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彼女が現実逃避しすぎて異世界の神になった  作者: 青我
Another World――第三章――
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――異世界書記―― 第三章 第八節 魔女証明

[『異聞録 第十二項 炎の魔女と焔帝より』]


 調べれば調べるほど胡散臭い。

 あの王族と結婚したカリン嬢のことだ。


 王子妃となってからと言うもの、血生臭い噂ばかりが目立っていた。


 その権力を振るい、彼女は気に食わない仕様人や貴族にいたるまで監獄へと投獄していたのだった。

 行方知れずとなった者は数知れず。

 王子が原因不明の病で亡くなられてからは拍車がかかったようだった。


 しかし、行方不明者が投獄されたのであれば、監獄にその姿があるはずなのだが……城の関係者の話では、その姿は見えないとのこと。

 果たして、彼らは何処へと消えてしまったのだろうか……。


 この件に関しては悪寒がしてたまらない。



 &*+*w l0@6ng...+`:



 暗雲の立ち込める城の庭園。

 いかにも不気味な雰囲気の漂うこの廃城の中庭に集うのは死兵の大群と二人の少女――俺は見た目だけだけど――と女の幽霊。

 深刻そうな空気に飲まれそうになりながらも、この場の異常なシュールさを感じているのはきっと俺だけかも知れない。


 そもそも、ガイコツの集団の中に女の子が正座で真剣に話をしているシチュエーションなんか見たことがない。そして、その横で足を伸ばしながら後ろに手を置いたスタイルで座る幼女たる俺……と、もはやどこかの漫画で見たように俺のすぐ後ろで朗らかにその場の様子を見守る女の幽霊(ネメア)


 一番シュールなのは、目の前で語っている将軍らしきガイコツも正座で喋っているということだ。


 ――シロナ殿。気にすることはない。エノク殿は百年あまりシロナ殿のような剣士と出会うことを夢見ておられたのだから。戦場に死す時こそ、騎士は剣と共にありたいと願うもの。その願いを叶えてくださったシロナ殿には感謝の意を伝えねば騎士道としての誇りを失うことになる。


「私は……大丈夫です。この街のことについてお話しいただけますか?」


 ――この街のこと……か。ううむ、どこから話せばよいやら。


 将軍ガイコツは、一呼吸整える――アンデッドなので呼吸はしていないと思うが――と、この街の闇に葬られた歴史を語り始めた。


 ――この街は、いや、この国が滅んだのは今からおよそ百年ほど昔のことだ。三天使によって滅ぼされ、世界と隔絶されたこの地に閉じ込められ、生きることも死ぬことも許されぬ、そんな場所へと変えられてしまったのだ。


「その、三天使というのはどんな奴らなんだ?」


 ――あれは、天使とは名ばかりの悪魔だよ。いや、化け物とでも言うべきだろうか。我ら騎士団が一堂に会そうが、奴らにとってはその辺の虫けらを踏み潰すような簡単な作業でしかなかった。ほら、あそこの城壁を見ただろう? あのような力に我々は為す術もなかった。ただ通り過ぎるのを待つだけの、まるで災害のような出来事だった。


「なぜこの街を隔絶させたのかは知っているのか?」


 ――三天使が口上を述べていたので知っている。この世界はバグに包まれた。この世界を隔絶しなければ我らの神の世界が崩壊する、と言っていた。この街の人々は世界と隔絶され……我々は街ごと死んだのだ。以来、体は朽ちようとも死ぬことはできずにいる。飢えをしのぐために友を殺し、その血肉を貪ろうがその友は死して生きながらえ、その怨恨を互いに呪いながらぶつけている。


「自我は残っている……ということなんですよね?」


 ――自我があって、シロナ殿に襲い掛かったのはなぜかと問いたいのだろう。これも不思議な話なのだが、あなた方が来るまで我らは飢え狂う亡者と変わらなかった。我々が自我を取り戻したのはシロナ殿と対峙してからなのだ。


「やはり、トウカ様がいらっしゃる影響なのでしょうか」

「え? 俺が? どういうことだ?」

「私も同じなのです。トウカ様がこの世界にいらっしゃる前まで、私の自我もあってないようなものでしたから。何かしらの干渉をしているのでしょう」

「――あー、それ。私も感じたよー。なんだか突然昔のことを思い出して、幻覚を見たというか……意識がはっきりとしだしたの」

「まぁ、自我を取り戻してくれたおかげで、俺たちは仲間になれたわけだ。それで……一番聞きたい話があるんだが、お前たちは魔女について知っているのか?」


 ――……魔女、か。あれは確かに魔女と呼んで相違ないものだ。あの女は何か仕組んでいたのか、第二王子との結婚を果たした。それからというもの、王宮内は酷い有様だったよ。気に入らない仕様人を投獄し始めてな。


