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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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引っ掻き回してやりますよ

「言っとくけど、俺らまだ納得してねえかんな!」

「しかもラーマ殿までお連れになるとは」

「うん、分かった。とりあえず行ってみて、思ってたんと違ったらすぐ帰るから。ね?」


 ぶーぶーと文句を垂れる騎士二人をなだめつつ……と言ってもこの二人は私のためを思って反対してくれているのだが、日没まで時間もないので急いでミリューの背中によじ乗る。

 ミリューに乗せられた鞍は八人乗り仕様だ。一番前と一番後ろを避けて適当なところに座ろうとしたら、


「ミカはこっちです」


 と勝手に持ち上げられストンと座らされた。なぜ、一番前の席に。


「ここ、御者席ですよね?」

「僕の前以外には座らないでください。後ろにいられると気になって仕方がない」


 文句を言わないまでもどこか不機嫌なザコルは、私の後ろの席でミリューの手綱を取るようだ。とはいえミリューは行き先を分かっているので、御者役の先導はあまり重要ではない。問題は朱雀だ。


「……あっちはやっぱりイーリア様が御者をするんですね? 大丈夫ですかね、マージお姉様とラーマさんと穴熊さんは……」


 イーリアには蛇行運転の前科がある。あれをやられると同乗者はもれなくひどい乗り物酔いになる。元はといえばジーロが始めたおふざけだ。


「死にはしないでしょう。マージがいるのでお上品に飛ぶかもしれませんし。というか人の心配をしている場合ですか?」

「私は大丈夫ですよ、支えてくれるんでしょう?」

「……そうですね、そうでした。さあ、イリヤ。君は僕の腰をしっかり掴んでいてください」

「はい先生!」

「イリヤ様、後ろからも支えさせていただきます」

「うんタイタ! ありがとう!」


 イリヤはザコルとタイタに挟まれ、さらには命綱で大人とガッチリつながれている。これから向かうのは標高の高い岩山だ。しかもそろそろ陽が陰り始める時間。落ちたら色んな意味で危ない。


「影チームからは特に文句出てないけど、準備はいいねみんな」

「神の決定に否やなどございません」

「俺は姫様が行くとこならどこでも行きまーす」

「僕も同じくです!」


 よいお返事が聞けたので、ミリューによろしくと声をかける。ザコルの合図で、彼女はぶわりと羽に空気抱え込んだ。





「わー寒っ、さっむぅ!!」

「すみません僕が一番前にしたばかりに! 大丈夫ですかミカ!」

「大丈夫です! 寒すぎて笑えるなと思って叫んでました」

「あなたは何でも面白がりますよね……」


 生身でこんな上空を飛ぶなんて。異世界にでも渡らない限り体験しようとも思わなかっただろう。こっちに来てから随分とアウトドア派になったが、元は読書にしか興味のない、超インドア派の私だ。


「本当に、大丈夫ですか」

「大丈夫ですよ。勢いって大事ですよね。逆によかったかも! やっふー!」


 叫ぶのは楽しい。どんな時でも勝手に胸が躍ってくれるから。



 ……コソコソと人に探らせて、と思われただろうか。

 ……脅されてやっと来たの、と思われるんだろうか。



 自分はなんとも『思えない』くせに、どこかで嫌われたくない、薄情に思われたくないと、見えない相手の顔色を伺っている自分がいる。


 自分を強い人間だとは思ったことはないけれど、記憶の一部を失くした十歳のあの日以来、私は周りの力を借りて立ち直り、そして自分の力で踏ん張れる大人へと成長した。今更親の庇護なんていらないし、無償の愛を求める気などかけらもない。


 ただ、もし会えたなら。どんな顔をして会えばいいか分からないだけ。それだけだ。それだけなのに……。


「支えますから、側にいますから。どうか、どうか何も我慢しないでください、ミカ」


 ぎゅ、腰に回された腕に力がこもる。聴き慣れた声が、ぬくもりが、気配が。ざわつく心をそっと撫でて包み込む。


「……うん、そうですよね。呼んだのはあっちですもん。せいぜい、引っ掻き回してやりますよ」

「ええ、ぜひそうしましょう」


 私達の会話は強い冷風の中に消え、傾いた太陽が私達の背中を押す。山はいずれ来る夜を木陰に潜ませ、はやくはやくとこちらを急かす。



 急がなきゃ。






 ミリューが降り立ったのは、『ツルギ』という広大な山岳地帯の中でも一等高くそびえ立つ、それこそ富山の剣岳を思わせる尖った岩山の麓……といっても山全体で言えば中腹よりも上にある、なだらかな傾斜地の一画だった。


 いわゆる森林限界というやつなのか、その少し先には樹木のない地帯が広がっているのがここからでもよく見える。あの先は人間を含む下界の生物の暮らす世界ではないと、明確な線が引かれているようだった。


 その森林限界を背にした傾斜地には、古城のような雰囲気の建造物があたかも自然の一部のように存在していた。おそらく元からそこにあったであろう巨岩も利用しつつ、大小様々な石をパズルのように組み合わせ、堅牢に積み上げられた城壁。雪に埋もれているので正確な高さなどは判りにくい。


「趣深い場所でございますね。サカシータ子爵邸の古い遺構と近しい年代のものでしょうか」


 タイタはイリヤと結びつけた縄をほどきながらそうコメントした。


「どうだろうね、なんとなく歴史的価値の高そうな建物ではあるけど……ザコル、ここが総本山なんですか?」

「いえ。僕も立ち入ったことはありませんが、ここはおそらく儀式や祭礼などを行う場所ではないでしょうか。彼らの住居は他にありますので」

「そうですよね。ここへ来る途中でどこの宮殿かと見間違う建物がチラッと見えましたもん」


 それこそかつての威光を見せつけるかのような、いかにもド派手で立派な建造物が山の中腹あたりにあるのを空から目撃していた。その城の裾に広がっていたのがきっと山の民達の居住区なのだろう。


「なあ、さっさとミリナ様探そうぜ」

「エビー、勝手に動いちゃダメ。ここは完全に別の国だと思った方がいいよ」

「でも、こんなとこで夜明かせねえっしょ。空気も薄いし、大体……」

「ミリュー、ここに母さまがいるの?」

「どこが入り口なんですかねこれ……わっ、と」


 サゴシが飛んできた何かをサッと避けた。一瞬緊張が走ったものの、雪の上に転がったものを見て全員脱力した。


「柏のドングリ……。はいはい、いるのは分かってるよ。二人とも出ておいで」


 ガサガサ。


「ミカ!」

「お姉さん!」


 城壁の陰から顔を出した兄妹は、そろってこちらへ駆けてきた。




つづく

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