第19話
僕は彼女にファミレスに呼び出された。
一人では解決できない内容だったため、ある人物をメールでここに呼び出すことにした。
彼女は昼食が終わった後、こっそりと僕に時間と場所を示したメモを握らせてきた。
ねーさんにバレないか、ひやひやした。
向かいの席の彼女は体を強張らせており、机の上のオレンジジュースには一切口を付けていない。
僕はアイスコーヒーを口にしながら、行き交う人を眺めていた。
自動ドアが開き、こちらに歩いてくる人影が見える。
「待たせたな」
僕の前に立っていたのは、メールで呼び出した佐藤だった。
「おごりで良かったよな」
僕の返事を待たず、彼はタブレットでドリンクバーとピザを注文する。
「話は食べながらでいいな」
そう言い残し、彼はドリンクバーへ向かっていった。
彼女は顔を伏せたまま、両手を膝の上で強く握っていた。
コーラを片手に戻ってきた佐藤は、僕の隣に座り、目の前の彼女に問いかけた。
「雨宮ことりさんで合ってるよな。俺に相談があるってことでいいのか?」
長い沈黙が続く。
彼女は何度も口を開きかけては閉じていた。
「勉強を教えて欲しいんです」
彼女は顔を上げ、小さな声で佐藤に語りかけた。
「一ノ瀬のメールで大体の話は聞いた」
「確か中間試験は30位ぐらいだったよね。俺に教えてもらう必要はないと思うけど」
「みーちゃんに追いつきたいんです」
ねーさんは確か、学年5位以内だった。
「それなら、むしろ俺なんかに頼らず、塾に通った方がいいと思うぞ」
彼女は言いよどんでいる。
僕が口を挟もうとすると、佐藤に鋭い目で制止された。
「時間が足りないんです」
「時間は皆に平等に与えられている。足りない意味が分からない」
運ばれてきたピザを、カッターできれいに切り分けている。
「土日も返上して、深夜遅くまで勉強しても、それ以上どうしようもないんです」
「届かないなら、もっと努力するしかないな」
僕には、佐藤の言葉がことりちゃんを責めているように聞こえた。
「俺が聞きたいのはそれじゃない。なぜ追いつきたいかだ」
先ほどまで伏せられていた彼女の目が、初めて佐藤をまっすぐ見た。
「みーちゃんが恥ずかしくない友達になりたいんです」
ねーさんは、そんなことは思っていないだろう。
でも、ことりちゃんはきっと誰が言っても納得しない。
「雨宮、最近ちゃんと寝てるか?」
佐藤は食事の手を止め、ことりちゃんを心配そうに見ている。
「4時間ぐらいです」
彼女は擦り切れるような声で答えた。
「……馬鹿か」
佐藤の声に、ことりちゃんがピクリとする。
「運動部だろう。そんなことで体がもつわけないだろう」
「はい。体を鍛えるためにジョギングも頑張っています」
佐藤はため息をつきながら、油まみれの指で追加の注文を始める。
「他にも何かしてるだろう」
呆れたように佐藤が問いただす。
「テニススクールに週2回通っています」
佐藤はピザを一口食べ、コーラで流し込んだ。
「条件が2つある」
佐藤はことりちゃんの返事を待つように、静かに見つめている。
「1つは、睡眠時間を最低6時間取ること。もう1つは、勉強は複数人に教える形にして欲しい」
「なぜ、ことりちゃんだけだとダメなんだ?」
僕が口を挟む。
「異性と二人きりだと、あらぬ誤解を生んで雨宮が困る」
彼は呆れたような目で僕を見ていた。
ことりちゃんは耳まで赤くして、視線を落としていた。
佐藤はポテトを食べ終わり、ことりちゃんに優しく語りかける。
「美咲ちゃんには知られたくないだろう。メンバーが決まったら、一ノ瀬経由で連絡してくれ」
佐藤は席を立ちながら、ぼそりと僕につぶやく。
「……あと、一ノ瀬、雨宮を見習え」
要らないお世話だ。
僕は彼が立ち去るまで睨みつけていた。




