魔女が常に持ち歩く古ぼけた日記
『フィルメランジェ様はいつも、日記と思しき帳面を持ち歩いていらっしゃいました』
『お祖母様の予言通りにしていれば、全てが上手くいくのよ』
ルーシャン嬢は常に、困難に遭遇するとその帳面を開いて行動を起こしていたと言う。
その結果、魔法学園2年目の年にはこの世界で最も多くの多民族を有する帝国に対して戦争の火種を起こしかける事態となった。
軍事演習中に近年稀に見る大型のクラーケンの襲撃を受け、ベルナール公爵と父上に緊急の停泊許可を貰った上で北部地域の港に停泊した帝国籍の軍事船を
「帝国はこの国と戦争をするつもりなのだわ!」
と早とちりして魔女の魔法で粉微塵にしたのだと言う。
軍事船に乗船していた帝国の第8皇子の寛大な配慮により、ルーシャン嬢は1ヶ月の謹慎処分のみで赦された訳ではあるが、ルーシャン嬢は納得せず、父上に幾度となくクラーケンの襲撃は偽りで、やはり帝国はこの国と戦争を起こすつもりなのだと訴え続けたそうだ。
教皇猊下に厳重忠告を受け、父親に窘められた事によって渋々納得したのだと言う。
「ひとまず、大魔女の霊廟への入口である教会は改修工事の名目で多くの人目がある。例えフィールドワークで教会に足を運んだとしても、【めざめの霊廟】には物理的に侵入する事は出来ない」
後は、ルーシャン嬢の持つ帳面を此方の手に回収出来る様にする事が必須となるかな。
その後は目立つ行動を控えた、―――国を振り回す様な行動をしなかった、と言うだけで僕のシトリーからの虐めの捏造に精を出していた様だ。
「シトリー。学園内においては、決してひとりで行動してはならないよ」
「分かっておりますわ。それに、シシィもおります。未来を変えるべく、我が国の為に行動いたしますわ」
シトリーはふと小首を傾げてこちらを見た。
「殿下、何やら難しいお顔をしていらっしゃいますが、どうなされたのですか?」
「いや?仮に僕が、未来から来たと言う自分自身に出会ったならば混乱するだろうし、自分自身であるからこそ対立しそうなものであるのに、シトリーは何故そこまですんなりと受け入れているのかと思っただけだよ」
「時戻しの禁術については、父上から教えて頂いた事がございますわ。わたしにとってシシィは、わたしに国益となる情報を提供するパックアップ機能がわたしの形をしているだけの事ですわ」
禁術を扱う家系の貴族は古い時代に異世界人や転生者の技術を受け取った家系も多くある。
その為に、本来この世界には存在しない言語が幾らか残っている。
『そう言えば、あの帳面の中身を1度だけ見た事がございますわ』
幽霊のシトリーから聞いた帳面に記されていたものを、この時代のシトリーが書き出す。
…これは、文字、なのだろうか…?
「確か、ニホンゴ、と言うものですわ。やはり、ルーシャン嬢のお祖母様は転生者である、と考えて良いと」
わたしも、簡単なものしか分かりませんが、とシトリーは口にした。
『聖人候補、聖女候補の予見。魔女の予言は外れない、とありますわね…』
「ですが、ルーシャン嬢のお祖母様が転生者である場合、それは魔女の予言ではなく、ただの予測ですわ」
ルーシャン嬢はそれを予測ではなく予言である、と強く信じている。
だからこそ、帳面通りに動かねばならないと行動し、魅了の鐘を利用し、国内を乱した、と。
国も、シトリーも必ず守る。
「忙しくなりますわね、殿下!」




