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彼女が現実逃避しすぎて異世界の神になった  作者: 青我
Another World――第三章――
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――異世界書紀―― 第三章 第三節 招かねざる客②

[*Topicks*]〈始まりの街 ビギナポスト〉

 始まりとは、世界に足を踏み入れた者にとっての始まりを指す。

 つまり、この世界で紡ぐ<あなた>の物語の足がかりとして存在する。

 初心者ガイドアカデミーや旅行公社――旅のアイテムや転移などをサポートしてくれる――、職業訓練施設などが建ち並ぶ冒険初心者の街。

 この街で、冒険のノウハウを知ろう!



 ++now loading...++



「物騒な話だ……そういうのは殺し屋か何かに頼むんだな」

「残念だけど、あんたたちは殺し屋(それら)以上なの。あたしがね、殺し屋なのよ、本当は」

「……つまり、殺し屋に殺せない案件ってことか」

「あんた、ホントに察しがいいねー」

「カリン、何度も言うけどこのお方は神様なの。そんなことを頼むのは筋違――」

「神でも仏でも!! ……なんでもいい。むしろ、この子がもし本当に神様なんだとしたら、あたしの運命を弄んだ償いくらいはしてもらいたいね」

「なるほど……お前の殺したい相手ってのは、お前を握っているその“運命”そのものってことでいいんだな?」


 カリンは口を閉じ、俯きながら元いた席に座った。

 何かを考えるように――でも、先程よりも落ち着いた表情で――コップに水を注いでから一気に飲み干した。


「……違うけど?」

「「違うんかい!!」」



 now loading…。。。



「ビギナポストの幽霊?」

「そう、幽霊。そんなものどうやって殺せばいいのかしらねー」


 ビギナポストは通称始まりの街。大陸南部に位置する、プレイヤーが初めてログインしたときに訪れる街だ。

 以前、俺が初めてログインしたときにユカリと一緒に散策した街でもある。


「ゆ、幽霊は専門外です……」

「そう、それよ! シロちゃんが退魔の魔法を覚えてたら話は早かったのに、魔法が使えないんだもん……せめて魔法の感覚でもつかませてからーって思ったけど才能ナシときたからお手上げ状態」

