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ガイ・グレーム・クロイドンの黄金の五年間  作者: 水前寺鯉太郎


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境界線と、逆さまの真実

4月 5日


昨日よりも、さらに頭の中が冴え渡っている。

朝、パンをこねながら、僕は小麦粉に含まれるグルテンの構造について考えていた。今まで「感覚」だと思っていたものは、すべて「化学」と「物理」で説明がつく。ギルバートさんは相変わらず「愛を込めてこねろ」と言うけれど、今の僕には、その言葉が少しだけ滑稽こっけいに聞こえる。彼はいい人だが、この複雑な世界を単純に捉えすぎている。


今日は一週間に一度の検査の日だった。

白い壁の病院。薬品の匂い。今までは「怖い場所」だったそこが、今は「データを採取される場所」に変わった。 


主治医のミラー先生は、いつものように優しく笑いながら、僕にいくつかのパズルと計算問題を出した。十四歳の僕にとって、そんなものはあまりに退屈で、瞬きをする間に解き終えてしまった。 


「素晴らしい、ガイ。期待以上の数値だ」


先生がそう言って、僕の肩を叩く。その手は温かかったけれど、僕は先生の目が笑っていないことに気づいた。それは慈愛じあいではなく、珍しい観察対象を見る学者の目だった。


先生が電話で席を外したとき、デスクの上に広げられたカルテが目に入った。

今までの僕なら、ただの「模様」にしか見えなかっただろう。でも、今の僕には読める。逆さまに置かれた書類の、赤字で書かれた一節が。


【臨床試験:ピーク期間 5〜6年。その後、不可逆的な退行、および重度の副作用(1〜2年)の可能性】


心臓の音が、耳の奥でうるさく鳴り響いた。

「退行」……。元に戻るということか? いや、それだけじゃない。「重度の副作用」とは何を指すんだ?

先生が戻ってくる足音が聞こえたので、僕は慌てて視線を逸らした。鏡の中に映る僕は、あのお兄さんたちに笑いかけられていた時と同じように、引きつった「へらへら」とした笑顔を作っていた。


夜、日記を書きながら手が震えている。

知能が上がるということは、自分の「終わり」を計算できるようになることでもあった。

僕はあと五年で、再びあの霧の中に消えてしまうのか?


今、この手にある「理解」も「言葉」も、すべて期限付きの借り物だというのか。

明日は、ギルバートさんに本当のことを聞けるだろうか。

それとも、このまま賢いふりをして、砂時計が落ちるのを眺めているべきなんだろうか。

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