第21話
僕は大きな橋の上に立ち、彼女が来るのを待っていた。
橋の下を流れる川は、宝石のようにきらきらと輝き、その光の隙間を数匹の魚が泳いでいる。
土手には、数組のカップルが等間隔に座っていた。
「ごめん、待たせた?」
聞き覚えのある声に、視線を向ける。
白いTシャツにベージュのロングスカート。
つば広の麦わら帽子からは、長い髪がゆるやかに垂れていた。
大人びた雰囲気に、一瞬戸惑う。
彼女が帽子のつばを上げる。
そこに立っていたのは、恋人同士だった頃と変わらない笑みを浮かべる真琴だった。
ただ、その瞳からは光が失われているように見えた。
「ねえ、今日の服装どう思った?」
真琴は麦わら帽子のつばを両手で軽く引っ張る。
「誰なのか、しばらく気づかなかったよ」
「大人っぽい?」
彼女は片方の口角を上げた。
「颯希ちゃんと一緒にショッピングに行ってね。その時に思い切って買ったんだ」
朝比奈の名前を聞いて、胸の奥が少しざわついた。
「似合ってる。でも、少し驚いた」
素直にそう口にする。
「ありがとう」
真琴は少し照れたように顔をそむけた。
僕は彼女と一緒に目的地へ向かって歩き始める。
しばらく歩くと、古いレンガ造りの建物が見えてきた。
二階には大きな時計があり、今も静かに時を刻み続けている。
「この店、まだ覚えてたんだ」
真琴は口元にわずかな笑みを浮かべた。
店内は薄暗く、甘い香りが漂っていた。
もう一度、彼女とここを訪れることはないと思っていた。
案内された席からは、静かに流れる小川が見える。
眺めているだけで、初夏の暑さを忘れられそうだった。
真琴は昔と変わらず、ジェラートとチョコレートドリンクを注文した。
僕はアイスティーを選ぶ。
「どうして私を誘ったの?」
彼女は真っすぐに僕の目を見つめる。
「久しぶりに一緒に写真を撮りたくなってさ」
「突然だね。でも、まあいいけど」
真琴は笑ったが、眉間にはほんの少ししわが寄っていた。
「もう食べてもいい?」
「もう少し待って。きれいに撮りたいんだ」
ジェラートとチョコレートドリンクにレンズを向けていると、不満そうな声が聞こえた。
レンズを少し上げると、頬を膨らませた真琴と目が合う。
このやり取りが、とても懐かしく感じられた。
店内には以前と変わらず、アンティークブックが所狭しと並んでいる。
「ねえ、理久も食べてごらんよ」
僕の前に、ジェラートの乗ったスプーンが差し出される。
「少しもらうよ」
真琴に断ってから、備え付けのスプーンでジェラートをすくう。
僕の前に差し出されたスプーンは、ただ宙をさまよっていた。




