第7話 慈善事業の「寄付金の使い道」を報告するようにしただけなのですが
昨日の夕方、予約投降を間違えて一瞬投稿しちゃったかもしれません。すでに読み終えてしまった方は誠にすみません。
ある日のこと。
私は、領内の慈善団体の関係者たちが集まる会合に出席していた。
孤児院や貧しい家庭を支援している団体が、今後の活動について話し合う場である。我がコモッセンス伯爵家も以前から協力しているので、私も顔を出していたのだ。
「実は最近、寄付金の集まりがあまりよくなくて……」
そう切り出したのは、とある慈善団体の代表を務める婦人だった。
聞けば、ここ数年、寄付してくれる人が少しずつ減っているらしい。
「もちろん、寄付はあくまで善意によるものです。無理にお願いするわけにもいきませんし、ましてや金額を決めて負担していただくなんて……」
「ええ。それはそうですね」
寄付というのは、そもそも義務ではない。誰かの役に立ちたいと思った人が、自分のできる範囲でするものだ。
そこにノルマなんて設けてしまったら、もはや寄付とは呼べない気がする。
「ただ、支援を必要としている方々はまだまだ大勢いらっしゃいますので……。できれば、もう少し多くの方に関心を持っていただきたいのです」
うーん。なるほど。
ちなみに、この団体では普段、街角に募金箱を設置したり、貴族たちに寄付を呼びかける手紙を送ったりしているそうだ。
見せてもらった案内には、痩せた子供たちの写真とともに、こんな言葉が書かれていた。
『あなたの善意が、恵まれない子供たちを救います』
……ああ、前世でもよく見たなあ。こういうの。
駅前や街頭で、貧困に苦しむ子供たちの写真を掲げて募金を呼びかける光景。
もちろん、困っている人たちの現状を知ってもらうことは大切だと思う。
ただ、私としては昔から、ちょっと気になっていたことがある。
寄付したお金が、その後どうなったのか、いまいち分からないのだ。
例えば、子供たちの食事のために寄付をしたとして、本当に食事を用意できたのか。子供たちはお腹いっぱい食べられたのか。
そういうことって、案外知らされないんだよね。
「あの、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「はい。なんでしょう?」
「こちらでは、寄付してくださった方々に、その後の活動について報告などはされているんですか?」
「報告、ですか?」
「ええ。集まった寄付金で何を購入したとか、どのくらいの方を支援できたとか」
「会計の記録は残しておりますが、寄付してくださった皆様に、そうしたご報告は特に……」
ああ、やっぱり。
「だったら、それをやってみるのはどうでしょう?」
「と、仰られますと?」
「寄付のおかげで実際に何ができたのか、写真などと一緒に紹介するんです」
例えば、服を買うための寄付なら、新しい服を着た子供たちの写真。食事を支援したのなら、みんなで楽しそうにご飯を食べている様子でもいい。
「もちろん、写真に写る方の了承は必要ですけどね」
「なるほど……」
「寄付した人だって、自分のお金が役に立ったと分かれば嬉しいと思うんです。『寄付してください』だけじゃなくて、『皆さんのおかげで、こんなことができました』という報告もあった方がいいんじゃないかしら」
すると、婦人ははっとしたように顔を上げた。
「確かに、これまで私たちは、支援をお願いすることばかり考えていたかもしれません」
「いえ、それも大切なことだと思いますよ。ただ、せっかく寄付してくださった方々にも、その後のことを知っていただきたいなって」
「そうですわね。子供たちの喜ぶ姿を見ていただけたら、私たちとしても嬉しいですし」
さらに、私はもう一つ提案してみた。
「それと、寄付金の使い道も分かりやすくまとめた方がいいと思います。食料にいくら、衣服にいくら、運営費にいくら、といった具合に」
別に、寄付金を一枚残らず物資の購入に使えという話ではない。人件費や運搬費だって必要だろうし、それならそれで説明すればいい。
「そうすれば、寄付する側も安心できますしね」
「なるほど! さっそく次の案内から取り入れてみます!」
おっ。それなら、ちょっと楽しみだ。
……と、そんなときだった。
「少々、よろしいでしょうか」
会場の一角から、ひとりの中年男性が声を上げた。
確か、別の慈善団体で責任者を務めている方だったはずだ。
「寄付金の使い道をいちいち報告するとなると、相応の手間がかかりますぞ。我々としても、その分を支援活動に充てた方がよいと思うのですが……」
「ああ、それは確かに。ですから、年に一度でも十分だと思いますよ」
「しかし、支援は数字だけで測れるものではありませんし、寄付者の皆様も我々を信頼してくださっているわけで……」
「ええ。だからこそ、その信頼に応えたいんです」
「それは、まあ……」
男性は、なんとも歯切れの悪い返事をした。
……うーん?
