――異世界書紀―― 第二章 第六節 市場街の戦い①
[*Topicks*]〈新生解放〉
管理者権限を持つ者と同行者編成することにより神の職業を得ることができる。神の職業を得ると、ステータス上昇、神性スキルを使用することが可能となる。また、職業に応じて姿の衣装等が変化する。
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「雑魚……よりにもよって、この私を……? 超越した自我に覚醒した新人類であるこの宵闇の魔女様に向かって……笑わせるなと言いたいのはこっちの方よクソガキ。この世界で指を折るほどの数しかいない魔法使い様相手に……図に乗るのも大概にしなさいよねー。ろくに魔法すら使えないくせにー……神様にでもなったつもり?」
「なんだ、よくわかったなぁ。俺が神様だってこと。そんなに神々しいオーラ出てたか?」
「チッ……そこの巫女様ぁ? あんたが祭壇で拾ったこのゴミくず、責任もって黙らせてくれないかなー。保護者はちゃんとしつけしないとー失格でしょー? あー! そっかぁ! そういやあんた、巫女姫とか呼ばれていたくせに魔法すら使えない脳筋だったもんねぇ? これはこれは失礼しましたぁ。ゴミくずが拾ったものはゴミくずってことよねー」
カリンという魔女の高笑いが街に響きわたる。
感情を逆撫でするような見下した嘲笑……シロナの表情に歪みが見えた。
シロナは俯いたまま、何かを言いたそうにしていた。
だが、恐らく本音は出ないだろう。
「この方は、本当に神――」
シロナが叫ぼうとしたのを、俺はシロナの前に手を伸ばして止めた。
「魔法が使えるからなんだってんだ?」
シロナはきょとんとした顔で俺を見ていた。
「俺はな、本当の魔法使いってやつを知ってるぞ。そいつはな、大丈夫? とか、がんばれ! とか、そんな言葉だけで人を癒せるらしい。本当の魔法ってのは、嘘のような、まやかしのようなものだ。ただ、人を傷つける道具じゃねぇ。初め聞いた時は、おいおい……って思ったけど、そんなはちゃめちゃで摩訶不思議な力が使えるやつが本当の魔法使いってやつさ。な、シロナ!」
「……トウカ様」
シロナの表情に落ち着きが戻った。
「私の……していたことは――。民のみんなのこと……ちゃんと魔法で癒せていたのですね」
変わりに、二筋の雫がシロナの頬を伝っていた。
きっと、彼女なりに葛藤があったのだろう。
神殿は、ゲームにおいて治療や蘇生、回復と癒しを司る場所だ。
魔法が使えず、ろくに治療することもできない神殿の主だけど、シロナはシロナなりに精一杯やってきたのだろう。
自分の存在意義を問いながら、その重たい役目という名の孤独を背負って。
俺には見えた――シロナがみんなに慕われて、支えられてきたってことが。
俺の考えすぎだったな――シロナ、お前は――。
合格だよ――。
「……あぁ? 魔法なんて人をゴミのように殺すための道具でしかないに決まってるでしょー? 頭どうかしちゃったー?ゴミ同士の慰めあいなんて見たくないからー。そろそろやっちゃっていいかなー?」
カリンが目配せするように、隣にいる老剣士に視線を送ると、老剣士はため息を着くような仕草をした。
その閉じられた目が殺気を帯びた瞬間――俺の目の前に老剣士が現れた。
その強烈な踏み込みから放たれた横薙ぎの抜刀術が俺の首に届きかけたその時――この場にいたもう一人の剣士によって、その剣は受け止められていた。
「あなたの相手は私です――爺」
「ふむ。やはり只者ではありませんでしたな、姫様」
その目には、既に迷いも弱さも感じられなかった。
自分を信じ、芯を持った真っ直ぐな剣士――。
「シロナ――死ぬなよ」
「はい!」
シロナが老剣士の剣を弾くと、二人は睨み合ったまま市場街の奥へと移動を始めた。
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「さぁて……こちらも始めますかねー。先刻は油断してやられちゃったけど、これだけの人数とモンスターを相手にして防ぎきれるー?」
そう言うと、カリンは詠唱を始めた。
広範囲に渡り、個々の防御力を高める魔法――。
「――防御力向上」
この場を囲む俺の敵全てに魔法効果が掛かったことを示すエフェクト――黄色い光に包まれるような感じで――が現れた。
「まだまだよ――攻撃力向上! 速度向上!!」
こんな幼女の俺に杖で殴られて倒されたことがよほど悔しかったのだろう。
強化魔法を惜しげも無く使っていた。
「これで準備は万端ね――さぁ、行きなさい! 私の下僕たち!!」
カリンはその手をかざして黒衣の者と魔獣たちに命令を下した。
狼のような魔獣はその俊敏な動きでジグザグに、それを追うように黒衣の者達は剣やナイフ、槍など多様な武器を構えてこちらに向かって来る――。
「あはははは! さぁ命乞いでもしたらー? 腕の一本や足の一本くらいで許してあげてもいいわよ!」
なるほど、魔獣が石材で作られた家屋を牙や爪で砕くほどの威力があるのは確かに恐ろしいことだ。
だが、それは俺がなんの変哲もない普通の人間ならばの話――神であるこの俺には……関係ない――!
