王立魔法学園へ
僕とシトリーが婚姻した事実は公表はせず、信頼のおける口の固い高位貴族にのみ伝えられた。
魔法学園の理事長を務める叔母上は事情を知ると
「生徒に悟られぬ様、適切な距離感を保ちなさい」
「学園内の生徒に不審な動きがあれば、直ぐにわたくしを頼りなさい」
と仰って下さった。心強い。
自らの与り知らないうちに婚姻が早まり、王子妃として王子宮に迎え入れられ、寝所の片隅で縮こまっておどおどしていたシトリーは、自分の幽霊の姿を見ると何処か納得した様子だった。
「わたし、殿下の妃として国の大事に臨みたいと思いますわ」
「ありがとう。僕の妻は頼もしいね」
出来る事ならば名前で呼んで欲しいのだけれど、それは全てが無事に片付いてからにしよう。
「18歳のわたしは、この1年ずっと殿下のお傍にいたのですわよね?少し、羨ましいですわ」
『これからは、ふたりで殿下をお支えしましょうね、シシィ』
「勿論ですわ。早速、情報交換といたしましょう、シシィ」
シトリー同士による情報交換の様子を眺めながら、部屋の外からこちらの様子を窺っている兄上の姿を見付ける。
シトリーの邪魔にならない様に、兄上の方へ移動する。
「どうされましたか、兄上」
「お前、…羨ましいな…」
寝所にいる可愛らしい幼さの残る生身のシトリーと、大人の色香を身に付け益々魅力的な幽霊のシトリーと言う、愛する妻がふたりに増えた様な、1粒で2度美味しいと言える状況が羨ましい、と言う事か。
「成人まで、ハグとチークキス以上の接触はお預けですが。羨ましいですか?」
「14歳と言う、未成熟な淑女に無体を働く様な弟であればラグナート卿に話を持って行きはしない」
14歳での婚姻は可能ではあるが、王子妃としての役目のひとつは時期を置いた方が良い、と言う事は教育を受けている。
例えラグナート卿が許可して下さっていたとしても、シトリーに無理を強いるつもりは無い。
何せ、シトリーは王立魔法学園で見聞を広め、新しい魔法の開発をしてみたいと言う志を持っている。その夢を握り潰すような真似はしたくはない。
「此方も、ルーシャン嬢に対しては万全の対策を取る。ラグナート卿の信頼を裏切る様な真似はするな」
「分かっておりますよ、兄上」
入学まで残り後僅か。
シトリーの受けた悲劇を回避する為の時間は有限である。
「殿下、見てくださいませ!シシィが見事な氷像を作ってくださいましたの!」
『シシィも直に作る事が出来る様になりますわ。精進第一、ですわ』
美しい氷像を挟んで戯れるシトリー達の様子はとても愛らしい。
……
生殺し、とは、この様な状況を言うのだろうな。




