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社交界のお茶会に「欠席」という選択肢を作っただけなのですが【連載版】  作者: 宮田花壇


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第6話 暑いので街角に「シャワー」を設置してみただけなのですが

若干、季節外れですが

 季節は夏。


 その日、私は領地を治める伯爵家の令嬢として、領内の商人たちとの打ち合わせに出かけていた。


 午前中に二件、午後に三件。それぞれ訪問先が違うため、馬車と徒歩を使い分けながら順番に回っていく予定である。


 ただ、問題はその数というよりも。


 ……とにかく、暑い。


 この日は朝から日差しが強く、少し外を歩いただけでも汗が噴き出してくるような陽気だった。おまけに、貴族令嬢の服装というのは、なかなか暑さに厳しい。


 もちろん夏用の薄手のドレスではあるのだが、それでも前世のように半袖のシャツ一枚、というわけにはいかないのである。


「お嬢様、大丈夫ですか?」


「ええ、平気よ。……ちょっと暑いけど」


 付き添いの侍女から差し出されたハンカチで、私は首元の汗を拭った。


 すでに午前中の二件を終え、これから昼食を挟んで午後の訪問先へ向かうところだ。


「ねえ、どこかで体を洗ったりできないかしら?」


「お体を、ですか?」


「ええ。お風呂というほどではなくて、さっと汗を流すだけでいいんだけど」


「そうですね……。この辺りですと、浴場まで少し距離がございますし、お屋敷に戻られる方が早いかもしれません」


 うーん。やっぱりそうか。


 とはいえ、今から屋敷に戻っていたら、午後の予定に間に合わなくなってしまう。それに、浴場へ行くほどのことでもないんだよね。


 ……ああ、そういえば。


 私はふと、前世のことを思い出していた。


 前世でも、夏場の外回りはなかなか大変だった。駅から取引先まで歩くだけで汗だくになり、次の訪問先へ向かう頃には、シャツがすっかり肌に張りついている。


 そんなとき、何度思ったことか。


(ああ、今すぐシャワーを浴びたい……!)


 別にお風呂に入りたいわけじゃない。シャンプーもいらないし、長々と体を洗うつもりもない。


 ただ、汗をざっと流して、さっぱりしたいのである。


 もちろん、着替えがなければ服はそのままなのだけれど、それでも体のべたつきが取れるだけで、気分はずいぶん違うはずだ。


 ……ん?


 そこで私は、あることに気がついた。


 そういえば、この世界には水を出したり温めたりする魔法がある。だったら、わざわざ大きな浴場を作らなくても、シャワーだけの小さな施設なら簡単に用意できるんじゃないだろうか。


 街中に、誰でも気軽に使えるシャワー室があれば……。


 おお。それ、結構便利かもしれない。


「お嬢様? どうかなさいましたか?」


「あ、ううん。ちょっといいことを思いついただけ」


 不思議そうにこちらを見る侍女に、私は笑って答えた。


 とはいえ、今すぐどうこうできる話でもない。とりあえず、今日の仕事を終えたら考えてみよう。


 そうして私は、午後も汗を拭きながら商人たちの元を訪ね歩き、ようやく夕方になって屋敷へと帰り着いたのだった。


 ◇


 さて、そんなわけで。


 後日、私は領内の施設管理を担当する者たちに頼んで、街の一角に小さなシャワー室を作ってもらうことにした。


 といっても、最初からあちこちに設置するつもりはない。


 そもそも、本当に需要があるかどうかも分からないのだ。まずは一か所だけ、試験的に運用してみることにした。


 場所は、商店や事務所が集まる比較的人通りの多い通り。


 必要なのは、体を洗うための小さな空間と、着替えができる程度のスペースだけだ。


 水やお湯は魔法で供給できるし、排水も既存の設備を利用すればいい。浴槽がない分、普通の浴場よりもずっと小さくて済む。


 もちろん、鍵付きの個室にして、外から中が見えないようにするのは絶対条件。あとは清掃や管理を担当する人を配置すれば、ひとまず完成である。


 ……うん。思っていたより簡単にできちゃった。


 ちなみに、利用料は銀貨一枚。時間制限はあるけれど、汗をざっと流すには十分だ。


 だって、別にお風呂に入りたいわけじゃないもの。あくまで、ちょっと体を洗いたい人向けの施設なのである。


 なお、施設の名前については、担当者たちと相談した結果、『街角シャワー』と名付けることになった。なかなか分かりやすくていい名前だと思う。


 さて、こうして準備が整ったところで、いよいよ試験運用開始。


 せっかくなので、私も実際に使ってみることにした。


 その日もなかなか暑かったのだけれど、個室に入って鍵をかけ、さっと汗を流してみると……。


「おお」


 これはいい!


