――異世界書紀―― 第二章 第三節 運命の出会い(後編)
『なぜこんなことになったのだろう――。
わからぬ。全く――何事も我々にはわからぬ――。
理由も分らずに押付けられたものを大人しく受け取って、理由も分らずに生きて行くのが、我々生きもののさだめだ――』
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「(ナニコレ……なんで俺小さなユカリになってんの? ガイコツの強そうなあいつはどこに――って、待てよ……そういえば、俺のデータがセーブされているダイブインセプションって……ユカリの家に置いたままじゃね……?)」
目の前で起きていることが何となく……あくまで仮説だが理解できてきた。
つまり、俺はあのガイコツの姿で作られたデータではなく、全く新しい存在としてログインしてしまった、ということだ。
そして、なぜだかユカリの7〜8歳くらいの姿になってしまっているのは、俺がログインするときに見た夢が原因かもしれない。
ダイブインセプションが夢で見たユカリの姿に似せてキャラクターをメイキングしたのだろう。
姿が祭司なのは……よくわからないけど、ゲームの世界のユカリを小さくした姿であることは間違いない……。
まさか、ユカリが現実逃避しすぎて追いかけてきた俺が異世界の神になるとは……。
しかも幼女に生まれ変わるとは予想外……。
よりにもよってユカリの顔……うわー……あいつに会ったらなんて言われるんだろう……。
なんだか嫌になってきた。
そんなことを考えてうなだれていると、さっき助けた女の子が地面に倒れているのが目に入った。
とりあえず、今の姿のことは保留だ……。
俺は女の子のところに駆け寄った。
「神……様……ユー……カリア……様。私……もう、長く……都……んな…を……」
「お、おい! しっかりしろ!!」
なぜこんなに傷ついているのだろう。
でも、俺の姿を見てすごく安心感を得ているような、美しい少女の表情を見て、どうにかしてやりたい気持ちになった。
魔法は……覚えていない。
技は……先ほどの戦闘プログラムだけだ。
ならば――と、俺は駄目元で管理代行権限を呼び出すことにした。
管理代行権限であれば、今必要なアイテムを取り出すことができるはず――。
特定のキーアイテムは管理者権限によってロックされている可能性があるが、消耗品なら――。
「管理代行権限行使――アイテム、蘇生宝珠を生成」
『管理代行権限を受諾。蘇生宝珠を生成します』
成功だ――。
アイテムを使うのは簡単だ。
宝珠をかざし、心の中で念じれば良い。
アイテムを使用する、という思念に反応し、宝珠は一瞬の青白い輝きを見せたあと、青白い光の粒となって消えていった。
それと同時に、目の前で横たわる女の子の意識が戻った――。
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「なるほど――そんなことがあったのか」
俺は、蘇った女の子から事情を聞いた。
街のこと、友達のこと、今日が特別な日でみんなで一緒にこの河原に来たこと、真っ暗になった市場街で友達の自我が消されてしまったこと、都に住む人間はおそらく全員自我を消されてしまったであろうこと――。
そして、さっき俺が倒した女のことを。
「すまんな……辛いことを思い出させてしまって」
「いえ、いいんです……神様にご報告申し上げることが私の務めなのですから」
悲しそうに俯くその表情を見て、やっぱり俺は生き返らせてしまったことを少し後悔した。
いっそのこと、ここで眠らせたままそっとしていれば、こんなに辛い現実と向き合わなくて済んだだろうに、と――。
俺は、この世界にユカリを助けにきた。
でも、本当の理由は、あの世界で生きることが怖くなっていたからだ。
寝ても覚めても、ユカリがいないことを思い出してしまう世界にいるよりはいっそのこと――彼女の作った世界で、俺も一緒に溶けて消えてしまいたかった。
