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悲劇への対策

「これは、第2王子殿下。先触れを出して頂ければ迎えの者を用意致しましたものを」


ラグナート辺境伯は言いながら、応接間の使用人達を下がらせる。


夜半遅くに口の堅い従者ひとりを伴って第2王子が辺境伯の邸宅に来たとなれば、内密の話であろうと理解している様だ。


「それで、どのような用向きでしょうか」


「では、単刀直入に申し上げる。北部地域に不作の兆しが現れている事は御存知でしょうか」


「そうですな。キュティレット子爵令嬢…、今は、エスメラルダ王妃陛下ですか。彼の貴人の采配により、北部地域への支援は難しい状況となっております。このままでは北部地域は、そう遠くないうちに飢饉に見舞われ餓死者が出る可能性があるかと」


北部地域は、僕と兄上の母上の生まれ育った大地である。


義母上が母上を嫌っていた事は幼かった僕の目から見ても明らかで、義母上が正妃の座に座り、王妃としての権限を振るう様になってから、母上が王宮にいた痕跡は僕達以外、何の跡形も無くなってしまった。


東国の言葉で言う、坊主憎ければ袈裟まで憎い、とはこの事かと理解する程、義母上は母上の故郷である北部地域から支援をお願いしたいとの申し出に対して難色を示す。


『王妃様は北部地域の飢饉と、それに伴う餓死者の人数を見て1番に気になさった事は、自らの評判でしたわ』


そうして北部地域に慰問に訪れ、生き残った者達を労う、と言うパフォーマンスをしたらしいが、義母上が母上を嫌っていた事、王宮から母上が存在した痕跡を抹消しようとしていた事は広く知られた事実。


民衆からの、針のむしろの視線に耐え切れず、直ぐに王宮に戻ったと言う。


義母上がどうにか評判の回復に務めていた時に起きたのが、カペリート公爵家主催の夜会で発生した、義母上の派閥の貴族の手によるカペリート公爵令嬢の毒殺。


数代にわたり宰相を務めるカペリート公爵家の、当代の愛娘であり、第1王子の婚約者の殺害に関与したとなれば、流石の父上も庇いきれない。


義母上は北塔への幽閉が決まったのだとシトリーは言った。


義母上がどうなろうと構わないが、民衆に多くの餓死者が出る事、兄上の最愛であるカペリート公爵令嬢が毒殺される事はなんとしてでも防ぎたい。


「つまり、殿下は北部地域に対しての規制を緩和出来ないかとお考えでいらっしゃるのですね」


ラグナート辺境伯は少し考慮した後、ヴァトゥール子爵令息の名を挙げた。


「ヴァトゥール子爵令息は歴代の木性の聖人の中において最も強い才覚を持っておりますし、土性の聖人であるオズワルド第1王子殿下とも親しい仲にある。


王家は兎も角、教会が聖人候補たるヴァトゥール子爵令息の発言は無視出来ない。


王家の法の前に神の法がある。そして、オズワルド第1王子殿下は次代の国王として陛下の仕事を引き継ぐ義務がある。


次の議会迄に、第1王子殿下とヴァトゥール子爵令息の協力を得るのが宜しいかと」


義母上の性質を、ヴァトゥール子爵令息は克する。


議会に子爵家の人間を呼び出す事に元老院は難色を示すだろうが、ヴァトゥール子爵令息は曲りなりとも聖人候補である。


議会に参加する為に必要とする身分は、教会が保証している。


ヴァトゥール子爵家は北部地域への流通の規制に対して王妃の権限の私的利用だと苦言を呈していると聞いた。


ヴァトゥール子爵夫妻は現在、社交界において肩身の狭い思いをしている。


ヴァトゥール子爵令息が木性の聖人候補として議会に参加し、北部地域への支援について言及し、兄上がその発言を後押しすれば義母上は完封出来る、と言った算段か。


これで、北部地域の不作による飢饉と餓死者の発生に対する対策への道筋は見えてきた、と言ったところだな…


次は、カペリート公爵令嬢の毒殺を防ぐ為にはどうすれば良いか、探らなくては。

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