第26話
僕と佐藤は、前回と同じファミレスでことりちゃんたちの到着を待っていた。
ことりちゃんから届いたメールの内容を彼に伝え、この場をセッティングしたのは僕だった。
「今日は何人来るんだ?」
「ことりちゃんを含めて三人だよ」
彼は僕の返事に適当に頷きながら、目の前のパンケーキに視線を奪われていた。
スマートフォンを見ると、待ち合わせまであと五分だった。
佐藤はその間も、パンケーキを食べる速度を変えなかった。
制服姿の集団が、自動ドアから入ってきた。
その中の一人のバッグからは、見覚えのあるぬいぐるみチャームが揺れていた。
ことりちゃんは僕たちの席まで来ると、一礼した。
それに合わせて、残りの二人も頭を下げる。
ことりちゃんが中央の席に座ると、二人もその左右へ腰を下ろした。
「佐藤先輩と一ノ瀬先輩、今日はありがとうございます」
ことりちゃんの挨拶に続き、二人が自己紹介を始める。
「ボクは、竹内香織です。雨宮さんとは部活が同じで、声をかけてもらいました。佐藤先輩、よろしくお願いします」
竹内さんは、僕から見て左側に座っていた。
彼女の顔には、取り繕った笑顔というものがなかったように見えた。
「うちは、渡辺志帆と言います。雨宮さんとはクラスメートです。佐藤先輩、一ノ瀬先輩、よろしくお願いします」
渡辺さんは、僕から見て右側に座っていた。
すらりと伸びた背筋には、不思議な芯の強さを感じた。
ことりちゃんたちがドリンクの注文を済ませ、一息ついたところで、佐藤が話し始める。
「竹内と渡辺は、なぜ雨宮の話に乗ったんだ?」
「うちは、クラスで一番を目指していまして……」
渡辺さんは、ちらりと僕へ視線を送ったが、すぐに逸らした。
「なるほど」
佐藤はパンケーキを器用に切り分けながら答えた。
「ボクは、成績が落ちたら部活を辞めさせられるんで……」
竹内さんは、真っすぐ佐藤を見つめていた。
「それは、大変だな」
佐藤は淡々とした声で返した。
店内には、フォークとナイフの音だけが響いていた。
ことりちゃんは、僕と佐藤の顔を交互に見た。
何度か口を開きかけたが、佐藤の雰囲気に押されるように言葉を飲み込んだ。
「佐藤、黙っていたら彼女たちが困るだろう」
佐藤はナプキンで口を丁寧に拭っていた。
「俺は、他人に合わせない性格だが大丈夫か?」
「はい。大丈夫です」
渡辺さんの瞳には、迷いのない光が宿っていた。
勉強会は、放課後の学校の空き教室で週二回実施することになった。
SNSで連絡を取り合い、二人以上集まらない場合は中止することになった。
「美咲ちゃんは、部活やクラスではどんな感じなんだ?」
佐藤がふと思いついたように、その話題を口にした。
嫌な予感がした。
佐藤が意味もなく、こんな話題を振るはずがない。
「クラスで一番目立つ存在です。うちが成績で勝ちたい相手です」
渡辺さんが僕から視線を逸らした理由はなんとなく察していた。
ねーさんを意識しているのだろう。
「一年生でベンチ入りって凄いです。大会に負けたのは残念ですけど」
竹内さんの視線は、佐藤を捉えていた。
「僕も試合の応援に行っていたんだ。会っていたかもしれないね」
僕が竹内さんに話しかける。
「あ、はい」
竹内さんの声は、わずかに上ずっていた。
「一ノ瀬、また大変なことになっているな」
佐藤は僕ではなく、先ほどまで彼女たちが座っていた場所を見ながら言った。
ことりちゃんたちと別れた後、佐藤に言われた一言の意味が分からなかった。




