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――創世記―― 第一章 第六節 神の集い(後編)

「じゃーん! あたしが生み出した、NPCを紹介しまーす! ほら、挨拶して」


 ユカリが少女の背中に手を当てながら促すと、モジモジ手を動かしながら少女は名前を告げた。


「……イブ……」


 俺は衝撃を受けていた。


「まさか……本当に?」

「そ、自我を持つNPCだよ」


 この子から聞こえた声は、2週間前に王国の店でNPCと話したときの雑音と音声のようなものではない、この少女本人から放たれた肉声なのだから。

 それ以上に――。


「イブって言うのか。よろしくな、俺はトウカだ」


 そう言いながら顔を近づけたが、なんの反応もなかった。


「……俺の顔、怖くないのか?」

「……怖く、ない……かっこいい」


 かっこいい……だと!?

 思わずテンションが上がって宙を舞うような勢いだった。

 が、冷静に分析すると、自由な質問に自由に答えているあたりからして、ちゃんとコミュニケーションが成り立っている証拠だと確信した。


「あのさぁ、まだ生まれたてなんだから、ガイコツがどういう存在なのか知らないだけだよ」

「なるほど……」

「えっと、この可愛らしい子が、AI……なんっすか? なんか、信じられないっていうか」

「まぁそうだよね。でも、さっきも言ったけど、この子はまだまだ生まれたての自我なの。今の状態だと、ようやく自由意思が持てたところかな」

「そうなんっすか……戦えるんっすか?」

「んーある程度の戦闘はプログラムされてると思うんだけど、自由意思で戦うというのとはちょっと違うかな。ほら、ゲームでCPUとバトルしたことあると思うけど、今のプログラムの感じだとひたすら敵に突っ込んでいくくらいの、単調な戦闘しかできないかも」


 淡々と説明するユカリの言葉を聞いて、イブは俯きかけていた。


「あ、イブが悪いんじゃないからね! 神であるあたしが悪いの!」


 下唇を噛み締めるような表情のイブに、ユカリはしゃがんで視線を合わせながら言った。


「いい? イブ。あなたはこれから、色んなことを学習するの。色んなことを見て、色んなことを感じて、色んなことを思うの。それがあなたを強くするし、あなたに色んな可能性を与えてくれるから」

「可能性……?」

「そうだよ、イブ。あなたにはこれから、多くの自我たちを導いてもらいたいの。あたしが居ないときには、あなたがあたしの代わりに自我たちを、この世界を守って欲しい。約束できる?」

