北部地域の異変に対する救済
議会にヴァトゥール子爵令息の他にマルード伯爵令嬢がいるとは予想外だった。
マルード伯爵令嬢は祝賀祭より前に北部地域に足を踏み入れ、実際に見聞きした出来事を報告した。
「北部地域は海に近い事もあり、井戸には通常、海水を濾過し、飲み水や田畑を潤す為の水分として問題なく活用出来る様に、専用の魔道具があるのですが、
北部地域の全ての井戸で魔道具の核が抜かれた状態にある事を確認しましたわ。
つまり、北部地域に起きている不作の大きな原因は塩害です」
子供が巫山戯て核を抜いた可能性を王妃は口にしたが、北部地域で生まれ育ったものは幼い頃から井戸に設置されている魔道具の重要性を大人から口酸っぱく言い付けられる。
万が一の為に、魔道具は井戸の中、子供が手を伸ばした程度では届かない場所に設置されているし、魔道具に不備が発生した訳ではない。
つまり、明確な悪意を持って魔道具の核を抜いた誰かがいる、と言う訳だ。
「下手人の捕縛は完了しております。生活の要となる魔道具の核の盗難は、殺人や放火に並ぶ重罪。直に沙汰が下る事でしょう」
「ふむ、そうなると、北部地域に第1王子殿下、ヴァトゥール子爵令息、マルード伯爵令嬢が向かう必要がありますな」
塩害によって汚染された土地を兄上が癒し、マルード伯爵令嬢が水源を浄化し、ヴァトゥール子爵令息が作物の発育を促す。
教会の指名する聖人候補や聖女候補の3人が王都を離れる事は本来避けるべき事態ではあるが、民草の生命が掛かっているのだ、頭の硬い議会の連中も、文句は言えないだろう。
「ですが、北部地域の人間は、王家に対する叛意がありますのよ。支援要求は却下するべきではないかしら?」
「失礼ながらエスメラルダ王妃陛下。具体的に、北部地域でどの様な世論が流れたとして、王家に対する叛意として捉えていらっしゃるのですか?」
ヴァトゥール子爵令息の問いに、王妃は口を閉ざす。
北部地域の領主であり、僕の伯父上であるベルナール公爵は王妃が議会で提案した政策に対して意見陳述を行っただけである。
義母上が王妃となって提唱した主な政策としては、
「雀は害獣であるから、国を挙げて駆除すべきだ」
「貴族階級と平民の間に格差が生じるのは、学問に触れる機会に大きな差があるからだ。
医師や学者の活動を制限すべきだ」
「この数年、国内の出生数が減少している。皆最低5人は子供を設けるべきだ」
と挙げたものがある。
伯父上が真っ先に進言し、義母上の政策の実施を未然に防いだ結果、義母上は父上に、
「ベルナール公爵の治める北部地域では、王家に対する叛意がある」
として北部地域に流通の制限を掛けた。
歴史を紐解けば、義母上と同じ政策を行った他国でどの様な事態が発生したのかは知る事が出来るし、伯父上以外も、義母上の提案する政策に対して意見陳述を行っている。
「意見を述べ、進言しただけで叛意と捉えられるのであればこの場に揃った皆様方もまた、王家に対する叛意がある、と判断されるのでしょうか?」
そう言われてしまえば、義母上は何も言えない。
議会の結果、北部地域への流通規制の解除、並びに教会の定める聖人候補の兄上とヴァトゥール子爵令息、聖女候補のマルード伯爵令嬢の北部地域への支援が決定したのだった。




