婚約者の為の最前の手段
「そう言えば、悪役令嬢とは一体どう言う意味なのかな?」
シトリーが語った未来は確かに起こり得る事象である事は確認が取れたし、それらを未然に防ぐ事も出来た。
シトリーの言葉は信用に値するものとして、悪役令嬢とは何だ?と気になったので問いかけてみた。
『わたしにも、詳しい事はわかりません…。殿下がわたしの罪として挙げた事柄に対して悪女と呼ばれるのであれば兎も角、悪役令嬢と呼ばれた事は少々戸惑いました』
つまり、シトリーが「悪役令嬢とは何?」と戸惑った様子を、シトリーが歩んだ未来の僕は図星を突かれて口ごもったと捉えたのだろう。
シトリーがルーシャン嬢に対して行った虐め行為は、調べれば無実の裏付けが取れる様なものばかりだが、魅了の鐘の影響下にあった僕はそんな簡単な事実に気付けなかったのだろう。
教本を破損させる、階段の踊り場で突き落とす、わざと違う内容を教えると言った行動を、辺境伯の令嬢であるシトリーが行う必要はないし、子供じみた嫌がらせをする様な紳士淑女に相応しくない生徒は別棟に隔離される王立魔法学園でそれらの行動が許される訳がない。
『市井の間で流行している物語の中に、そう呼称される役柄があった様な気がしますが…』
「なるほど。創作物で言う好敵手の令嬢の呼称であると」
勧善懲悪の観劇に登場する、悪代官の女性版、と言う事だろうか。
僕の目の届かない場所で、シトリーが悪役令嬢と呼ばれる事は避けるべき事態だ。
「結婚しよう」
『…はい?』
王立魔法学園卒業後が王侯貴族の婚姻の目安とはなっているが、婚姻自体ならば14歳から可能となっている。
兄上の妻となったフローラ王妃が婚約関係の間に暗殺されかけたと言う前例がある訳だし、シトリーが僕と婚姻して王子妃となれば護衛に近衛兵を置く事も可能になる。
「早速、兄上とラグナート辺境伯に話を持っていく事にしよう」
『あ、ああああの、殿下?!そんな、話が突飛過ぎる事はございませんか!?!?』
「君を守る為の最前の手段となれば、僕にはこれくらいしか考えつかない」
真っ赤な顔であわあわと同様しているシトリーは、とても愛らしい。恐らく、この提案をすれば、この時代のシトリーも同じ反応をするのだろうなと思う。
『それでも、人生の一大事をそんなに簡単にお決めになっても宜しいのですか?!』
「シトリーを喪う大事を避ける事が出来るんだ、何の問題もないよ」
問題があるとすれば、ラグナート辺境伯への説得くらいかな。
婚姻の証人として、何故婚姻を早める必要があるのかの説明に、未来で落命したシトリーが経験した出来事を打ち明ける必要はある。
未来の可能性のひとつとは言え、愛する娘を死に追いやった相手との結婚を、簡単に承諾して貰えるだろうか?
或いは、飽くまで可能性のひとつと割り切って受け入れてくれるだろうか?
まあ、どうにかなる、と祈るしかないかな。




