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彼女が現実逃避しすぎて異世界の神になった  作者: 青我
Another World――第三章――
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――異世界書記―― 第三章 第九節 夜明け前

[『異聞録 第十二項 炎の魔女と焔帝より』]


 これを読む者へ。

 私はおそらく、もう命は長くないだろう。

 私は見てしまったのだ……仄暗い城の底で、檻の中で焼かれる彼女たちの姿を……。


 あれは……一体なんだというのだ。

 人間が、火器も無しにどうして炎を操れるというのか。


 牢獄を覗き見た私を見るあの冷酷な眼差しは、今でも背筋が凍るほどだった。

 あのような凍てつくほどの視線を持ちながらその心にどんな炎を灯しているというのだろうか。


 果たしてあれは……本当に彼女(・・)なのだろうか……?

 まるで北東にある帝国の焔帝(えんてい)のような力ではないか。

 まさか、カリン王子妃の裏で糸を引いているのは……。

 いや、今となってはもうそんなことはどうでもいい。


 あぁ……足音が聞こえてくる。

 鎖を引きずる音が……。


 私の旅も、どうやらここで終わりのようだ。


 <冒険家 ブラド・ヴォルグ・ジオーラム>



 `@Nc.> Load1n9...*¥



 巨大な門扉がゆっくりと閉まる。

 たどり着いた月明かりの草原には無数の死兵と少女が二人。あと陽気な幽霊。

 門扉を消し去ると、爽やかな風が草原を走り抜けていった。その風を追いかけるように、俺の視線は自然と空の方へと向いていた。白み始めるはるか東の方に見える山は、夜明けが近いことを知らせていた。


 魔女の行いは許せない。

 例え、この世界が生んだ闇だとしても、だ。


 結局のところ、自分たちが作り出した過程で生み出された必要悪なのかもしれない。それは、物語を楽しむためには重要な存在だからだ。

 その必要悪を自身の責任の下で創ろうとせず、世界に丸投げすることにより成り立った性質が余計に俺の罪悪感を煽っていた。

 もし、この事実を、この世界システムを生み出したユカリ張本人だったらどう捉えるのだろうか。むしろ、俺がこの世界で神として降り立ったのが正解だったのかもしれない。


 彼女にこの現実を目の当たりにして、それを抱えられるだけの精神は持っていないだろうから。


 だって、現実逃避をするために創った世界なのだから、その世界からも現実逃避されてしまいそうで……って、あれ、もしかして……まさか、本当に逃げているんじゃないだろうな……?


「トウカ様? どうなさいましたか?」

「あ、いや。なんでもないんだ。さて、もうすぐ夜明けだし、早速行くとするか」

「……はい!」

「ネメアはどうする?」

「――行くに決まっているでしょ! 愛しのトウカ様を放って油なんか売っていられないものね。……なーんて、ね。私だって、この百年の恨みくらい、ぶつけさせてもらってもいいわよね。幽霊らしく」

「お、おう……」


 ――我々は、どこにいれば良い?


「あー、それなんだけどさ」


 俺は草原の隅にある神の祭壇へと死兵たちを連れて行った。

 俺が初めてこの世界にログインした時、ユカリと訪れた祭壇――。


 そこには、鎖に囚われたままの神の像があった。


 ――ここは……随分と落ち着いた空間だ。なんというか、乱れていない、というべきか。悪意も善意も、森羅万象の摂理が存在しないような、そんな場所に感じる。


 将軍や死兵たちがこの異様な空間に見惚れていた。

 通常、ロールプレイングゲームでセーブポイントとなる地点には敵やモンスターの出現はない。そういった場所の雰囲気を感じ取っているのだろう。

 そんな中、すーっと吸い寄せられるかのようにネメアが神の像に近づいていった。


「――不思議……この場所は見覚えないのに、なぜかこの女性(ひと)は知っている気がするの……」

「そりゃあ、一応モデルは俺……というか、俺の半神と言うべきか……」

「――違うの。遠い昔に一緒にいたような、そんな親近感を覚えただけ」

「もしかして、ネメアさんも……見たのですか?」

「――……あぁ、そうね。そうだったかも。牢で見たときもそうだったけど、夢で見た彼女、とても寂しそうだったから」

「私も同じ気持ちです。河原で泣いていた少女の視線で、私はその幻覚を見ました。この囚われた神の像が置かれていた、私の故郷で」

「――……君も、あの少年に手を引かれたんだね」

「……はい。とても幸せな気持ちになったのです。その時と同じように、トウカ様も私の手を取って、世界に連れ出してくれました。だから、私は……トウカ様の剣としてこれからも力を尽くします。……ウジウジ考えていたら、エノクさんにどやされてしまいますからね」

「――あらあら。それじゃあ、これから君は私の恋敵……だね!」

「えー!? な、なんでそうなるんですか!?」

「――私も、あのきれいな手を取っている一人ですもの」


 俺の目の前で、なんだか痒くなるような恥ずかしい話をされてしまったが、不思議と悪い気はしなかった。と言うより、こんな幼女の姿ではなく、現実世界の俺の姿で今訪れているモテ期を堪能したかったものだ。

 俺は軽く咳払いをした。


「二人の気持ちは……痛いほどよくわかった。うん」

「――あら? じゃあトウカ様ァ。一体どちらを選んでくださるの?」

「え?」


 いかん……これは思わぬ地雷を踏んだのか?

 しかし! 神たる俺は既に何回、いや、何十回もこの手のシチュエーションに対する妄想をシミュレーションしてきたのだ。切り返せないことなど存在しない。


「……フフ。神は常に一夫多妻制なのだよ。だから、神は選ばなくて良いのだ!」


 どうだ! 決まったんじゃないか!?

 と、思っていた時期が俺にもありました……。


 二人は急に興味を失ったようにため息混じりで理想の彼氏像を語り合い始めていたのだった。



 ◇



 朝日に包まれた街。

 門が開かれるのと同時に街へと入った俺たちは、まっすぐに城へと進んだ。

 目指すは王の謁見の間――そこにいるはずの炎の魔女の元に。


 昨夜の光景が嘘のように、活気に満ち溢れた街を抜け、貴族たちの住む屋敷を過ぎ辿り着いた城門。

 警戒が敷かれているのか、先日もう一人の魔女(カリン)と来た時よりも警備が厚くなっていた。


 しかし……。

 そんなことはもはや問題にすらなっていなかった。

 煮えたぎるような怨念のオーラを次第に纏い始めたネメアの殺気が、先ほどから顕著になっていたからだ。

 そして、なぜかシロナもメラメラと闘志を燃やしてやる気になっている。


 これは――。


 きっとこの国が滅ぶ……だろうな。


 そんな予感が頭を過る中、先発隊長のシロナが一気に門を斬り裂いた。

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