第20話
少しずつ暖かくなるのに合わせて、傘を使う頻度も増えている。
この瞬間しか撮れない写真もある。
それでも、学校へ行く時だけは雨がやんでいてほしいものだ。
僕の前を、ねーさんとことりちゃんが二人並んで歩いている。
二人のバッグには、お揃いのぬいぐるみチャームが揺れていた。
前回会った時のことりちゃんに比べて、今日は元気そうに見える。
佐藤との約束通り、しっかり睡眠をとっているのだと思う。
彼女に渡したメールアドレスには、まだ連絡が届いていない。
勉強会の仲間集めは難航しているようだ。
僕は、ねーさんと一緒に帰宅することはほとんどない。
今日は雨で部活が中止になったため、ねーさんから誘われた。
歩行者信号が赤に変わり、僕たちは歩みを止める。
「試合中、朝比奈が病院に行ったようだけど、どうだった?」
本人には会っている。
状況は分かっている。
でも、本人から聞いた話だけでは足りなかった。
「全治二か月の怪我だって。次の大会の出場は難しいみたい」
ねーさんは心配そうに答えた。
「次の大会は、朝比奈の分まで頑張りたいよね」
僕の言葉に、ねーさんは小さく頷いた。
でも、その手は傘の柄を強く握っていた。
「私はたぶん試合に出られないけど、みーちゃんが頑張ってくれます」
ことりちゃんは、自分のことのように誇らしげに答えた。
「朝比奈がいなくても、みんな頑張ってるんだね」
ことりちゃんは一瞬黙り、言いづらそうに話し始めた。
「ちょっと気になることがあります。あの大会のあとから、結城先輩が元気がなくて」
交差点を行き交う車は、僕たちに水をかけないよう、水たまりを避けて進んでいる。
「どんなふうに?」
僕の問いに、ことりちゃんが答える。
「結城先輩って、いつも笑っている人なのに、最近、笑わなくなって」
「やっぱり、朝比奈の怪我と前回の試合に負けたことが原因かな」
僕は朝比奈から、真琴を元気づけてほしいと頼まれている。
朝比奈に頼まれた以上、少しでも情報が欲しい。
車道の信号機が黄色く点滅している。
「それは……」
ことりちゃんの声に合わせるように、水滴が僕の顔に飛んでくる。
ねーさんの傘が、わずかに揺れていた。
「美咲先輩のお話ばかりだね」
傘で顔は見えないが、声から察するに、ねーさんは機嫌が悪そうだ。
信号が切り替わり、歩行者が歩き始める。
ねーさんは傘の先を上に向け、にっこりと微笑んだ。
「私たち、スイーツ食べて帰るから、着いて……こ・な・い・で・ね」
踵を返し、足早に横断歩道を渡っていった。
その後ろを、ことりちゃんが必死についていった。
僕は、そこに立ち尽くすことしかできなかった。




