――創世記―― 第一章 第七節 霹靂
「――次は、今日の天気です。今日は夕方から夜にかけて積乱雲が発生し雷雨となる模様です」
無機質な機械音声が自宅のクリアボード――ネットニュースや番組を写すテレビ――から流れてくる。
ここ数年でニュースキャスターはほとんど見かけなくなり、バーチャルな空間からアニメのようなキャラクターが人間に近い発音でニュースを読み上げるようになった。
確かに、人間に近いと言えば近いのだが、未だどこか違和感を覚える。
いつしか記事で読んだ、“不気味の谷”現象に近いのだろうか。
芸術やロボット工学で、人間に近づけば近づくほど不気味さや嫌悪感を覚えるという現象。
そういう意味では、ユカリの子どもたちは自然な感情を持つことができていた。
仮想現実世界において完成された電子生命体なのだろうか。
だとしたら驚異の大発明のはずなのだが、そうした生命を創造したのが幼馴染で面倒臭がりの女子大生だということが妙に変な感じだった。
あれからユカリは自我の育成に力を注いでいた。
肝心のゲームデザインは……と言うと、「ある程度はできている」という回答しか得られなかったが、開発ログを見るに、魔法や職業といったゲームシステムやゲームイベントなどは以前に大方出来上がっているようだった。
とは言え、人生がかかっている課題さえ後回しにするほどの物臭なユカリの作成物なので、肝心なところはプレイヤーに委ねるようだ。
つまり、ユカリが作った魔法や技などの定型的なものはモンスター用であり、プレイヤーによる能動的なスキル習得が可能なゲームである、ということになる。
以前、俺がアカネと戦った時に使った技は俺の自前で作った技だし、アカネのとんでもないかかと落としのような蹴り技もアカネ自身の作った技だ。
……今までにこんなゲームがあっただろうか?
魔法や技までプレイヤーに作らせるゲームなど、ゲームではない……もはや、第二の世界だ。
ということが俺をこのゲームに引き込む要因となっていた。
ゲームのやりすぎで頭痛がしているが、そんなことは気にしていられない。
あんなにも依存性が高くハマれるゲームは、きっとこの世にないだろう。
朝飯のトーストとコーヒーを胃袋に流しこみ、俺は今日もユカリの元へと急いだ。
◇◇◇
「ねぇ、トウカ――」
「ん?」
「なんでさ……手伝ってくれたの?」
「……お前が勝手にこの世界作り始めたんだから、あとは手伝うくらいしかなかっただろ」
「違う。それじゃなくて……」
「……あぁ、プレゼン?」
「そう、プレゼン」
なんという情報量の少ない会話だろうか……と感じずにはいられないが、小学生の頃からの付き合いである俺たちの会話は本来こんなものだ。
小さい頃からずっと一緒にいると、会話する時に何か気恥かしさを覚えてしまうのだ。
「別に……理由は、ないけど」
おかしなのは、今ここにいるのは司祭の格好をした幼馴染と、ゴツい鎧を着たガイコツが会話をしているというところだろう。
「そっか」
「……お前の返事はいつもそっけないよな」
「別に、いいじゃん」
「まぁ、いいんだけどさ……っつーか、お前、いい加減研修レポートやれよな」
「あたしはね、今忙しいの」
「……はぁ」
お互いそれぞれの作業を進めながら会話をしていた。
俺は武器や道具のシステミング、ユカリはイベントプログラムの作成を進めていた。
お互いに違う方を向いて作業を進めているが、俺はユカリのことが気になっていた。
「……まぁ、なんて言うのかな、その……」
歯切れの悪い口調で、俺はちょっと恥ずかしいことを言い出そうとしていた。
「……心配なんだよ、昔から」
「……もう、あたし、子どもじゃないんですけど? 今回のプレゼンだって全部自分でやれたし、いつまでも――」
「そうかよ……」
素直になれないのはお互い様だが、決まってこう言う時、俺はムキになっていた。
ムキになってしまうのは何故かって――そんなの……。
心の奥底ではそんなことは思っていないはずでも、表面的な羞恥心がそれの邪魔をする。
俺たちが喧嘩をするときは、いつだってそんなくだらないことがきっかけだった。
今日だけは、素直になっておけば……未来のことを知っていれば、全知全能の神ならば見通せたのかもしれないが、この時の俺にはわかるはずもなかった。
だから、あんなことを言ってしまったんだ。
「あーあ、心配して損した。じゃあ勝手にやってろよ」
そう言って、俺はゲームからログアウトした。
◇◇◇
その日の夜だった。
発達した低気圧が積乱雲を活発化させ、街に落雷が発生した。
市内の大半は停電に見舞われた。
その雷が落下した場所は――。
ユカリの住む家のすぐ側だった――。