 急に言葉が重くなったのか、話しづらそうにしている雰囲気を感じた。


 ――私にも娘がいた。王宮仕えをさせていたのだが、ある時王子妃の不機嫌を買ってしまってな……。仕事を暇に出されてからほどなくして、再び王子妃に仕えることになったと慌てて家を出ていった。それが、娘を見た最後の姿だった。


「娘さんは……?」


 ――どこにもいない。城内も周辺もくまなく探したのだが、手がかりひとつ出てこなかった。まさか、監獄に囚われたのではと思ったのだが、その後すぐに三天使の騒ぎになってしまってな。


「――探しても無駄」


 ネメアが急に真剣な表情になって口を開いた。


「――あなたには酷なことを言うかもしれないけど、聞いてほしい。私はずっと監獄に囚われていた。だから、監獄内の様子はなんとなくだけど知っているわ」


 ――殺されたのだろう? 私の娘は。


「――……えぇ。魔女の炎に焼かれて」


 ネメアが言うには、魔女は王子妃になってから何人も監獄に連れてきては、己の魔法を試すようになったのだと言う。狂ったような笑い声と共に、何かを切り落とすような音も回廊をこだまし、悍ましい悲鳴が耳を劈くほど響いていた。


 あまりの酷たらしさに、俺もシロナも口を噤んでしまっていた。

 一体どう歪んでしまったらそんな人格になってしまうのだろうか。

 ただひとつだけ言えるのは、このままその魔女を放っておくわけにはいかないと言うことだ。


 魔女はこの隔絶された世界の住人だったのだ。

 三天使が降り立った時、魔女は天使たちと共にこの世界を捨て、俺たちが作った世界へと渡った。

 しかし、隔絶されたはずの世界は妙なことにある一点において繋がってしまっていたのだ。そう、ここにいるネメアと重なったヴァジアの魂の回廊と。


 俺たちが紐解いて来た幽霊騒動が、まさかこの国の悲惨な歴史を掘り起こすことにつながるとは夢にも思わなかった。


 ――どうか、再びお願いがある。我らの無念を、どうか皆様の力で晴らせていただきたい。対価を支払うことはできない、身勝手な願いであることは承知しているが、何卒……。


「心配しなくて大丈夫ですよ」


 シロナの声掛けに、頭を深く下げていた将軍ガイコツが顔を上げた。


「みなさんの目の前にいらっしゃる、この方は、神様ですから」


 ――か、神……?


 まぁ、戸惑うのは当然だよな。なにせ俺は側から見ればただの幼女にしか見えないのだから。


「心配するな。この問題は必ず俺がなんとかしてみせる。お前たちの無念は、俺が必ず晴らす!」


 悍ましい雄叫びが響いていたこの地に、再び歓喜の声が舞い上がった。

 彼らに声帯などないはずなのだが――。


「だが……申し訳ないのだが……」


 ――あぁ、気にすることはない。我々はもはや生者の世界の住人ではない。このまま潔くこの地と共に消えるとしよう。


「いや……それなんだけどさ」


 ――……?


「せっかくだから、死んだ体で不自由があるかもしれないけど、人生をやり直してみないか?」

「トウカ様……」

「どうせなら、みんな救いたいもんな」


 俺の提案に、本当の死を覚悟していた死兵たちがざわめき始める。

 こんな姿になってまで生きたいのかどうかはわからないが、自我のある彼らをこのまま消してしまうのは正直良心が痛んだ。


「とりあえずは、これからお前たち全員をこの世界から連れ出す。だが、取り急ぎ魔女をどうにかしたいからしばらくは街の外で待っていてほしい。そしたら、お前たちをある街に招待してやる。それが嫌なら、この場に残るといい。どうだ?」


 死兵たちは互いに向き合いながらも、答えは決まったようだった。


「――でも、トウカ様? この世界からどうやって抜け出すの?」

「ふっふっふ……君たち、“どこでもドア”って、聞いたことあるかね?」


 俺は管理代行権限を行使し、中庭に巨大な門扉を出現させた。この大群を移動させるには、普通のドアでは小さくて効率が悪いからな。

 門扉には任意の座標をイメージしてある。つまり、レトロなロールプレイングゲームにあるように、扉を潜ると別のマップへの座標へと移動することができる仕組みだ。これさえあれば、俺は知っている街や場所ならイメージするだけで扉で行き来することができる。

 先ほど思いついたばかりだが、なかなか良いアイディアだと思った。


 扉の存在に戸惑う死兵たちだったが、俺やシロナの誘導で世界を脱出することに成功した。


 ――死んだ街、ビギナポスト。

 悲惨な歴史に飲まれ、忘れ去られた場所。

 死兵が全員移動したことを確認した後、俺は扉が閉まるのと同時に、先ほどまでいた場所の“消滅デリート”を実行した。

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