第7話
昼のチャイムが鳴る頃になると、ねーさんがやってくる。
いつも通りゆっくりとドアを開け、教室へ入ってきた。
入り口にいた女子グループに呼び止められ、楽しそうに話しながら、しばらくして僕の席へやってきた。
こいつ、間違いなく僕よりクラスに馴染んでいる。
悔しいが、ねーさんが皆に受け入れられていることは、少し嬉しくもあった。
弁当箱を広げながら、ねーさんが女子たちと何を話していたのか聞いてみる。
「彼氏紹介してあげようかと言われたの」
ねーさんは真顔で答えた。
思わず顔を上げた僕を見て、
「うそだよ。学校の近くにある美味しいスイーツのお店を教えてもらってたの」
そう言って、くすくすと笑う。
妹のくせに、と悪態をつきそうになる。
ねーさんが作ったお弁当。春の光を浴びて、いつもより美味しそうに見える。
無理やり押し付けられた弁当だが、今になって思えば、この選択は間違いではなかったのかもしれない。
「部活、決めたの?」
卵焼きをつまみながら、ねーさんに尋ねる。
「うん、テニス部にするの。そうだ、理久もテニス部に入りなよ」
僕は勝負ごとに向かない性格だ。何を言われても全力で拒否したい。
「絶対いやだ」
強く出ないと流されてしまう。
「可愛いねーさんが手取り足取り教えてあげるのに」
不貞腐れた顔をされると、こちらが悪いことをした気分になる。
そんなことをされたら、恥ずかしくて学校に行けなくなることが、なぜわからないのだろうか。
「そういえば、真琴のテニス部だったね」
ねーさんの動きが、電池の切れた秒針のように止まった。
結城真琴は、中学三年から高校一年まで付き合っていた元カノだ。
文化祭で意気投合したのがきっかけだったが、受験や進学ですれ違い、今は友人関係に落ち着いている。
クリスマスに真琴に送ったハンカチは、まだ使っているのだろうか。
今度あったら聞いてみよう。
しばらくして動き出したねーさんは、話し始めた。
「以前話していたクラスの子なんだけど、同じ部活に入ることになったんだ」
「経験者なの?」と僕は聞く。
ねーさんは少し笑って首を振る。
「未経験だよ。私が中学の頃使ってた予備のラケット、貸してあげる約束してるの」
何かを始めるには、お金がかかる。
カメラが趣味の僕には、そのことがよくわかる。
「それでね。その子が、大事なラケットを貸してもらうお礼にご馳走したいって言うから、スイーツのお店を教えてもらったの」
「いつまでも仲良くできるといいね」
そう言うと、ねーさんは今日一番の笑顔でうなずいた。