「約束……?」

「そう、約束。2人の間で決めたことを守る、ってことだよ」

「……うん、わかった。アダムとイリスにも、伝える」


 そう言うと、物陰に隠れていた少年と少女の元へイブは駆け寄って行った。

 きっと、あの子たちがアダムとイリスなのだろう。

 しかし、先ほどのイブに対するユカリの接し方には驚かされた。

 こんなにも母性を感じるユカリを初めて見た。


「さすが先輩……ウチも可能性を信じるっす……」


 涙を流しながら神を崇拝するかのごとく、アカネは両手を組みながら何かを誓っていた。



 ◇◇◇



 それから数日が過ぎ、俺とユカリはイブたちに世界を見せながら色々なことを教えた。

 アカネはこのゲームが気に入ったらしく、自分の国を作るっす! と言い残して熱心にデザインしているようだ。

 イブやアダム、イリスはとても可愛い――いや、いやらしい意味ではない。

 純粋に親心としての可愛さを感じていた。

 自分の子どもが純粋に育っていく様を見ているようで、微笑ましい気持ちになったのだ。

 時折、俺やユカリの戦いを真似て3人でやりあっているのだが、チャンバラも良いところだった。

 しかし、それが本当に愛おしいと言うか、早く成長した姿を見てみたい。

 こいつらはNPCであり、人工知能を持ったゲームの中の存在でしかないはずなのに、本当の子どもを育てているような感覚だった。


 そして、俺がこの子たちに親としての格を見せねばならぬ時がやってきた。

 アカネが満足げな表情をしながら戻ってきたのを見計らって、ユカリが提案を始めたのだ。


「さて、そろそろこの子たちにも戦いの学習を積まないとだな」


 ユカリの提案に乗ってきたのはもちろん……。


「面白そうっすね! クヌギ先輩、ウチとタイマンで戦ってほしいっす」

「ほう……俺とゲームで戦いたいとは」


 視線で火花を散らす俺とアカネ。

 その光景を輝くように綺麗な瞳で見学するイブ、アダム、イリス。そしてユカリ。


「……ガイコツさん、かっこいい」

「……魔獣の姉ちゃんも強そう」

「……ユーカリア様は戦わないの?」

「あたしは面倒くさいからパス。じゃあ始めちゃって」


 ユカリの言葉を合図に、俺とアカネの激闘が幕を上げた――。


「武器は装備しなくていいのか?」

「……骨相手にそんなもん必要ないっすよ。」

「覚悟はいいか?」

「そんなもん、初めっからできてるっつーの!」


 アカネは地面を勢いよく蹴り、瞬時に俺との間合いを詰めてきた。

 腕を思い切り引き締め、いかにも拳を叩き込もうとしている素振りを見せながら――だが、それは――。


 フェイントだ――。


 アカネは飛び込む勢いを利用し、その足の反動を使って蹴りを放ってきた。

 それを読んでいた俺は、スキルを発動する。


「――“静かなる幻影(サイレントファントム)”」


 その場に自身の幻影を残し、本体は地面を這うように動く影となって一定距離内の任意の場所に移動することができる。

 幻影をすり抜けて間もないアカネの真横に飛び出した俺は、構えていた大剣を勢いよく振り下ろした。

 アカネはそれをスレスレで仰け反って躱し、宙返りをしながら着地すると、負けじとスキルを使ってきた。


「――“龍爪(ドラゴニッククロー)”」


 アカネの両腕、両脚にスキルによる攻撃範囲拡大効果を持った龍の爪のようなエフェクトが現れた。

 四方八方を飛び回るようにしながら少しずつ間合いを詰めてくる。

 俺はただ、悠然と身構えるだけだ。

 その動きを見極め、先読みして反撃に出る。

 俺の決意を知ってか知らずか、アカネは上空に跳躍し、急降下に合わせスキルを発動した。


「――“巨獣の激震エル・ギガント・ストンプ!!」


 跳躍と同時に真上へと蹴り上げた足を振り下ろした。

 俺はギリギリでかわすことができたが、地面に叩きつけられた破壊力は凄まじく、地面が陥没し、周囲には地割れが走った。

 地割れからは攻撃によって込められたエネルギーが衝撃となって飛散している。

 俺はその衝撃を大剣でガードしたのだが、龍爪の効果によって防御を貫通しダメージが入ったようだった。


「へへ、先制はいただいたっすね」

「ふぅ、やはり一筋縄ではいかないな……さすがだよ。反応速度も反射神経も。あの一刀を躱せるなんてね」

「あんなの、止まって見えたっすよ!」


 ――第2ラウンドの開幕だ。

 今度は乱打戦に持ち込むようだ。

 勢いづいたアカネは拳や蹴りを連続して放ってきた。

 

 始めは大剣でガードできていたものの、俺の癖を理解したのか、アカネは的確に隙をついて打ち込んでくる。

 しかも、時折スキルを混ぜ込み確実に俺にダメージを与えてくる。

 やはり、格闘技の天才はゲームでも顕在か――。

 こんな天才に、現実で運動神経が非凡だった俺は敵わないだろう。


 否。たとえ天才であっても、ゲームにおいては培われた勘によって左右される。

 相手の癖を読み、そして自分の得意な戦い方に引きずり込む。

 そう、俺は、相手が優勢になり油断が生まれるのを待っていた。


 その矢先だった。


「(このままなら楽勝で勝てる! ウチはノーダメージだけど、相手はあと2割くらい。だったら、ちょっとくらい相手の手の内を見てもいいよね――)」


 アカネが連打を緩めたその瞬間を、俺は見逃さない――!


「――“五大属性の亡霊フィフスエレメンツコープス”召喚!」


 俺は5体の亡霊を召喚し、アカネに攻撃命令を出した。

 5体の亡霊はそれぞれ火・水・風・土・雷の属性が宿る浮遊型の召喚モンスターであり、俺の思うがままに操作することができる。

 まさに、このゲームの醍醐味である思念伝達を組み込んだスキルだ。

 四方八方から様々な属性攻撃を与え、アカネがそいつらに気を取られている隙に“静かなる影”で間合いを詰め――。


「終わりだ。――“断罪の獄剣(ヘル・ジャッジメント)”!!」


 上段に構えた大剣に地獄の炎が宿る。

 急激に加速されたその一振りが残像となり、残像は炎の赤い軌道を残しながら、アカネの体を縦半分へと切り裂き、地面に叩きつけられた大剣から地面を割って地獄の業火が衝撃波のように切り裂かれた体を吹き飛ば(ノックバック)した。


 勝負は一瞬だった。

 もちろん、俺のキャラクターの方がアカネよりもステータスが高かったことが勝因ではあるが、その一瞬を見逃さないゲームの勘というものが俺にとっての強みであった。


 アカネは悔しそうな表情を残しながら、光の粒子となって消えていった。

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