この女の子に向けているのは、俺の一方的な気持ちなのだろうけど、俺も今現実の世界で起こされてしまったら、絶望の淵に立たされていただろう。
女の子に何も言葉をかけられないままでいた俺を見て、女の子は――微笑んだ。
「でも、こうして神様に生き返らせてもらえて、よかったです」
「……辛くない、のか? 大事な人たちを失ったんだろ? 俺だったら、一緒に消えてしまいたくなるよ」
なんて小さな神様なんだろう。
見た目だけではなくて、心まで小さい気がした。
そんな俺に、真っ直ぐ視線を注いだまま、女の子は言った。
「何をおっしゃるんですか! 私を蘇らせてくださったのは、他でもない神様です。このような神秘に巡り会えて、命を拾っていただけて……そんな命を私は捨てることなどできません。それに、きっと追いかけなんかしたら、怒って追い返されると思いますし」
そうか――俺は軽い気持ちで、この子の命を――運命を変えてしまったのか――。
神に命を拾われた、という俺にはあまり実感のわかない感覚だが、この世界の住人たちにはゲーム感覚で生き返ったり死んだりというその手の考えや概念はないのだろう。
もしも、現実世界で自分の命が蘇らせられることがあったなら、俺はその命をもう一度噛み締めるだろうか……。
それは、その世界にもよるかもしれない。
俺は本当にバカだ――。
でも、それでもいいや、と思えた。
人の命だろうが、なんだろうが、救いたい命は救う。
「確かに、自分で生き返らせておいて変なこと聞いたな。あーあ、俺もあいつに睨まれて追い出されそうだな」
「あいつ……ですか?」
「あぁ……俺の半神、みたいなものかな」
「半神? 神様は完全なお姿ではない、ということですか?」
俺はこの子に事情を話すか迷ったが、話してみることにした。
真っ直ぐな目をした純粋そうなこの女の子になら、なんだか話しても良いような気がしたからだ。
自分よりも小さな体で、態度だけはデカい幼女の俺に、河原という場所でありながら正座をして膝に拳を作って、肩に力を込めてうんうんと聞いてくれた。
俺はこの世界をもう一人の神(あと自由奔放なやつもたまにいたけど)と一緒にこの世界を作ったこと、作った世界の人間に自我を与えたこと、神の住む世界で災いが起き、もう一人の神がこの世界に封じられてしまった、という神話的な話に置き換えて説明した。
何か思うところがあったのか、時おり何かを考えるように女の子は聞いていた――あれ、そういえば……。
「そういえば――名前、聞いてなかったな」
「そうでしたね。大変失礼いたしました。私の名前は、シロナ。シロナ・ソーサレス・ロザリアです」
「シロナか……いい名前だな」
「神様にそう言っていただけるなんて、嬉しいです!」
「俺のことも名前で呼んでくれよ。神様なんて、なんだか仰々しくて」
「そ、そんな! 恐れ多いです……」
「気にすんなって。シロナ達を生んだ神は俺の半神だし、偉い方はそっちの神様だから。俺はトウカ・ユーカリア。トウカと呼んでくれ」
「と、トウカ様……とお呼びすれば良いのですね? なんだろう……すっごく緊張します」
名前呼ぶくらいでなんで緊張するんだよ……と思ったが、神様を名前で呼ぶなんて経験はユカリ以外ないので、俺にもわからない。
まぁ、ちょっとずつ慣れていってもらおう。
「あ、あの! え、えっと……! と……と……トウカ…様…!」
「そんなに自信なさげに呼ばないでくれよ……逆に失礼だぞ?」
「も、申し訳ございません!」
「はぁ……先が思いやられるなぁ。それで、どうしたんだ?」
「は、はい……では――」
シロナは大きく息を吸い込み、そしてゆっくりと吐き出すと、落ち着いた表情を取り戻した。
まぁ、少し緊張しているのは感じられたが。
「トウカ様――私を、いえ、このシロナ・ソーサレス・ロザリアの命、トウカ様にお預けできないでしょうか」
俺は真剣な表情をシロナに向けた。
それに応えるように、身を固くしながらシロナも表情を変えた。
「その代償として……私に、この都を救う力を――魔法の力をお与えください――!」




