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学園生活満喫の為に

「これ、本当に必要っすか…?」


「うん。僕の妻(シトリー)の不安要素は可能な限り排除したいからね」


従者のアルフォンスから報告書の束を受け取る。


合同授業でもないのに淑女科に出入りする訳にはいかないので、アルフォンスの婚約者ジャネット・リージア嬢の協力を得てシトリーの様子を見守っている。


近衛兵10名が、生徒の視界に入らない様に配置されているのだから物理的な脅威に対する心配はしていないのだけれど、シトリーの精神面に対してはまだ心配が残る。


「…なるほど…」


報告書には、シトリーがルーシャン嬢に対して課題に必要な薬草を譲渡した、とある。


だが、現在の淑女科で噂となっているのは、シトリーが僕の婚約者である事を理由にルーシャン嬢が課題提出に必要な薬草を取り上げ自分の課題に使用した、と言うものだ。


「事実と異なる内容が淑女科で流れているんですか?」


「シトリーの性格を良く知る令嬢達は全く信じてはいないけれどね」


ルーシャン嬢は、自分が火性の聖女候補と親戚関係にある事からシトリーに目を付けられている、と吹聴しているらしい。


過去、聖女候補やその親戚関係にあたる令嬢が王子の側妃として迎え入れられた事があるのは事実だが、兄上が聖人候補である以上、態々外から聖女候補を側妃に迎え入れる必要はない。


従姉妹であるアマリア嬢は自分の名を出してまでシトリーの評判を下げようとするルーシャン嬢に頭を悩ませているそうだ。


「私がルーシャンの屋敷で暮らしていた時には、私をいないものとして扱っていましたのに」


彼女達の祖母ナタリーは晩年、自分の孫娘は聖女候補となる、とよく口にしていたそうだ。


祖母を心酔するルーシャン嬢はナタリーの言う聖女候補とは自分の事である、と信じて疑わないのだそうだ。


アマリア嬢もまた、ナタリーの孫娘である事に違いはないと言うのに。


「お祖母様は、なんと仰っていましたの?」


「我が孫娘は聖女候補となる。しかし、それはフィルではない。フィルにはフィルの、為すべき使命がある、と。そう仰っていました」


ルーシャン嬢は最初の1文しか聞いていない、と言う事かな。


祖母の遺した予言―――予測の多くが当たっている事から魔女の予言は確かなものなのだと信じているのだろうけど、2年前の春の祝賀祭を前に全てが変化している事で祖母が転生者である可能性に思い至る事は無かったのかな?


ルーシャン嬢は課題の再提出の為に薬草園を訪れたものの、身分を理由に門前払いを受けたと訴えていた。


薬草学の教授であり、薬草園を管理しているシリウス教授に事実確認をしたところ、身分を理由に薬草園の出入りを禁じる様な真似をした事はないし、そもそも、フィルメランジェ・ルーシャンと言う名の生徒が薬草園に来た事もない、と返ってきた。


「まあ、あの様子で来ていたのならば、別の理由で薬草園の入室を断りますな」


祖母の予言通りに進まない事に苛立ちを覚えているのか、ルーシャン嬢は魔力漏れを頻繁に起こしている。


その状態で薬草園を歩こうものなら薬草園の薬草が根腐れを起こして全滅するだろう。


「帝国のジシュカ将軍とは連絡は付いたか?」


「現在領地で謹慎処分を受けているそうです」


海流の動きと、クラーケンの繁殖期を考慮すれば確かに近いうちに大型のクラーケンが北部地域の海域に出没する可能性がある、と海洋学者からのお墨付きを受けている。


帝国のジシュカ将軍もクラーケンについて皇帝陛下に進言したそうだが、可能性程度で第8皇子の初の公務となる新型の大砲のお披露目を兼ねた軍事演習を取り止める理由にはならない、と突っ撥ねられたそうだ。


再三の進言の結果、領地での謹慎処分を受けたのだと言う。


穏やかな学園生活の為にも、不安要素は徹底的に排除しなくてはね。

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