「管理代行権限――地上に干渉する効果――大穴――!!」
襲いかかる魔獣や黒衣の者達の足元にあるはずの大地がが瓦解する――。
地鳴りする音と共に突如開いた大地の闇に呑まれて全ての魔獣と黒衣の者が消え去った。
大穴はそれらを呑み込むと、また元の地面へと戻った。
静まり返る市場街――ここに居るのは、目を丸くして唖然とする魔女と、ドヤ顔を全力で向ける幼女のみだ。
「私の下僕が……一瞬で……そんな……」
魔女は眉間に力を込め、再び魔獣を2体召喚した。さっきの魔獣よりも一回りデカいことを考えると、上位種と言うところか。
魔獣に攻撃命令を出すと、魔女は箒を浮かべ腰掛けるように座ると、“大穴”を警戒してだろう、宙に浮き、魔獣たちに強化魔法を掛ける。
「あんたもそれなりの魔法使いのようねー……どうやってあんな魔法を操っているのか知りたいけどー……あんたみたいな化け物はさっさと始末しちゃわないとねー!!」
魔女は“水槍”を発動し頭上にいくつもの渦を並べると、箒で飛びながら俺の後ろに回り込んだ。そのタイミングで魔獣の2体が俺を目掛けて同時に襲いかかろうとしている。挟み撃ち、と言うやつだろう。
「勘違いしないでもらいたいな――。俺は魔法なんて使っちゃいない。攻撃技も持っていない。まだLv5くらいの駆け出し冒険者程度だ」
「あんたの戯言はもう聞き飽きたっつってんだよ!!」
「はぁ……仕方ない……地表に創造物を配置――切り立つ剣石!」
俺にたどり着くことはできない。
周囲には無数の先端の尖った岩場を出現させたからだ。
2体の魔獣は突如出現した剣石に刺し貫かれ、まるで百舌の速贄のように為す術なく身動きを止めた。
ついでに魔女の放った魔法も呼び出した剣石によって防がれ、ただの水滴と化していた。
俺が魔法を使っていないと言うことは本当だ。
なにせ、さっきも言った通りこのキャラはまだこの世界に生まれたばかりの駆け出しにすぎない。
でも、なぜ戦えているのか――と聞かれたら、それは、なぜかこの小さいユカリのような姿が持っていた“管理代行権限”のおかげだ。
世界には広大なマップが広がっているが、ゲーム上、それらは配置された創造物データに他ならない。
その創造物を任意の場所に配置したり、広大な自然を表現するために地表や上空に干渉する効果、つまりは地震や台風などの自然現象を引き起こすことができる。
それはつまり――超自然の力を局所的に集約し発動される神の御技に他ならない。
再び唖然とする魔女に向かって、俺は歩み寄った。
「お前が相手にしているのは、ガキでも、ゴミくずでも、魔法使いでもない――この世界だ」




