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ガイ・グレーム・クロイドンの黄金の五年間  作者: 水前寺鯉太郎


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十七歳の肖像と、砂時計の音


4月 6日


思考の速度が、僕自身の筆記速度を追い越し始めている。

日記を書くという行為が、もどかしくてならない。昨日の僕が書いた文章を読むと、その幼さに失笑を禁じ得なかった。知能が「成長」するというのは、過去の自分を「脱ぎ捨てた古い皮」のように感じるプロセスなのだと理解した。


十七歳の僕が今、最も鋭敏に感じているのは「時間」の重みだ。

先日、ミラー先生のデスクで盗み見たあの言葉――


「不可逆的な退行」。


あの時はただ恐怖に震えるだけだったが、今の僕ならもう少し冷静に分析できる。この薬は僕の脳を異常な速度で活性化させているが、それはロウソクの芯を無理やり太くして、輝きと引き換えに寿命を削っているようなものだ。


僕に残された「黄金の時間」は、あと五年、あるいは六年。

大学を卒業し、社会に出て、一人前の人間として認められるには十分な時間かもしれない。しかし、その後に待っているのは、今この手にある「思考の道具」を一つずつ、指の間からこぼれ落ちる砂のように失っていく日々だ。


今日、パン屋の厨房でギルバートさんと衝突した。

彼は「昨日と同じ、いつもの食パン」を焼くことに執着している。僕は、現在の気温と湿度、そして小麦のタンパク質含有量から導き出した「最適解」の配合を提案したのだが、彼はそれを一蹴した。


「ガイ、理屈じゃねえんだ。パンは食べる人の体温を想像して焼くもんだ」


その言葉を聞いた瞬間、僕は彼を心底から「無知で、旧態依然とした老人だ」と見下してしまった。論理的な整合性よりも感情を優先する彼の生き方が、今の僕にはひどく非効率で、愚かしく見えたのだ。

しかし、夜になって独りになると、その傲慢な自分に自己嫌悪を覚える。


あのお兄さんたちに馬鹿にされていた「六歳の僕」を、一番近くで守ってくれていたのは、他ならぬあの無知な老人だったではないか。


知能が高まるにつれ、僕は「感謝」という大切な感情さえも、化学反応の一種として片付けようとしている。

僕は、これからどこへ向かえばいい?

あと数年で消えてしまうこの「十七歳の魂」を、何に捧げれば、僕は「僕」であったと証明できるのだろうか。


明日は、ミラー先生の目をまっすぐ見て、本当のことを問い質そうと思う。

僕はもう、操り人形のままでいるには賢くなりすぎた。

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