回避した悲劇の裏側で
side.フィルメランジェ・ルーシャン
我が孫娘は王国の聖女候補となる、と魔女の末裔である祖母のナタリーは予言した。
フィルメランジェは、祖母に溺愛されている自覚があった。祖母の望みを叶えたいと本心から考えて、黒魔法の才覚を開花させ、生まれ持った水性の性質の魔法を絡めて、従姉妹のアマリアの右手に現れた聖印の兆しを自分の右手に移す術を使った。
誤算は、例年とは異なり第1王子殿下がアマリア個人を名指しで呼び、聖印の開花に必要となる文言を唱えた事だろうか。
春の祝賀祭以降、全てが変わった、とフィルメランジェは思う。
聖女候補として聖印が開花したアマリアは教皇猊下が後見人となり、ルーシャン家を出て教会に身を寄せる事となった。
祖母の遺した北部地域の飢饉の予言も、カペリート公爵令嬢暗殺の予言も、悉く外れた。
北部地域の流通規制が緩和し、教会の定める聖人候補、聖女候補が3名出向いて土地の浄化に当たった結果、不作から解放された北部地域で飢饉が発生する事は無かった。
北部地域の魔道具の核の盗難に関わった者達は、祖母が良き友人となる、と予言したルシアン・キュティレット子爵令息を含めて処刑され、彼らが捕縛された時にキュティレット子爵令息がディルマ侯爵令嬢に渡した王家の秘毒の出処がエスメラルダ王妃陛下であると明らかとなった事で、エスメラルダ王妃陛下は離宮への無期限の謹慎処分となり、ディルマ侯爵令嬢は北塔への幽閉が決定した。
悉く、祖母の予言が覆されている。
魔女の予言は、聖女候補や聖人候補の予見と同じく、外れる事はないと伝わっているにも関わらず。
「…お祖母様の手記の解読を進めるよりほか方法はなさそうね…」
祖母が生涯大切に持ち歩いていた手記は、半分も読み解けていない。
なんせ、この世界には存在しない文字らしきもので記載されているからだ。
優秀な科学者が研究成果を他者に横取りされない様に、メモの類いは暗号で記すと聞く様に、魔女もまた、独自の方法で技術を秘匿するのだろう、とフィルメランジェは考えている。
手記に向き直り、相変わらず独特な文字だな、と考えながらフィルメランジェは解読作業に勤しむのだった。
ナタリー・ルーシャンの手記
この世界は「炎の魔女」と言う、魔女の末裔である祖母の悲願を汲み、日夜研究に没頭するフィルメランジェ・ルーシャンと言う少女を主人公とした少女漫画の世界観と酷似した成り立ちの世界である。
フィルメランジェは13歳の年の春の祝賀祭において、ひょんな事から聖女候補の認定を受ける。
王国で忌み嫌われる魔女の血筋でありながら、聖女候補となってしまった状況に戸惑いながらも、祖母の悲願である魔女に対する偏見や差別を無くすべく行動する。
物語中盤で本来の聖女候補である従姉妹のアマリアに、魔女である事を暴露され聖女候補を騙っていると断罪されかけるが、フィルメランジェが自ら聖女候補を名乗った事実が無い事と、王立魔法学園での実績を以て断罪は無効となり、フィルメランジェにとって不要である聖女候補の称号はアマリアの手に渡る事となる。
フィルメランジェの姿に心を打たれた第2王子ヴィルヘルムを含む、多数の魅力的な男性との恋の物語でもある。
―――手記は、日本語で記されている。




