第14話
試合が終わり、制服に着替えたねーさんと並んで歩いている。
本来なら学校に戻る予定だったが、顧問が不在のため現地解散になった。
横を歩くねーさんは、器用に小石を蹴り続けている。
小石を蹴る音だけが、静かな道に響いていた。
正面から差し込む夕日が眩しく、思わず目を細める。
足元の影は長く伸びていた。
まるで、終わったはずの試合をまだ引きずっているようだった。
ねーさんが蹴っていた小石が、側溝へ転がり落ちる。
何かが吹っ切れたように、ねーさんが口を開いた。
「……負けちゃった」
その声は、泣くことすら我慢しているようだった。
「三年の先輩の最後の大会だったのに……私がもっとできていたら」
制服の裾を握る指先が震えていた。
「県大会に出られなかったのも……」
これ以上、美咲が傷つくところを見たくなかった。
「美咲」
名前を呼ぶと、美咲は振り向いた。
その顔は、今にも泣きそうだった。
でも、その瞳の奥には、自分を責め続ける強い意志が残っていた。
「調子に乗るな」
本当は優しい言葉をかけたかった。
でも、そんな言葉では、美咲は自分を責め続ける気がした。
「うるさい」
向けられた視線には、悔しさと怒りが混ざっていた。
「冷静になれ」
その言葉は、美咲に向けたはずなのに、自分自身の心にも響いた。
「お前が全部背負い込むことはない」
美咲は唇を噛みしめ、自分の思いをゆっくり吐き出す。
「でも、出たのは私だよ。選ばれたんだよ。負けたらダメだったんだよ」
本当は、隣で頷くだけでよかった。
でも、僕にはそれができなかった。
「美咲が自分を責め続けるのが嫌なんだ」
美咲のバッグは夕日に染まり、歩くたび赤く揺れていた。
「今は分からなくてもいい。いつか分かってほしい」
これは僕の我儘だ。
美咲が納得する必要なんてない。
「……分かった」
小さな声が、耳元で聞こえた気がした。
スズメが可愛らしい鳴き声を残して飛び立っていく。
夕日は雲の向こうへ沈み、赤く染まっていた景色も少しずつ暗くなっていった。
「私がね、ねーさんって言い始めた理由、知ってる?」
僕に答えを求めているわけではない。
そう思った。
「私、中学一年生まで喘息で苦しんでたの覚えてる?」
「私が咳き込むと、理久がいつも背中をさすってくれたの」
「あの時、すごく暖かく感じたの」
苦しそうに咳き込む美咲の姿が、脳裏に浮かんだ。
「喘息が治ったらね、理久にたくさんお礼がしたいって思ったの」
「だから、今度は私が理久を守る番なの」
夕日に照らされた美咲の顔は、赤く染まって見えた。
あの教室で佐藤が言っていた言葉が、頭の中に蘇る。
『兄弟から、ほんの少し仲の良い関係になってもいいんじゃないか』
僕は初めて、ねーさんという言葉が、ただの呼び方ではなかったことを知った。




