第28話
真っ白な城壁が、空高く昇った太陽に照らされて輝いて見える。
時折吹く風に乗って、青々と茂った芝生の匂いが漂ってくる。
僕の右腕には、関係者用の腕章が巻かれている。
叔父さんはカメラを構え、目の前の一瞬を切り取ることに余念がない。
隣に座るねーさんは、その光景を食い入るように眺めていた。
僕たちは、この地方では毎年行われる歴史パレードの関係者席に座っている。
叔父さんが事前に話を通してくれたおかげだ。
甲冑姿の武士や領主などに扮した人々が並んでいる。
出陣式が終われば、市内を練り歩くことになっているらしい。
僕も写真を撮りたかったが、ここからの撮影は関係者以外は禁止されていた。
「晴れてよかったね」
一週間前の天気予報では、にわか雨と言われていた。
てるてる坊主を部屋にぶら下げていたことを、僕は知っている。
「ねーさんと一緒にイベントを見られてよかったよ」
深く考えず、軽く答えた。
「そうなんだ……」
歯切れの悪い言葉に、引っ掛かりを覚えた。
それ以上、話しかけてくることもなく、僕も何を話せばいいのか分からない。
しばらく、沈黙が続いた。
場内が静まり、天守閣に人影が現れる。
弓を構えた男が、ゆっくりと矢を上空へ向ける。
響いた号令に合わせて、矢を大空に勢いよく放つ。
大きな放物線を描きながら、澄んだ空に消えていった。
横からは、鳴りやまないシャッター音が響いていた。
二人で市内を歩いている。
焼きそばやたこ焼きなど、たくさんの屋台が所狭しと並んでいる。
馬肉コロッケなど、珍しい食べ物を扱う店もあり、見るだけでも楽しむことができた。
叔父さんはイベント関係者と打ち合わせがあるようで、16時までには旅館に帰るよう、きつく言い渡されている。
横を歩くねーさんは、いつもより半歩、離れて歩いているように感じる。
「なぜ、ねーさんって呼ぶの?」
進行方向をまっすぐ見つめたまま、問いかけてくる。
「ねーさんが呼べって……」
一瞬だけ視線を移したが、すぐに顔を逸らした。
「また、呼んだ」
ねーさんは急に立ち止まり、僕を射抜くように見つめる。
「私が呼んでって言っただけで、理久は言うこと聞くの?」
僕にも譲れないものがある。
その思いは、ねーさんにだけは決して言うことができない。
「僕は、希望を叶えたいと思っている」
やっとの思いで吐き出した言葉は、誰が聞いても信用できない、陳腐なものだった。
「主体性がないだけ。その方が楽だから」
喉の先まで出かかった言葉を、僕は飲み込む。
「美咲、急にどうしたんだ」
瞳から、一粒の涙が流れる。
「わからない。わからないの」
声が次第に大きくなり、道行く人々がこちらを振り返っていた。
いつの間にか握りしめられていた僕のシャツの袖口が、くしゃくしゃになっていた。
「どうしたらいいのかわからないの」
肩が震えている。
口元をぐっと引き締めて、感情を押し殺そうとしていた。
「ごめん。一人で旅館に帰ってくれないかな」
途切れ途切れに紡がれたその言葉に、僕は従うことしかできなかった。




