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社交界のお茶会に「欠席」という選択肢を作っただけなのですが【連載版】  作者: 宮田花壇


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第5話 お屋敷の門番に「椅子」を用意しただけなのですが

 ある日のこと。屋敷の門を通りかかった私は、ふと警備兵の一人がしきりに足を踏み替えていることに気づいた。


「お疲れさま。大丈夫? 足が痛いの?」


「あ、お嬢様! いえ、問題ございません!」


 慌てて姿勢を正す警備兵。


 別に叱りにきたわけでもないし、そこまで恐縮しなくてもいいのだけれど。


 しかし、よく考えてみると、この屋敷の警備兵はいつも立っている。朝も昼も、私が門を通るときには必ず背筋を伸ばしているのだ。


 もちろん交代制ではあるのだろうけれど、それでも何時間も立ちっぱなしというのは大変そうだ。


 ……ああ、そういえば。


 私は前世のことを思い出していた。


 学生時代、ショッピングモールの雑貨店でアルバイトをしていたことがある。


 仕事内容は商品の陳列やレジ打ち、接客など。それ自体は特に難しくなかったのだが、一つだけ辛いことがあった。


 立ちっぱなしなのである。


 お客さんがいるときはもちろん、誰もいないときでも座ってはいけない。


 なんでも、店員が座っていると、お客さんからだらしなく見えるらしい。


 いや、気持ちは分からなくもない。


 でも、お客さんがいないときくらい座ってもよくない?


 ずっと立っていると足は痛くなるし、疲れてくると集中力も落ちてしまう。暇な時間ほど時計ばかり気にしていたものだ。


 あれは本当に辛かった。


 そんなことを思い出していた私は、目の前の警備兵に尋ねてみた。


「ねえ、ここに椅子を置いたらどうかしら?」


「……椅子、でございますか?」


「ええ。疲れたときに座れるように」


 すると、警備兵はぎょっとした顔になった。


「と、とんでもございません! 警備中に座るなど!」


「どうして?」


「それは……警備兵が座っていては、屋敷の威厳に関わりますし、不審な者への牽制にもなりませんので……」


 なるほど。


 確かに、門の前で警備兵が堂々と立っていれば、それだけで不審者を近づけない効果はあるだろう。


「けど、それにしたって数時間も続けてはつらいでしょう。集中力を維持するのも大変じゃない?」


「まあ……」


「もちろん、周囲への警戒は怠らないでほしいけれど。でも、やっぱり誰もいないときまで立っている必要はないと思うの」


 そもそも、警備兵の仕事は屋敷を守ることだ。立っていることではない。


 むしろ、足が疲れて肝心なときに動けなくなったら困る。


「というわけで、今後は門が見える場所に椅子を置いて、何かあったらすぐに立つ。これでいきましょう」


「まあ、お嬢様がそうおっしゃられるのであれば……。お気遣いいただき、ありがとうございます」


「あ、ちなみに居眠りは厳禁だけどね」


「そ、それはもちろんでございます!」


 その後、私はさっそくお父様やお母様、それと警備の責任者の方にも相談して、門の内側に椅子を置いてもらうことにした。


 最初はそれぞれみんな驚いていたけれど、警備に支障が出ないなら構わないということで、了承してくれた。


 こうして、我が家の門番には椅子が用意されたのである。


 もっとも、はじめの方こそ皆さん遠慮があったようで、椅子をチラチラ見るだけで立ったままの人もいた。


 ま、たしかに長年の習慣もあるし、急に座っていいと言われても落ち着かなかったのだろう。特に古くからいるベテランの方ほど、なかなか座ろうとはしなかった。


 とはいえ、やはり目の前に椅子があるという誘惑には勝てなかったらしい。


 他には私もなるべく、「せっかく置いたのだから、どんどん使って」と積極的に声をかけたこともあり、次第に屋敷内では椅子に座って警備を務める光景が日常となった。


 先日も、私の馬車が門に近づくと、椅子に座っていた警備兵がさっと立ち上がり、いつものように敬礼してくれた。


 そして馬車が通り過ぎると、また椅子に腰を下ろす。


 うん。何も問題ないじゃない。


 私はそんな光景を眺めながら、前世のアルバイト先にも椅子があればよかったのになあ、と思うのだった。



 ……で、それからしばらく経って。


「お嬢様、先日はありがとうございました!」


 門の前を通りかかった私は、警備兵の一人から声をかけられた。


「椅子のこと?」


「はい! おかげさまで、ずいぶん体が楽になりました」


 聞けば、以前は勤務が終わる頃には足が棒のようになっていたらしい。


 それが、適度に座れるようになってからは疲れが溜まりにくくなり、見回りの際にも足が軽くなったという。


「お恥ずかしい話ですが、立ち続けるのが当然だと思っておりましたので……」


「まあ、そういう決まりだったんでしょう?」


「はい。ですが、こうしてみると、確かに座っていても警備はできますな」


 警備兵は嬉しそうに笑った。


 私も前世で同じ苦労をしていたので、その気持ちはよく分かる。


「これからも、無理せずお仕事を頑張ってね」


「はい! ありがとうございます!」


 警備兵の元気な声が響く。身体の調子は良さそうだ。


 なお、門での警備に問題ないことがわかると、その後は屋敷のほかの警備場所にも必要に応じて椅子が置かれるようになった。


 それだけではない。


 いったいどこから話が伝わったのか、さらに屋敷の外――例えば、町にある商店などでもお客さんがいない時間は店員が座るようになった、なんて話も耳にした。


 へえ。それはなんとも素敵なことではないか。


今回の立つ座るに限らず、忙しいのは嫌な割に、暇すぎても今度は時間が過ぎるのが遅いんですよね

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― 新着の感想 ―
門の警備において重要なのは門の中の人の動向よりも門の外の状況確認です。門の内側で座っていたら門の外の様子の見える範囲がかなり限定される為、屋敷に訪れる人に直前まで気づかない・死角が多く不審者に気付けな…
店員さんが壁とかにもたれて立ってたり、中途半端な姿勢で事務仕事してたりするよりは、座って待ってる方が、見た目もいい気がします
 確かに立ち仕事の人は慣れがある。慣れているからと言っても疲労しないワケじゃないんだよね…。
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