「お前……まさかその腹いせに落陽を滅ぼしたんじゃないだろうな」

「さぁねー」


 相変わらず憎たらしい奴だが、これ以上落陽の話を蒸し返してもシロナにとってはいいことはない。

 話を戻すことにした。


「それで、その幽霊、どんなやつなんだ?」

「と、トウカ様! 引き受けるんですか!? 相手は幽霊ですよ!」


 涙目で震えているシロナを他所に、カリンは話を進めた。



 ■■now loading...■■



 あれは、夕暮れ時くらいの時間だったと思います。

 駆け出しの旅人だった彼は、アカデミーで世界のことを勉強する傍ら街の仕事を手伝っていたそうなのですが、店から店へと荷物を運ぶ仕事を終えて帰る途中でした。

 いつもなら市場で賑わっている声が聞こえるはずなのですが、この日は妙に静かでした。

 夕日が妙に差し込んで、赤く染まった街に伸びる自分の影が妙に不気味で、早く帰ろうと思った時でした。

 彼の後ろを、ゆっくり、ゆっくりと何かを引きずって歩く音が聞こえたのです。

 その引きずる音が変に気持ち悪く、見てやりたい衝動に駆られはしたものの彼はぐっとこらえました。

 その音が少しずつ近づいてくることに耐えられなくなり、急いで帰ろうと、いつもなら通らない路地裏を使うことにしました。

 そうすれば、わざわざ四軒分の家を迂回しなくて済むからです。

 普段は暗くて治安の悪そうな路地裏には近づかないようにしていたのですが、変な胸騒ぎがしていたので、思い切って路地を突っ切ったのです。


 勢いよく路地裏から出ると、なぜかあたり一面が霧に包まれていました。

 急に曇ったのでしょうか。

 日が暮れ始めた時間でもあったので、変に赤みを帯びた空が余計に薄気味悪く感じました。

 すると、先ほどの通りで聞いた、何かを引きずるような音がずずっ…ずずっ…と身近に聞こえるのを感じました。

 背筋から悪寒が走るのと同時に、彼はその音のする方を見てしまったのです。


 そして、彼はそれ(・・)を見たのです。

 身の丈ほどもある鉈……顔は何か布のようなものが巻かれていて表情は見えませんでしたが、その大男が引きずっているそれは――。


 四肢のない人間でした。


 彼は思わず叫びそうになる口を両手で覆いました。

 あまりの姿に、目が飛び出しそうになるくらい視線を奪われ、気づくと涙が流れていました。


 大男が向かう先……そこにはこの街の広場があるところでした。

 広場には見たこともないような、木でできた台が設けられていて、大男は引きずっていた人をそこに投げ捨てるように放りました。

 彼は、そのとき(・・・・)その人と目があったのです。

 大男が何の迷いもなく、その大きな鉈を振り下ろされた後。

 彼の口が動いていたのを見ました。

 彼の近くに転がってきたときに――。


 掠れた声で「ダ……デ(タスケテ)」と――。


 彼は叫びながらその場を去り、無我夢中で走って逃げました。

 一体どれだけ走ったのか、どこに逃げたのかさえ、彼にはわかりませんでした。


 気がつくと、いつもの帰り道に立っていました。

 市場の賑わう声、行き交う人々。

 いつもの、変わらぬ光景と音が広がっていました。

 さっきのは、夢だったのか……胸を撫で下ろした彼は、自分の胸についていた赤い何かに気づきました。

 それは、自分のものではない、何者かの血だったのです――。


 彼は青ざめたままその場で気を失いました。


 次に目が覚めたとき――彼は何者かに引きずられていたそうです。



「何それ!? めちゃくちゃ怖いんだけど!! 本格的な怪談じゃん!」

「でしょー! 怖いでしょー! 嫌よあたしそんなの相手にするの!!」

「俺も嫌だよ! 本物じゃん、本物のお化けじゃんそれ!」

「あたしもアンデッドか何かと思ったわよ! だから頼んでるの! お願いだから引きずられてきて! 検証してきて!」

「何で検証する必要があるんだよ! それこそお前が検証してこい! 首だけにされてこい! どうせ生き返るんだろうが!」

「こんな死に方嫌よ! 砂漠で干からびて死ぬことの次に嫌!」

「よかったな! 俺の方が怖い殺し方できてたな! ごめんな! トラウマ与えちゃって!」


 しかし、アンデッドじゃないとしたら、そいつの正体は一体何なんだ……?

 もし、バグと関係があるのなら、取り除いて損はないはず。

 こいつの頼みを聞くのは何だか釈然としないが、ユカリを助けるためと思って受けてみるか。


「……なぁ、シロナ。この話だけど、お前はどうおも……」


 シロナに視線をやると、燃え尽きたように真っ白な状態で口から魂が抜けているかのように気絶していた。


「シロナ!? 大丈夫か!?」


 巫女であり神官であり、のはずなのに、霊に弱いとは……。

 これは先が思いやられる。と言っても、俺も本物の霊は怖いし嫌なんだけど……。


「ねぇ、この依頼引き受けてくれる!?」


 目を潤ませながらカリンが俺にしがみついて懇願している。

 そりゃあ嫌だよね、幽霊なんて殺せないもの!


「まぁ……力を貸してやってもいいんだけどさ」

「本当に!?」


 さっきまで泣きそうな顔をしていたカリンが泣きながら笑顔を振りまいている。


「まさかタダ働きとは言わないよな?」

「あーその話?」


 カリンは急に興味を失った顔に戻った。

 相変わらずこいつの考えていることはよくわからない。


「あたしをあげる……ってのは、どう?」

「いりません、帰ってください」

「失礼ねー……シロちゃんにはドッキドキだったくせにー」

「う……うるさいな」

「ね、神様はシロちゃんのこと好きなの?」

「何でいきなりそんな話に……」

「えー? なんとなくだけど」

「……まぁ、良い子だとは思うけどな」


 相変わらず口から魂が抜け出ているような表情で固まっているシロナを見ながら答えた。


「健気でさ、不器用だけどまっすぐな性格で、見ていてほっとけないだけだよ」

「ふーん。で、報酬の件は納得してくれるのなら、ぜひお願いしたいんだけど」

「なんで報酬がお前なんだよ……」

「ダメー? かわいい女の子と一緒にお風呂入ったり抱きしめられて寝たりしたいんでしょー?」

「うるさい! これは不可抗力というもので……」

「照れてるなんてかわいいなー神様は」

「……はぁ。まぁ、報酬のことはひとまず置いておく。とにかく、ビギナポストに行ってみよう」

「えー、最高のご褒美だと思うんだけどなぁ」


 カリンは自身のプロポーションを存分に活かしつつ、俺とネゴシエーションを始めているに違いない。そして、この手の話は後々後悔することになるのは色々な体験談(主にアニメや漫画だが)でわかっているつもりだ。

 だが、その甘いささやきに心が動いてしまうのは、男としての性なのだろうか……。

 そんなやりとりをしているうちに、シロナは意識を取り戻したようだった。


「話半分になってしまいましたが……トウカ様。私は、その……幽霊は怖いですけど、頑張ります! なので、カリンの報酬を受けましょう」

「え!?」

「一緒に旅をしてくれるってことでしょうし、カリンを放っておいて何か悪さをさせるよりは、私たちの目の届くところで監視しておいたほうがいいと思います」

「なるほど、それもそうだな。こいつの主である闇巫女とも会えるかもしれないしな」

「じゃあ……契約は成立、ってことで」

「だが、完全に信用したわけじゃないからな!」


 こうして、俺たちの旅の仲間はもう一人増えることとなった。

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