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彼女が現実逃避しすぎて異世界の神になった  作者: 青我
Another World――第三章――
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――異世界書紀―― 第三章 第四節 始まりの街、亡霊の街②

[『異聞録 第十一項 ビギナポストより』]

 貴族に見出された彼女は、使用人として召し使われることとなった。

 類稀なる踊りのセンスと気立ての良い働き者の少女は、その貴族の家においても誰からも好かれていた。ある一人を除いては――。

 やがて彼女は、王家の王子に見初められ、婚約を果たすことになった。

 その家の誰もが喜び、結婚を祝福しようと準備が進められていたのだが……その婚姻を喜ばないものがいるとすれば、その家の令嬢であろう。

 身分の差は埋めがたい。

 一貴族であっても王族との婚礼にはそれなりのプロセスとコネクションを必要とする。

 それを、平民風情がいとも簡単に手にして見せたのだ。


 面白くない――。

 そうだ、彼女には、この舞台から消えてもらえばいいのだ――。



 ◆◇now loading...◇◆



 夕刻――。


「ほ、本当に……幽霊なんているんですかね?」

「さぁ……こればかりは体験して見ないとわからないな」

「トウカ様は、見たことあるんですか? 幽霊」

「うーん……見たことはないけど、アンデッドなら創ってた」

「なんでですか! 神様の敵のようなものじゃないですか!」

「あぁ、多分俺、元々は死神だったのかもな」

「えぇー!?」


 そんな緊張感のない会話をしているうちに、夕日がだんだんと沈んでいった。

 三番街、影が伸びると路地裏に吸い込まれていくような場所。

 人通りの少ない、中心街から少し外れた通り道だった。

 西日が差し込むような立地で、夕日を一身に浴びている。そんな哀愁の漂う寂しげな通りに、女が三人立ち尽している。


「そろそろね……覚悟はいい?」

「う、うん……カリンは怖くないの?」

「正直……アンデッドとかスピリット系のモンスターであればいいんだけどねー……得体の知れないものだったら、ちょっと、嫌かな」


 影がどんどん伸びていく――。

 昔から、夕焼け時の影は不気味で怖く感じていた。

 自分の足元から伸びているはずなのに、あまりにも足が長く細く先の方まで伸びていて、まるで何かに引っ張られてちぎれてしまうのではないかと思っていた。

 今、まさにそんな感じに影が伸びている。

 その影がまっすぐ路地裏へと吸い込まれるかという、その時だった。


 ずずっ… ずずっ……


 何かを引きずる音が聞こえる――。


「な、なぁ……今……」

「き、聞こえました」

「ほ、本当に現れたようね……」


 引きずる音が徐々に大きくなっている。

 不気味に響くその音を聞くだけで、第六感が身の危険を知らせているような感覚に陥り、身動きが取れないでいた。


「か、カリン……先に行けよ」

「ちょ……なんであたしが! あんたたちに依頼したんだから、先に行くのはあんたたちでしょ!?」

「はぁ!? 倒す約束はしたけど先に歩いて行く約束なんかしてねぇぞ! むしろお前が案内するって言ったんだからお前が先にいけ! 俺たちの盾となれ!」

「ふざけんじゃねぇぞ! テメェ一回あたしを殺したからって調子に乗ってんじゃねぇよ!」


 そんな感じで言い争いをしていると……


「ふ、二人……とも……」


 シロナがガクガクと震えながら俺たちに訴えかけていた。


「うしろ……」


 その音が、すぐ後ろに感じることを――。


 ……………。


 ……………………………。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 俺たちは必死で逃げた。

 だって仕方ない、怖かったんだから……。

 気がつくと、俺たちは路地裏を抜けて、反対側の通りに出ていた。

 先程までの夕焼けが嘘のように霧に包まれていた。

 その霧のような、靄のような中から再び何かを引きずる音が聞こえる。

 俺たち三人は、その音がする方に釘付けとなっていた。身を寄せ合い、恐る恐るその音の方へと足を進める。


 すると、ぼんやりと何かがこちらへ進んでくるのが見えてきた。

 2mはあるのではというくらいの大男が、その手に鎖を握りしめ何かを引きずっている。その手には身の丈ほどの鉈が握られていた。

 あれは恐らく――断頭刃(ギロチン)だ。

 断頭刃に持ち手をつけた処刑道具に違いない。

 徐々に明らかになる全貌が、余計に恐怖心を煽っていた。


「トウカ様……あれ……引きずられている人……」


 噂の通りだった。カリンから聞かされていた怪談話の通り、その引きずられた男にはないのだ。腕と、足が――。

 あまりにもおぞましい光景に気持ち悪さを感じたが、それを一気に飲み込み、覚悟を決めた。


「あの大男を倒そう」

「た、倒せるんですか?」

「まぁ、あいつをどうにかしないとダメそうなのは確かよね」


 カリンは魔法を唱え始めた。

 頭上に水槍を浮かべ、いつでも攻撃できる態勢を整えていた。

 まずはカリンの魔法を打ち、その後、怯んだところをシロナが攻撃する。

 その隙に引きずられている人間を隔離し、止めを刺す。

 俺たちは示し合わせ、カリンが水槍を一気に解き放った――。


 しかし、予想外のことが起こった。


 カリンの水槍が、その大男の目の前で消し飛んだのだ。


「そんな……」


 呆然とするカリンを背に、シロナが一気に距離を詰めて斬りかかる――が、全く効いている様子がない。

 それどころか、かすり傷一つついていない。

 150レベルの攻撃でびくともしないなど、あり得るはずがない……。


「仕方ないな……」


 俺は管理代行権限(マスターツール)を使うことにした。


「引きずられているヤツには悪いが、一気に消えてもらう――“女帝の砂塵(デザートインプレス)”!!」


 砂塵が引きずられている人間ごと大男を包み込む。

 この地表に干渉する効果(フィールドエフェクト)はカリンを一気に干からびさせたほどの威力だ。

 まともに食らえばひとたまりもない――そのはずだった。


「なんで……? なんであの技が全く効いていないのよ!」


 カリンの叫びは最もだった。

 俺も目の前の光景には唖然とするしかなかった。


 砂塵の中から大男が何も感じないまま現れたのだ。

 それからのことはあっという間だった。

 攻撃したはずの俺たちには目もくれず、大男は処刑台へと上がって行った。

 そして――。


 あまりの無力感に、為す術もないまま立ち尽くしていた。

 大男がその断頭刃を振り下ろし、その青年の首をはねるのを黙って見ているしかなかった。

 目の前に転がってきた人間の頭部に自然と視線が向かっていた。


 その頭部は、胴体から切り離されていたというのに、虚ろな表情をこちらに向けながら口を開いた。


「ろ……に……て」


 ――気がつくと、目の前で起こったはずの出来事が嘘のようになくなっていた。

 夕方の市場街の活気の良い声が聞こえる。

 その少しずつ静けさに包まれていく街の中で、俺たち三人は、今目の前で起こったことをただ噛みしめるしかなかった。

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