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彼女が現実逃避しすぎて異世界の神になった  作者: 青我
Another World――第三章――
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――異世界書紀―― 第三章 第四節 始まりの街、亡霊の街①

[『異聞録 第十一項 ビギナポストより』]

 街は活気に包まれていた。

 朝日とともにその慌ただしさを取り戻すまで、夜の静寂が彼らの癒しである。

 いや、夜も決して静寂とは言えない。仕事を終えた市場の商人たちがその1日を労うのは酒と相場が決まっている。

 昼は市場が、夕刻からは酒場が主役となった。

 幾度も交わされる乾杯の発生と踊り子のダンス(チャルダーシュ)が街の夜の風物詩だった。

 この夜に彼らを癒すものがもう一つ。それが、宿屋の娘であり、踊り子である彼女である。



 ◆◆now loading...◆◆



「すごい……こんな綺麗な街、初めて見ました」


 シロナは開口一番にそう呟いた。落陽は石で作られた白の街であるならば、このビギナポストは煉瓦で作られたピンクと赤の街である。

 彩られた街並みにシロナが感動を表明することは至極当然であった。それがまだ、城門から街を覗かせている段階であったとしても、シロナの好奇心をくすぐるには十分だった。


「トウカ様! 見てください! お花がいっぱい咲いています! ピンクの建物が多くて、人がいっぱいで目が回りそうです!」


 街のあちこちへと興味を向けるシロナを見守りながら、俺たちは街へと入った。


「まったく……シロちゃんは子どもねー」

「……お前も似たような年齢なんじゃないのか?」

「あら、女性に年齢の話をするなんて失礼なお子さまね」

「言っとくけど、俺もお子さまじゃないからな」

「へぇ。じゃあ年齢的に問題はなさそうね」

「……問題?」

「これから行くところよ」


 そう言うと、カリンは真っ直ぐに目的地へと足を進めた。

 路地裏の猫とじゃれあっているシロナに声をかけ、俺たちはカリンについて行った。


 街並みはあの時と変わりない。

 違うのは、ここにいる人々の姿だ。

 ユカリと一緒に訪れたこの街は、かつてただのゲームの街並みだった。

 綺麗な街並みと城、広い市場は見事なものであったのは間違いない。しかし、行き交う人々は生きた人間のものではなかった。決められた数種類のパターンの中から発せられる会話は、妙な違和感でしかなかった。

 AIに自我が宿るとは、こうも変化を与えるものなのだろうか。市場で交わされている会話や呼び声は本物、生きた会話だ。普通の人間と変わりない。


 ユカリと創った世界が順調に成長を見せていることに、俺も感動を覚えていた。

 それと同時に、この世界に覚えた違和感も薄々と……。


 宿屋にたどり着くと、昼間だと言うのに飲んだくれている人の姿がちらほらあった。旅人……ではなさそうだが、はずれ者であることに間違いはないだろう。

 その男たちの視線を浴びながら、異様な3人組である俺たちは酒場のカウンターへと足を進めた。

 カウンターではしかめ面のおじさんがどっしりと構えていた。この人が噂の主なのだろうか。

 俺とシロナは視線を交わし、お互いに頷くと顰め面のおじさんに向けて歩みを進めた。


「すみません、お話をお伺いしたいのですが」

「……」

「あの……」


 顰め面の主人は片目を大きくこちらに向けると、強めに鼻息を吹き出し、再び目を閉じながら、


「……ここは男の聖地だ。女子どもの来るところじゃねェ。帰んな」

「話だけでもだめか?」

「……何の用だ?」

「幽霊の話が聞きたいんだけど」


 俺が幽霊の話題を出した途端、酒場の中の空気が変わったのを感じた。

 その場にいた全員の視線を一気に集め、異様な雰囲気が漂っていた。


「……悪いことは言わねェよ嬢ちゃん。どこで聞いたか知らねェが、滅多なことを口にするもんじゃねェ。どうしても聞きてェってんなら止めねェが、あそこの」酒場の隅にいる老人を指さし、「じいさんにでも聞くんだな」


 俺たちが振り返って酒場を見渡すと、集めていた視線が一気に失われていた。よほどその話に関わりたくないらしい。

 どうやら、この街の闇を見る覚悟がいるのかもしれない。そう思いながら、隅で酒とパイプタバコを嗜む老人を尋ねた。


老人は待ち構えていたように、タバコの煙を一気に吐き出すと、そのパイプを机の上に起き、俺たちの到着と同時に話を始めた。


「随分と物好きじゃのう、お前さんがた」


老人は席に座るよう促す動作をしながら、酒場の主人に目配せをしていた。

席に着いてから少しすると、主人が飲み物とセレアルをこんがりと焼いて小分けにしたものをバケットに入れて持ってきた。

老人はセレアルの一片を口に運ぶと、少ししてから語り始めた。


「この街は、かつて貴族たちが力を持っておった――」


貴族同士の権力争い、その果てに没落した一貴族と囚われた青年の話。

王女との愛を引き裂かれ、罠に嵌められ、処刑を宣告されたと言う。

それが今から100年ほど前――。


処刑されたはずのその青年の怨念が、今も夕刻過ぎに霧とともに街へと現れ、自身が処刑される光景を人々に見せているのだという。


「青年の名は……ヴァジア・ルスト・チャダルヌーク。彼の魂は今もなお囚われ続けているのじゃろう」


光と闇。

俺が感じた印象はその一言だ。

昼間の華やかさの裏に夜の薄闇が隠れているような、暗い歴史だった。

王家の圧政により私服を肥やした貴族たちと劣悪な環境を強いられた住民たちの歴史。その中で起こった悲劇を聞くと、今この街に見える活気に満ちた光景が幻想にしか感じられなかった。


「止めはせんよ……幽霊が見たければ、夕刻三番街に向かうと良い。夕日を背に向け、影が一直線に路地裏へと吸い込まれる、その場所にな」

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