春の祝賀祭
無事に兄上の協力を得る事が出来た上で迎える祝賀祭。
兄上は教会から指定された文言は唱えず、参列者の中にいたアマリア・フランメ嬢を名指して呼び出した。
異例の事態に参列者は動揺したが、アマリア嬢の右手の甲に聖印の兆しを見ると水を打った様に鎮まり帰った。
「―――眠れるものに、聖者の祝福を」
その文言に呼応する様に、火性の聖印は開花した。
その様子を見ていたルーシャン嬢はハッとした表情で口を開いた。
「畏れながら、発言の許可を頂きとうございますわ、第1王子殿下」
「不要だ。聖女候補が出現した、喜ばしい事ではないか」
「ですが、その娘は平民ですわ。今迄の歴史において、平民から聖女候補や聖人候補が出現した前例はありません、きっと何かの間違いでしょう」
「貴女の発言を許した記憶はない。前例がない事は、聖女候補として出現した理由を否定する判断材料とはならない」
確かに、表向きの歴史では平民の聖女候補や聖人候補はいない。
過去に十数人存在する彼ら、或いは彼女達は王侯貴族の落胤として生を受け、候補として覚醒したと証明されると元より王家の、或いは貴族であった様にその出生を書き換えられている。
王族でなければ、平民の聖女候補、聖人候補が実在したら前例は知らなくて当然ではある。
「ふむ、確かに、火性と、白魔法の才覚を持つ様だ」
沈黙していた教皇猊下が口を開いた。
「アマリア・フランメ。神の威光と我が名に於いて、其方を火性の聖女候補として認めよう」
「お、畏れ多い事でございます…」
恐縮するアマリア嬢に、教皇猊下は父親の様に優しく接した。
―――これで、シトリーの歩んだ未来のひとつは変える事が出来ただろうか。
平民から聖女が誕生したとあって、騒がしい1日であったが、祝賀祭が終わる夜迄に兄上はルーシャン嬢に対する調査を終えていた様だ。
「アマリア嬢が聖女候補として覚醒した事を、ルーシャン卿は祝福していた。その賛辞に偽りはなかった。
つまり、火性の聖女候補に名乗りあげようとしたのは、あの毒婦の独断だ。
ルーシャン家は何も把握していない」
聖人としての力を行使して調べたのだろう。
兄上はぐったりとしていた。
「身体の具合は大丈夫ですか、兄上」
「問題ない。ラグナート嬢の辿った未来でこの手から零れ落ちたフローラが受けた苦しみと比べれば、些事だ」
北部地域の支援要求に対する議会が開かれるのは数日後、教会に要請し、ヴァトゥール子爵令息が議会に参加する事は決定している。
北部地域の不作問題は兄上とヴァトゥール子爵令息の北部視察で解決の筋は見えるだろう。
『王妃陛下と、ディルマ侯爵令嬢との繋がりが見えてくれば良いのですが』
シトリーの不安を取り除く事は僕の義務だ。
どうにかカペリート公爵令嬢の誕生祝いの夜会までに、王家の秘毒がディルマ侯爵令嬢の手に渡る事は阻止しなければならない。




