表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガイ・グレーム・クロイドンの黄金の五年間  作者: 水前寺鯉太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/25

二十歳の正論と、夏の歪み

7月 6日


夏が、僕の思考をじりじりと焼き焦がす。

知能年齢は二十歳に達した。法的には成人、精神的には「無敵」の季節だ。

だが、今の僕が抱えているのは、世界に対する言いようのない苛立ちだ。知れば知るほど、周囲の人間の思考がいかに恣意的しいてきで、論理的な一貫性に欠けているかが目につき、耐え難くなる。

今日、塾の自習室でトラブルがあった。

些細なことだ。隣の席にいた現役の高校生たちが、模試の結果をさかなに、労働や格差について空疎くうそな議論を戦わせていた。

「結局、頭の悪い奴が底辺でパンでも焼いてりゃいいんだよ」

その一言が、僕の脳内の導火線に火をつけた。

僕は立ち上がり、彼らの論理の欠陥を一つずつ、冷徹に指摘し始めた。

市場経済における労働価値説、教育の機会均等という建前、そして彼ら自身の特権的な無知。僕の口から溢れ出したのは、教科書から得た知識を弾丸たまんに変えた、暴力的なまでの正論だった。

「君たちが『底辺』と切り捨てたその場所がなければ、君たちの食卓に並ぶパン一つ、明日には消えてなくなる。想像力の欠如を、知性の証明だと勘違いするのはやめたまえ」

教室内は静まり返った。講師が駆けつけ、僕をなだめようとしたが、僕は止まらなかった。

三十五歳の男が、二十歳の熱量で、十代の子供を論破する。

その光景は、客観的に見てひどく滑稽で、なおかつ醜悪だっただろう。

結局、僕は「他の生徒の迷惑になる」という理由で、その日の授業への出席を拒否された。

帰り道、夕立に打たれながら、僕は自分の拳が震えていることに気づいた。

僕は彼らに勝った。論理において、僕は一点の曇りもなく正しかった。

それなのに、なぜこれほどまでに虚しいのだ。

パン屋に戻ると、ギルバートさんが黙ってタオルを差し出してきた。

「ガイ、何があったかは聞かねえ。だがな、正しいことを言うときほど、言葉の温度には気をつけろ。熱すぎるパンは、人を火傷やけどさせるだけだ」

その言葉さえ、今の僕には「無学な者の逃げ口上」に聞こえてしまう。

二十歳の僕は、あまりに高慢で、あまりに孤独だ。

砂時計の砂は、僕の焦燥しょうそうをあざ笑うかのように、さらさらと、冷ややかに落ち続けている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