なんだろう。言っていることは分からなくもないのだけれど、どうにも報告すること自体を嫌がっているような……。
そういえば、これも前世であったような。
善意で集めた寄付金が、本来の目的とは違うことに使われていた、なんてニュース。中には、担当者がこっそり着服していた事件もあったっけ。
(まさか……)
無論、報告に消極的だからといって、不正をしているとは限らない。ただ、このままスルーするのも良くない気がする。
……よし、それならちょっとだけカマをかけてみようかな。
私は同席していた伯爵家の役人に声をかけた。
「そうだわ。この機会に、領内の慈善団体の会計を一度まとめて監査してみましょうか」
「監査でございますか。承知いたしました。では、各団体に帳簿の提出をお願いしましょう」
「か、監査ですと!?」
途端に、中年男性の声が裏返った。
「ま、待ってください! まさか、我々を疑っておられるのですか!」
「いえ、全団体を対象に確認するだけですよ」
「し、しかし、帳簿にはその、色々と都合が……!」
額には、いつの間にか汗が浮かんでいる。
……あらら。
「でも、やましいことがなければ、何も問題ないはずですよね?」
「うっ……!」
男性は言葉を詰まらせ、そのままがっくりと肩を落とした。
……どうやら、賽の目は出たようだ。
◇
さて、それからしばらく経って。
例の婦人が代表を務める団体から、新しい活動報告が届いた。
寄付金の使い道が、食料費、衣服代、施設の修繕費、運営費と分かりやすく記されている。そして何より目を引いたのは、添えられた写真だった。
みんなで元気に笑う子供たち。温かい料理を囲む楽しそうな食卓。雨漏りしていた屋根も、すっかり修理されている。
おお。これはいいじゃない!
数字だけでも使い道は分かるけれど、こうして見ると、やっぱり印象が違う。
しかも、寄付者たちからも大好評だったそうだ。
「まあ! あの子たち、こんなに元気になったのね!」
「去年のお金がちゃんと役に立っていたと分かるのは嬉しいですわ」
「次もぜひ協力させてください!」
中には、写真を見て初めて寄付を申し出た人もいたらしい。おかげで寄付金の集まりも、徐々によくなっていったという。
へえ。それはなによりだ。
「あ……そういえばヘイミー様。例の殿方は、その後……?」
「ん?」
例の殿方――言うまでもなく、会合の場で監査に激しく動揺していた彼である。
「ええ、もちろん逮捕されましたわ」
当たり前である。
実はあのあと全団体を対象として本当に監査を行ったところ、案の定、彼は寄付金をこっそり着服していたらしい。しかも同様の者が他の団体にもちらほら。
ただし、当然ながら不正発覚後は即座にお父様が厳正な対処を施し、着服したお金はきっちり全額返還させることになった。さらにはそれだけに留まらず、彼らには相応の重い処分も下されたのでご安心を。
まさか我が領内に、あんな人の善意を食い物にする愚か者がいたなんて。実に嘆かわしいことである。
もっとも、せめてもの救いだったのは、大半の団体は真面目に活動していたことだ。加えて今回の取り組みをきっかけに、正式に毎年監査を行うことが決まった。
おかげで慈善活動自体は、滞りなく続いている。
先日も、街角の募金箱の隣に、冬服を着た子供たちの笑顔の写真が掲げられていた。
『皆様のおかげで、今年の冬は子供たちがいつもより温かく過ごすことができました。ご支援いただき、誠にありがとうございます』
それを見た婦人が、連れの女性に話しかけている。
「去年も少し寄付したんですけどね。あの子たちの写真を見たら、今年も協力したくなっちゃって」
「あら、それは素敵ね。私も少し寄付していこうかしら」
二人は楽しそうに募金箱へ向かっていった。
寄付をお願いするだけじゃなくて、寄付してくれた人にも嬉しい気持ちになってもらう。
うん。やっぱり、そういうのがいいと思うのよね。
別にどことは言いませんが、そういえば最近こんなことあったなぁ……というお話でした。




