第12話
テニスコートでは、いくつかの試合が同時に行われている。
僕が見ている先では、上下が薄いピンク色の選手と、ウェアがオレンジでスカートが薄いブルーの選手が対戦していた。
オレンジ色の選手の力強いショットに、相手は対応できていないようだった。
僕にはルールはよくわからない。
それでも、オレンジの方が押していることだけは分かった。
オレンジ色の選手は僕の学校のユニフォームで、コート内にいるのが二年生エースの朝比奈だった。
自信に満ちたその立ち振る舞いを見れば、学校内で人気があるのも納得できる。
コート外では、私服や他校のユニフォームを着た女子たちが黄色い歓声を上げていた。
クラスでも恋愛対象として名前がよく挙がるが、僕はそういうふうに見たことはない。
「ゲームセット」
審判の声で試合が終わる。
彼女の表情が緩み、試合は僕らの学校が勝ったようだった。
僕がコンビニで昼食を買って戻ると、見知った二人組の女の子が目の前を歩いていた。
可愛らしいキャラクターのTシャツ、オレンジのウェア、二人は同じズボンを履いていた。
声をかけると、ねーさんとことりちゃんが振り向いた。
「……一ノ瀬先輩、こんにちは」
ことりちゃんは、まだ僕にはうまく話しかけられないようだった。
「応援?私、試合には出ないと思うよ」
ねーさんは不思議そうに首をかしげた。
「叔父さんの課題で、ねーさんを撮ることになって」
その瞬間、ねーさんの表情が一瞬だけ曇った気がした。
「何をしたらいいの」
僕に問いかけるねーさんに、木陰に移動するように言った。
「お願いします。後で写真ください」
なぜかことりちゃんが元気に答え、ねーさんの手を引いて木陰へ向かった。
テニスコートから聞こえる歓声も、ボールの音も、風に揺れる葉のざわめきに溶けていく。
二人の笑顔を、木漏れ日が優しく照らしていた。
レンズ越しの二人は、少しだけ遠くなる。
心臓の音が、シャッタータイミングを一瞬止めた気がした。
「いつまでにできますか」
ことりちゃんが詰め寄る。
本来なら少し加工して渡した方がいい気もしたが、彼女はそれを望んでいない気がした。
「家に帰ったら、ねーさんにデータを送ってもらうよ」
「ありがとうございます」
ことりちゃんはパタパタと駆け寄り、自然に両手を掴んだ。
柔らかい掌の中に、妙な力強さがあった。
ねーさんは咳払いで注目を集め、会話に割り込んでくる。
「そのカメラで、盗撮なんかしてないよね」
はしゃいでいたことりちゃんは、さっとねーさんの背後に隠れた。
「そんなことはしていない」
そう見えていたのか。
「家に帰ったら、写真チェックするから」
信用がないな、と少し落ち込む。
この場に訪れた理由は、叔父さんから課題を与えられたからだ。
「成長が見てみたい。日曜は美咲の試合だな。ちょうどいい、撮ってこい」
そう電話があったのが始まりだった
ねーさんが試合に出ないことを伝えようとしたが、言い終わる前に電話は切られた。
母に相談すると、少し考えたあとに言った。
「試合じゃなくても、一枚ぐらい撮ればきっと満足するわよ」
その言葉で、僕はここへ来ることになった。




