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彼女が現実逃避しすぎて異世界の神になった  作者: 青我
Another World――第三章――
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――異世界書紀―― 第三章 第五節 違和感

[『異聞録 第十一項 ビギナポストより』]

 燃えさかる火とともに滅びた一族があった。

 火事の原因は使用人による火の不始末とされた。

 命からがら生き延びた、最後の一人の証言により、彼女は投獄されることとなった。当然、婚約は破談となり、身寄りを亡くしたその令嬢を哀れんだ王子は、令嬢との婚姻をすることとなった。


 投獄された彼女がどうなったか――。

 それは、幽閉された囚人たちと見張り人のみぞ知る。


 ――『異聞録 第十一項 ビギナポスト 「監獄の乙女」より』



 +*now loadin...g*+



 ビギナポストの宿屋にある酒場――。

 昼間よりも人の数は増えていたが、そんなことは気にもとめず俺たちは隅っこの目立たない席へと座っていた。


 先ほど起きた出来事に、お互い言葉はない。

 こんがり揚げたセレアルを頬張りつつ、俺は色々と考え事をしていた。


 第一、なぜ攻撃が通じなかったのか。

 相手が本物の幽霊であるならば、物理攻撃や災害を起こしたところで無意味であることはわかる。しかし、ここがデータで作られた世界である以上そこに生まれる事象はすべて管理者が対処できないはずはない。


 第二、そもそもこの心霊現象のようなことがなぜ起こっているのか。

 これには何となくだが考えがあった。

 攻撃が通じない理由にも直結するのだが、これを立証するには判断材料が足りない。


「(はぁ……ダメだ、まとまらない……)」


 机に突っ伏して皿の隅っこをつつきながら、俺はユカリのことを考えていた。

 この世界に入った時は、もっと単純で、簡単な作業だと考えていた。

 世界のバグの因子を適当に葬り、歪みがあれば修正する。

 だが、この世界は思ったよりも普通の世界だった。普通に人が暮らし、普通に人が悩み、働いて、食べて、寝る。

 動けば疲れるのだろう。休みと癒しを欲するのだろう。

 そういう意味では、俺は異質だった。

 確かに精神的には疲れが出るが、歩いても動いても肉体的に疲れることはない。

 なので、一気に行動してユカリを助けたかった。


 ユカリは今、どこで何をしているのだろう。世界の中心で引きこもっているのだろうか。そもそも、ログインしたままということは、この世界では自由に動けているはずなのでは?

 だが、ユカリが動いたであろう痕跡はまだ感じられない。

 一体この世界はどうなっているのだろう。


「(そういえば、ここに来たとき何か変な感じがしたんだよな……)」

「トウカ様、何か飲み物はいりますか?」

「俺は大丈夫。シロナは?」

「私は……あ、ビギナポストの名産のパインアップルで作ったジュースが飲みたいです!」

「へー、何それ美味しそう。あたしも飲もうかなー」

「……そういえば、お前たちって腹が減るんだよな」

「はぁ? 何言ってんの、当然でしょ」

「確かに、トウカ様に新生解放をしていただいてから、あまり食事を必要としない感じにはなりましたが、生きている以上食べることは大事ですよね」

「そうだよな……変な質問して悪かったな」

「……どうかなさったのですか?」

「不思議なんだよなー……俺が変なのかもしれないんだけどさ、この世界の食べ物を食べたり、飲んだりする必要はないんだけど、このセレアルを食べたり、水を飲んだりして腹が満たされるんだよ」

「……この神様、とうとう変になっちゃったみたいね。そりゃ食事をすれば満たされるに決まってんでしょ」

「俺は違うんだよ。精神体と言ったらいいのかな……実際の肉体は別のところにあるから、この世界の食事をしたところで空腹が満たされるはずはないんだよ。だけどさ、食べるとお腹がいっぱいになるんだ……なんでだと思う?」


 この世界に来てからの違和感の一つがこれだった。

 ゲーム世界にログインして、ゲームの世界の食事をしたところで腹が満たされるはずはない。

 つまり、言えることは……。


「トウカ様は、この世界での肉体をお持ちなのではないでしょうか?」


 そう、それしか考えられない。

 データである彼らが食事を必要としているのは、よりリアルさを追求しているからこその行動なのだろうが、それが俺にも適用されている……。


 つまり、第三の疑問。

 この世界に対する――。


「考えていたんだ、食事からヒントを得たんだけど……。この街は以前来たことがある。違和感があったんだ。確かに華やかな街だし、市場が活気に包まれている。でも、この街は旅人や商人といった、外から来た人間からの収益で成り立っているはずだよな? だが、これは俺たち神の事情だが、この世界には本当の意味での旅人――プレイヤー――は存在しないはずなんだ。なのに、この街は活気で溢れている……なぁ、この街は一体、誰に商売をしているんだ?」

「そ、それは……」

「すまない、お前たちにこんなことを話すと不安を煽るかもしれないが……この街は、本来であれば貧困に悩んでいるはずなんだ。これだけの人口を抱えて、主な職種といえば商業だけ。商業は客がいなければ成り立たない。そうなれば、農業が中心になるはずだがその気配もない。市場で売るほど実っていたとしても、それを買えるほど商売は成り立っていないはずだろ?そして、気になるのは王家と貴族の存在だ。あの規模の城を維持するのに必要な税収は膨大なはずだよな……」


 ジュースを一気に飲み干したカリンが、物足りなさそうに揺らしながら話した。


「神様さー、もったいぶらないで結論を話したらどう? この幽霊騒ぎとなんの関係があるわけ?」

「……わかった。じゃあ結論を言おう。俺の考えはこうだ。この街は本来あるべき姿と、そうでない姿の二面性を持っている」

「本来あるべき姿?」

「あぁ、この酒場にいるやつらを見てみろ。目に力がない、気力も感じられない。……これが、この街の本質だ」

「なるほどね……」

「……? どういうことですか? 私にはまだ、さっぱりわからないのですが……」

「もし、街が昼と夜で別の街に変わっているとしたらシロちゃんはどう思う?」

「昼と夜?」

「同じ場所に、二つの世界があるってことよ」

「カリン、さすがだな」


 未だに頭を傾けて考えているシロナだったが、見せた方が手っ取り早いだろう。

 俺の答えが合っていれば……だが。


「……明日の夜、またこの街に入ってみればわかる。答え合わせだ」

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