 汗でべたついていた肌がさっぱりして、なんとも気持ちがいい。


 もっとも、着てきた服はそのままだから、完全にすっきりというわけにはいかない。でも、体を洗えるだけでも全然違う。


 これなら、外回りの途中でも気軽に利用できそうだ。


 ……うんうん。我ながら、なかなかいいものを作ったんじゃない?


 そして、肝心の一般利用者からの評判も上々だった。


「仕事の合間に汗を流せるのがありがたい」


「浴場に行くほどではないときに、ちょうどいい」


「銀貨一枚なら、気軽に利用できる」


 などなど。


 特に人気だったのは、荷物の運搬や屋外での作業など、汗をかきやすい仕事をしている人たち。


 ほかにも、商談の前に身だしなみを整えたい商人や、買い物の途中で立ち寄る人など、思った以上に幅広い層が利用しているらしい。


 へえ。やっぱり、みんな暑いときにはさっぱりしたいんだなあ。


 ちなみに、設備が小さく、利用時間も短いため、銀貨一枚という料金でも十分に運営できそうだという。それなら何よりである。


 こうして試験運用が順調に進むと、今度はほかの場所にも設置してほしいという要望が寄せられるようになった。


 無論、私としても断る理由はない。むしろ大歓迎だ。


 ただ、伯爵家がいつまでも施設を増やして管理するというのも、なんだか違う気がする。それなら、いっそのこと商売にしてもらえばいいんじゃないだろうか。


 そこで私は、街角シャワーの経営に興味がある商人を募ることにした。


 すると、試験運用で需要があることはすでに分かっていたためか、これがなかなかの反響だった。


「ぜひ私にやらせてください!」


「いや、うちが!」


 中には、自分の店の空きスペースを利用して始めたいという人までいた。


 私は希望する事業者たちに、設備の仕組みや運用方法を教え、あとはそれぞれにお任せすることにした。


 これで伯爵家がすべての施設を管理する必要もなくなるし、商人たちにとっては新しい商売の機会にもなる。


 お互いにウィンウィンだ。


 そんなわけで、街には少しずつ街角シャワーが増えていったのである。



 ……で、ここからがちょっとおもしろい話なのだけど。


 後日、街角シャワーの事業者から届いた経営報告に、ちょっと意外な利用例が書かれていた。


「ん?」


 それによれば最近、衣料品店で新しい服を購入した人が、その足で街角シャワーを利用するケースが増えているらしい。


 というのも、買ったばかりの服をそのまますぐに着たい。でも、夏場に汗でべたついた体で新品の服を着るのはちょっと嫌。


 だったら、先にシャワーで汗を流して、その場で新しい服に着替えてしまおう、というわけだ。


「……ああ、なるほど!」


 確かに、その気持ちはちょっと分かる気がする。


 しかも、これがなかなか好評らしく、最近では衣料品店の方から「ぜひ店の近くにも設置してほしい」という相談まで来ているのだとか。


 私としては、外回りの合間に汗を流せたら便利だな、くらいの気持ちだったのに。それがまさか、こんな思いもよらない需要につながるなんて。


「つくづく、商売というのは奥が深いわね……」


 私は報告書を机に置きつつ、そんなことを思うのだった。


夏場、午前中に自分の用事→午後に人と会う約束があるときとか、よく思ったりします。そしてそんなときはシャワーを浴びるためだけに某マンガ喫茶に寄ったりします。

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― 新着の感想 ―
寒い時期の事を考えるならサウナを併設すれば良いかも⁇
夏にマジで欲しい設備だ〜汗だく地獄の仕事なので 贅沢言うなら 水分を吹き飛ばす何かもあればよいかな? それともレンタルタオルとかあってもいいかな! ついでにクリーニング店の近くにあって、着替えた汗だく…
わかる!仕事が終わって帰宅する前に仕事場の汗流して帰りたいって思う。特に車で仕事場に行ってる時は汗を流してエアコンが効いた車を運転するだけって時。
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