第7話
昼のチャイムが鳴り終わり、しばらくするとねーさんがやってくる。
いつも通り、軽く会釈をしながら礼儀正しく教室へ入ってくる。
ドア近くにいた女子グループに呼び止められ、楽しそうに会話を始めている。
間違いなく僕よりクラスに馴染んでいる。
悔しいやら、嬉しいやら、複雑な気持ちだ。
ただ、僕の腹の虫が悲鳴を上げているので、できるだけ早く来てほしい。
「お待たせ」
満面の笑みで僕の席へやってくる。
「もういいのか?」
「うん、理久がお腹すいてるみたいだから」
よく見ているな、と感心する。
手渡された弁当は、春の光を浴びて、いつもよりおいしそうに見える。
無理やり押し付けられた弁当だったが、今になって思えば、この選択は間違いではなかったのかもしれない。
「何を話してたの?」
楽しそうに笑う姿を見て、興味が湧いた。
「彼氏を紹介してあげようかって言われたの」
ねーさんは真顔で答えた。
僕は思わず顔を上げる。
「うそだよ。学校の近くにある、おいしいスイーツのお店を教えてもらってたの」
いたずらっぽく笑う姿を見て、知らないうちに止めていた呼吸をそっと吐き出した。
「部活、決めた?」
卵焼きをつまみながら尋ねる。
「うん、テニス部にするの」
ねーさんの口元が、意味もなく持ち上がる。
「そうだ、理久もテニス部に入りなよ」
僕は勝負事には向かない性格だ。
「絶対いやだ」
強く断らないと流されてしまう。
「可愛いねーさんが手取り足取り教えてあげるのに」
ねーさんの目尻に、いたずらっぽい光が宿る。
「一年ぐらい考えさせてもらうよ」
ねーさんの唇がわずかに尖った。
そんな顔をされると、こちらが悪いことをしているような気分になる。
僕が恥ずかしくて学校へ行けなくなることが、なぜわからないのだろうか。
「そういえば、真琴もテニス部だったね」
ねーさんの動きが、電池の切れた秒針のように止まった。
真琴は、中学三年から高校一年まで付き合っていた元カノだ。
中学三年の文化祭で意気投合したのがきっかけだった。
高校受験や進学ですれ違い、今は友人関係に落ち着いていると思っている。
真琴には、クリスマスにハンカチを贈った。
まだ使っているのだろうか。
しばらくして動き出したねーさんが、口を開く。
「以前話していたクラスの子なんだけど、同じ部活に入ることになったんだ」
「経験者なの?」
僕は尋ねた。
ねーさんは少し笑って首を振る。
「未経験だよ。私が中学の頃に使ってた予備のラケットを貸してあげる約束をしてるの」
未経験で高校から始めるのは大変だと思った。
きっと、その子は彼女のことが大好きなのだろう。
「それでね。その子が、ラケットを貸してもらうお礼にご馳走したいって言うから」
「スイーツのお店を教えてもらったの」
「いつまでも仲良くできるといいね」
そう言うと、今日一番の笑顔でうなずいた。




