安そうなミリューを残し、私達はシリルの先導で古城のような建造物の横手に回った。
「シリルよ」
「はっ、はいサカシータ子爵第一夫人様」
イーリアの声掛けにシリルがピンと姿勢を正す。
「イーリアでいい。私も所詮、そなたらを守る番犬の一匹にすぎん。それより、ここにいる全員を中に通して問題ないのか?」
「はい、大丈夫です、イーリア様。お姉さん……ミカ様が連れてきた人は全員通していいって言われてます。なんか怪しいのもいるけどさ」
シリルはサゴシを横目で見る。エビーだけでなく、ザコルやタイタまでサゴシを庇ってみせたのにまだ納得していないらしい。
もしや、シリルも魔力を視認できる能力者で、サゴシの特殊な体質を見抜いているとかなんだろうか。血筋的にあり得ない話ではないが。
「ならばいい。だがお前達、解っているだろうが、この先で見るもの、聴くものについては絶対に口外するな」
『はっ』
女帝の圧にテイラー勢含む大人全員がこうべを垂れる。神官ラーマでさえもここに入るのは初めてらしく神妙な面持ちだ。この建物が何なのかは中に入ってからの説明となりそうだ。
「シリルくんとリラはずっと外で待ってたの? すぐに誰か来るとも限らないのに」
「ううん。フツーに中で待ってたよ」
実は中から外が見られる構造になっているらしい。積まれた石のどこかに覗き穴でもあるんだろう。
「イーリア様と、たぶん姫も来るぜ、ってあのコマって人も言ってたからずっと外見てたんだ」
「コマさんが」
やはりグルか。そうだろうと思った。
建造物には、扉や門など、玄関という概念を象徴するものは存在しなかった。その代わりに目立たない場所にスリットのような狭い入り口があって、先導役のシリルはそこからぬるりと中に入っていった。イーリアもその後を追ってスタスタ入っていく。
「まってリアおばあさま!」
イリヤもイーリアを追って入っていってしまった。
「……ここ、どこからどう見ても外界から閉ざされてるっていうか、建物自体が機密の塊にしか見えないんですけど、本当にみんな入れちゃって大丈夫なんですかね」
「通していいと上が言っているらしいので大丈夫なのでは」
隣に立つザコルに質問してみたが、そっけなく返ってきた。怒ってるな……。理由は十中八九、私が勝手にラーマを助けようとしたせいだ。
「この建物の存在を知ってしまった以上今更ですよ」
「それは確かに」
「リラはよくあそびにきてるからダイジョーブだよ!」
「リラは、ね」
よく知らずに交流していたこの幼女も、時代が時代ならツルギ王朝の王族筋に連なる姫だ。王族筋特有の能力を持ったシシの従姉妹の孫なのだから間違いない。
「ラーマさんは入ったことないんですよね」
「ここは、一介の神官という立場では特別な許可がないと入れません」
リラ達の母親と又従姉妹だというラーマもそれなりの血筋っぽいのにな。やはり分家的な立場なんだろうか。
「サゴシ達は先に行きましたよ」
「えっ、ペータとメリーも? いつの間に」
入り口は目の前なのに。一体いつどこから入っていったんだ。
「いこ、ミカ!」
「ミカ、わたくしもついておりますわ」
「リラ、マージお姉様」
柔らかくもあたたかな声が私を励ます。
「姐さん、俺らみすみす処されたりしねーから安心しろ。な?」
「あなた様の思うがままになさってください。我々はお供するのみです」
「エビー、タイタ」
長旅を共にしてきた二人の声も私の背中を押す。
「じょてぃ、ごぇぃ、なぃ。先にぃく」
(女帝が護衛無しで行ってしまったので先に行くぞ)
「あ、そうですね行きましょう行きましょう」
うじうじしている場合じゃなかった、と慌てて穴熊の後を追おうとすると、ザコルが目の前に立ちはだかった。
「ミカは僕の後ろをついてきてください」
さっきは前にいろって言ったのに。まあ、未知の場所で護衛対象に先頭を歩かせることはないか。私は深緑色のマントを追い、狭い入り口に身体をすべらせた。
建物の中は暗いが、意外と暖かい。どこかでストーブか暖炉を使っているのだろう。
入り口も狭かったが中の通路も狭く、私達は自然と一列で歩くことになった。
「足元にお気をつけください、ミカ殿」
背後のタイタが気遣ってくれる。入り口近くは雪が入り込んでいたが、今は石畳を直に踏んでいる感触がする。
そうして慎重な足取りで十数メートル歩いたところで、明かり取りの小窓のある、六畳から八畳ほどの小部屋に出た。シリル、イーリア、イリヤが何か話しながら待っている。先に行った穴熊の姿もあった。
「すみません、お待たせしました」
「ここから迷いやすくなるから。ちゃんとついてきてね」
シリルは火を入れたランプを片手に持ち、その部屋の奥にかけられた深い紫色の幕をめくる。
その幕には、私が長老から授けられた三角頭巾にあるのと同じ『目』の紋様が大きく刺繍されていた。
つづく




