好きな物語
side.ナタリー・ヴォディアノヴァ
自分が異世界転生していると理解したのは、村に滞在していたラグナート辺境伯の護衛を勤めるルーシャン準騎士に求婚された瞬間だった。
炎の魔女、と言う少女漫画は中世ヨーロッパ風の舞台に五行思想と言う中華要素も含む少女漫画で、おばあちゃん子である主人公は死の数ヶ月前に自分の祖母が王国で忌み嫌われる魔女の生まれである事、魔女は王国の負を背負っただけで本来ならば胸を張って生きる事が出来る筈の魔女の名誉回復と言う悲願を抱いて生きてきた事を知らされる。
主人公は祖母の悲願成就の為に独学で魔女の魔法を身に付けた。
その為、13歳の時に参列した祝賀祭において火性の聖女候補であると誤認されてしまう。
主人公の魔法学園での生活を中心に、魔女の名誉回復の悲願達成の為に行動し、魅力的な男性キャラクター達との交流を描く物語だった。
大好きな漫画だから、この世界に生まれて、主人公を影でサポートする様なキャラクターになりたいな、なんて思ってはいたけれど、私が転生したのはまさかの本編前に寿命で死ぬ事が決定している主人公の祖母。
主人公が9歳になるまでしか一緒にいられない。
主人公が誕生する為には私がルーシャン卿と結婚しなければならない。
漫画では、魔女の村の出身であるが為にルーシャン卿の求婚を三度断っているが、ここは現実。
漫画の通りになるかは分からない。
四度目の求婚の時、主人公の祖母に思いを寄せていた魔女の村の男性がルーシャン卿に斬りかかり、私はルーシャン卿の傷の手当をしながら自責の念から求婚を受け入れる、と言ったところ
「義務感で求婚を受け入れて欲しくは無い」
と返され、そこから2年の歳月を掛けて想いを通わせ合い、結婚に至る流れが最高に大好きなのだが、漫画とは違っているところだってあるのかもしれない。
ならば、早々に求婚を受け入れるべき?
だって、そうしなければ主人公が誕生しない。
「君の気が変わるまで、気長に待つ事にしよう」
無言を否定と捉えたのか、ルーシャン卿は滞在している村長宅に早足で戻ってしまった。
私は家に戻り、炎の魔女の物語を帳面に書き記す。
私は本編前に寿命を迎える事が決まっているけれど、主人公の手助けをする方法は存在するのだ。
漫画の中で起きた出来事をひとつひとつ、帳面に記していく。
これは、私の大好きな主人公の為になる筈だから。




